1. 【1】このような水や空気のむらを
非常に
鮮明に見えるようにくふうすることができます。【2】その
方法を
使って
鉄砲のたまが空中を
飛んでいるときに、
前面の空気を
押しつけているありさまや、たまの後ろに
渦巻を
起こして
進んでいる
様子を
写真にとることもできるし、また
飛行機のプロペラーが空気を切っている
模様を
調べたり、そのほかいろいろのおもしろい
研究をすることができます。
2. 【3】近ごろはまたそういう
方法で、
望遠鏡を
使って空中の高いところの空気のむらを
調べようとしている
学者もいたようです。
3. 【4】
次には
熱い茶わんの
湯の
表面を日光にすかして見ると、
湯の
面に
虹の色のついた
霧のようなものが
一皮かぶさっており、それがちょうど
亀裂のように
縦横に
破れて、そこだけが
透明に見えます。【5】この
不思議な
模様が何であるかということは、
私の
調べたところではまだあまりよくわかっていないらしい。しかしそれも前の
温度のむらと何か
関係のあることだけは
確かでしょう。
4. 【6】
湯が
冷えるときにできる
熱い冷たいむらがどうなるかということは、ただ茶わんのときだけの
問題ではなく、たとえば
湖水や海の水が冬になって
表面から
冷えて行くときにはどんな
流れが
起こるかというようなことにも
関係して来ます。【7】そうなるといろいろの
実用上の
問題と
縁がつながって来ます。
5.
地面の空気が日光のために
暖められてできるときのむらは、
飛行家にとっては
非常に
危険なものです。いわゆる
突風なるものがそれです。【8】たとえば森と
畑地との
境のようなところですと、
畑のほうが森よりも日光のためによけいにあたためられるので、
畑では空気が上り森ではくだっています。それで
畑の上から
飛んで来て森の上へかかると、
飛行機は
自然と下のほうへ
押しおろされる
傾きがあります。【9】これがあまりにはげしくなると
危険になるのです。これと同じような
気流の
循環が、もっと大
仕掛けに
陸地と海との∵間に行なわれております。それはいわゆる
海陸風と
呼ばれているもので、昼間は海から
陸へ、夜は
反対に
陸から海へ
吹きます。少し高いところでは
反対の風が
吹いています。
6. 【0】これと同じようなことが、山の
頂きと谷との間にあって、
山谷風と名づけられています。これがもういっそう大
仕掛けになって、たとえばアジア
大陸と
太平洋との間に
起こるとそれがいわゆる
季節風(モンスーン)で、われわれが
冬期に
受ける北西の風と、
夏期の南がかった風になるのです。
7. 茶わんの
湯のお話は、すればまだいくらでもありますが、
今度はこれくらいにしておきましょう。
8.(寺田
寅彦 大正十一年五月、赤い鳥)