長文 1.3週
1. 【1】はたけは、麦をかりとったあとで、すっぺりとしていました。わたしは、いっしょうけんめいはしりました。みなもおってきます。
2. ところが、そのうち、わたしは、足のうらがあつくてたまらなくなりました。【2】そのころのわたしたちは、みんなはだしでしたから、夏の日ざしにやけた土は、ちょうどすなはまとおなじように、あつかったのです。
3. それで、わたしは、はしりながら、草がすこしかたまってはえているようなところをえらんで、ふむようにしました。
4.【3】(しめた、これならあつくないぞ。)
5. そうおもいながら、五、六ぽもいったでしょうか。お神明しんめいさんは、すぐそこです。
6. そのとき、
7.「あいたあっ!」
8. 右足のうらに、ひどいいたみをかんじて、わたしはとびあがりました。きりでもズブリとさしとおしたようなかんじです。
9. 【4】一ぽ、二ほ、たたらをふむと、土の上にころがりました。かずまくんやいくおくんたちは、すぐにとんできました。
10.「どうした。」
11.「へびか。」
12. わたしは、しりもちをついたまま、右足を見ました。なにか、つきささっています。【5】くぎです。赤くさびた、五寸くぎごすん  です。ブッスリとはいりこんでいます。いたみが頭のしんまでつきとおります。
13.「すぐにぬいてしまわなきゃなんねえど。」
14. かずまくんは、そういうと、いきなりわたしの足をかかえ、つきささっているふるくぎをつかむと、おもいきりつよく、グイとひきぬきました。
15.【6】「ああっ!」
16. おもわずひめいをあげましたが、もうそのときには、くぎはとれていました。
17.「三センチぐれえも、へえってたな。」
18. いくおくんが、まゆをひそめてわたしを見ています。わたしは、りょう手でその足くびをにぎりしめました。【7】ちがすこしでてきましたが、ぬいたあとはすぐふさがりそうにも見えます。
19.「あるけるか。たってみろよ。」
20. 左足に力いれて、そっとたってみました。いたみはたしかにかんじますが、つまさきをちょっとつけるようにすれば、あるけないこともなさそうです。∵
21.【8】「かたなをつえにすればいい。」
22. いわれたとおりやってみると、いかにもちゃんばらでやられたゆうしのような気になりました。
23. ちゃんばらごっこは、それでちゅうし。みんなでお神明しんめいさんのまえで、しばいごっこなどをして夕方まであそび、家へもどるときには、もうそのけがのことは、ほとんどわすれていました。
24. 【9】さて、これですんでいればなんということもなかったのですが、つぎの日になって、この足が、いたみだしたのです。赤くはれだした足のうらは、すこしずつ、いたみをましてきました。
25. 【0】しかられるかもわからないとおもったわたしは、いつかいたみがひくことをねがって、こらえていましたが、どうにもこうにも、がまんしきれなくなりました。ズキンズキンと、ほねでもきられるようないたさです。
26. たぶん、その夕方だったでしょう。足をおさえてころげているのを、兄かあねが見つけ、母にしらせました。母は、いそいでやってくると、赤くはれた足のうらを見るなり、さけびました。
27.「なにをしたんだえ、この足は。」
28. わたしは、いたみになみだをながしながら、けがをしたときのことをはなしました。とたんに、母は、いきなりわたしのほおを、パシッとたたきました。
29.「なんで、すぐさまいわなんだがや!」

30.『いたずらわんぱくものがたり』「ちゃんばらごっこのけが」(かつおきんや)より