長文集  2月1週  ○赤ナスとおまわりさん  se2-02-1
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2010/09/28 13:39:37
 【1】ところが、千曲川のいきは、はやく
はやく川へいきたいばっかりでしたが、かえ
りに、この目のさめるような赤ナスばたけの
そばをとおるときは、子どもたちの心は、大
きくゆらぎました。だいいち、さんざ水をあ
びてつかれていました。【2】いきはよいよ
いかえりはこわいのうたのように、子どもた
ちは、身も心もだれきっていました。一休み
して水がほしかった。そこへもってきてさか
をのぼりつめたとたん、この赤ナスばたけの
ふうけいは、たまらなかったのです。
 【3】その日はどういう日だったか、がま
んしきれないで、はるきち、よしお、ちよの
三人で、ちよはわたしでした。とうとう、一
つとってたべてみようということになって、
はるきちがはたけへはいり、よしおとちよが
、見はりばんでした。
【4】「すみのほうのをもいで、すぐにげだ
せばいいぞ。」
 はるきちは、こしをこごめて、わたしたち
からはなれていきました。よしおは、家へは
いる道のトマトの木にかくれ、ちよは、すこ
しはなれたところにたって、家のほうを見つ
めて、見はりをしていました。
 【5】ここで三人は、ちょっとけいさんち
がいをしていたので す。家の中から人がで
てくるということばかりかんがえて、見はり
ばんをしていて、うしろからだれかくるかも
しれないということ は、かんがえてもみな
かったことです。【6】それだけ、人どおり
のないところだったせいもあったかもしれま
せん。
赤ナスの木の葉のかげに、はるきちの頭が見
えていましたが、すぐ見えなくなりました。
「とったなーっ。」
 ちよは、むねがどきんとしたけれど、こん
なにあるんだから、一つや二つわかるものか
と、気を大きくしていたときです。【7】ま
ったくおもいがけないことになりました。わ
たしのたっているうしろから、
「これこれ、赤ナスがほしいのかね。」
 わらい顔でひんのいいおばあさんがふろし
きづつみをかかえて、こうもりがさをさしか
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けたまま、よびかけたのです。
 【8】わたしは、はっとしたまま、にげだ
せません。はるきちとよしおは、それっ! 
とばかり、ふたたび千曲川のほうへ、ころげ
るようににげだしました。わたしは、こまっ
てしまいました。
「女の子がこんなことをすると、家の人がか
なしがりますよ。」
 【9】やさしいことばでした。
「どこのむすめさんだね。」∵
 わたしの顔を、しげしげとながめています

(おまえは、男の子ばかりとあそんでいて、
らんぼうでこまったものだ。)
 おかあさんの顔といっしょに、毎日のよう
にいわれていることばが、すーっと頭の中を
とおりすぎました。

 【0】それからあとは、そのおばあさんが

「赤ナスの、とったのがうちにあるからあげ
るで、ふたりをよんでおいで。」
といって、家の中へはいりました。おばあさ
んが、家へはいるのを見とどけると、わたし
は、ふたりのあとをおって、いっきにさか道
をおりていくと、谷のほうへ、えだぶりがよ
くでている大きなまつの木のねもとに、ふた
りともしょんぼりこしをおろしていました。
わたしを見ると、
「じゅんさがきたかよ。」
 はるきちの大きな声でした。よしおのほう
は、とおまわりだが、三の門のほうから家へ
かえろうと、あるきだしました。三人はさっ
きの元気はどこへやらで、日はくれかかるし
、心ぼそかったし、それよりも、はるきちが
赤ナスをとったのか、とらなかったのか、そ
んなはなしもひとこともでないで、とおまわ
りの道のほうへ、おもくなった足をはこびま
した。

『いたずらわんぱくものがたり』「赤ナスと
おまわりさん」(宮口しづえ)より