長文集  1月2週  ○まぼろしのにしきごい  se2-01-2
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2010/09/28 13:38:43
【1】(いないかなあ。いるにちがいない。

 などと、心にいいきかせては、ふみちゃん
のこいをむちゅうでおいつづけました。
 ふしぎなことに、いつのまにか、ぼくの頭
の中をすばらしいにしきごいが、すいすいと
およぎはじめていました。【2】こがねいろ
一しょくの目のさめるようなこいなのです。
 用水のどては、夏草がおおくて、やぶかが
たくさんいます。「ぶわんぶわん」といっせ
いにとびだして、ぼくのからだを、ところか
まわずさしまくりました。
 【3】けれども、それが、その日にかぎっ
て、ふしぎと気にならないのでした。にしき
ごいにとりつかれてしまったぼくには、すこ
しぐらいのちを、やぶかにすわれても、それ
は、たいしたことではなかったのでしょう。

 【4】ふとみると、用水のそばに池があり
ました。池はあさくて水はきれいにすんでい
ました。(はてな、見たことのある池だ  
な。)
 「ちらりっ」とそんなおもいがしました。
 でも、そのしゅんかん、ぼくは池の中の大
きなこいたちのむれ に、気をとられていま
した。
 【5】池には、赤・青・黒のたくさんのま
ごいたちが、ゆうゆうとおよいでいたからで
す。
 きれいにすんでいる水の中を五十センチほ
どもあるこいたちが、ひとつのかたまりにな
って、すいすいとおよいでいるようすは、ぼ
くをうっとりさせてしまいました。【6】な
んだか、ゆめの国にいるみたいでした。
 そして、このゆめの中のぼくは、ふみちゃ
んにおそわったあのにしきごいが、この池の
中にきっといるとおもいはじめたのです。す
ると、どうでしょう。【7】たくさんのまご
いのあいだを、まるで女王さまのようにゆう
ゆうとおよいでいるあのにしきごいがいたの
です。あかるい目のさめるような、こがねい
ろのこいでした。
 それは、さっきから、頭の中を、いったり
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きたり、ちらちらちらちら光って見せる、ふ
みちゃんにきいた、あのこいだったのです。
 【8】ぼくは、かかえていたカバンをなげ
すてました。ズックぐつをぬぎ、「すたすた
っ」と、おもわず池の中にはいっていきまし
た。
 ところが、どうしてどうして、こいはすば
しっこいさかなです。ばさばさ! と大きな
水音をたてて、いっせいににげはじめたので
す。
 【9】たちまち池の水は、にごってしまい
、もう、一ぴきのこいも見えなくなりました
。それにぼくは水しぶきをあびて、ずぶぬれ
にされたのです。∵
 ぼくは、きゅうにこうふんしてきました。
からだの中で、むらむらっと、むちゃくちゃ
の虫がうごきはじめたのです。
【0】(ええ! どうにでもなれ。ようし、
一ぴきはかならずつかまえるからな。)
と、むちゅうになって、むちゃくちゃ虫のい
うままにうごきはじめたのです。
 まず、池のかたほうのはじから、こしをか
がめ、りょう手を水の中にいれて、すばやく
ひらいたりちぢめたりしながら、こいの大軍
をもういっぽうのはじに、「じわじわっ」と
、おいつめていきました。
 おいつめられたこいたちは、びっしりとせ
をかさねあいながら、「ばしゃばしゃ、ばし
ゃばしゃっ」と、大きな音をたてています。
 ぼくは、
(えい!)
と、気あいをかけて、むちゃくちゃにこいの
中へつっこんでいきました。
 ところが、それがいけなかったのです。お
いつめられた数百ぴきのこいたちが、なんと
いっせいに、ぼくにむかってたいあたりをし
てきたからたまりません。水の中へ「ずでん
」とあおむけにひっくりかえされ、そのうえ
、あっぷあっぷと、どろ水をたんまりとのま
されてしまいました。
 さあ、ぼくのはらの虫がおさまりません。
「ちくしょう、やったな。」
と、おもわずさけんでいたのです。
 もう、にしきごいなどどうでもよくなりま
した。いまは、ただ、このぶざまなまけいく
さのめいよばんかいのために、こいたちを、
めっちゃくちゃに、やっつけたくなりました


『いたずらわんぱくものがたり』「まぼろし
のにしきごい」(代田昇)より