長文 2.2週
1. 【1】母まで、まるでわたしのことなどわすれたように、白いまえかけのひもをきゅっとむすぶと、もうながしばのほうにいってしまいました。
2. わたしはしかたなく、かつよねえちゃんを、よこ目でひとにらみしてから、うらにわのむこうのはなれにいきました。
3. 【2】はなれでは、太郎たろうくん、みっちゃん、としぼうたち、ちびすけばかり五、六人が、ひとかたまりであそんでいました。
4.「あ、ゆう子ちゃんだ。」
5.と、みっちゃんがとびついてきました。みっちゃんは、わたしより一さい年下のなかよしです。【3】でもわたしは、ぶすっとつったっていました。このままはなれでちびすけたちのあいてをするなんて、じつにつまらないことにおもえてきたからです。
6.「ねえ、あそぼうよ。」
7. みっちゃんがわたしの手を、しきりにひっぱります。【4】そのとき、いいことをおもいつきました。家の中のたんけんをしてやろう、とおもったのです。
8.「みっちゃん、おいで。」
9. わたしはみっちゃんをつれて、いそいではなれをとびだし、うらにわのしげみにかくれて、ざしきのようすをうかがいました。
10.【5】「なにするの。」
11.「しっ、だまって、たんけんよ。」
12.「たんけん?」
13.「うん、そうっと家の中にはいってなにかいいものさがしだそう。かあちゃんたちに見つからないようにね。」
14.「見つかったらいけないの?」
15.「そうよ、見つかったら、たんけんにならないよ。」
16.「うん、おもしろそうだね、たんけんって。」
17. 【6】みっちゃんはすぐにうなずきました。みっちゃんは、いつもわたしのいうなりになるのです。
18. ふたりはざしきのよこにまわり、ろうかのすみっこから家の中にしのびこみました。そしてまず、ふろばにとびこみました。
19. 【7】ざしきのほうからきこえてくる、おじいさんたちのはなし声やわらい声。だいどころの水の音、おさらのふれあう音や足音。いろんな音に耳をすましながら、ふたりは、かがみのまえでくびをすくめてくすりとわらいました。
20.【8】「あ、かあちゃんの声だ。」
21.みっちゃんが、とびだそうとしました。
22.「だめ、みっちゃん。見つかったら、また、はなれにつれもどされるよ。」∵
23. それからふたりは、かべにそって、そうっと、そうっと、せ中をまるめてあるきました。
24. 【9】だいどころのそばの、小べやのまえまできたときです。
25.「あれ、なに?」
26.と、みっちゃんがゆびさしました。
27. せまいへやじゅうには、おさらをだしたあとの木ばこなどが、ほうりだしてありました。【0】そのまん中にテーブルが一つ、そしてテーブルの上に、なんだか大そうおいしそうなものが、どんぶりに山もりにおいてあるのです。
28. だれもいません。ふたりはテーブルにかけよりました。
29. どんぶり山もりのおいしそうなもの、それは金いろにつやつやともりあげた、きんとんでした。見ているだけで、ツバがでてきそうです。
30. みっちゃんがぶすりとゆびをつっこんで、ひとなめしました。
31.「わっ、おいしーい。」
32. わたしも、やわらかい金いろの中に、おもいっきり人さしゆびをつっこんで、きんとんをすくいました。
33. あまくてあまくて、とろりと口いっぱいにとけそうです。すくってはなめているうちに、気がとおくなりそうな、おいしいきんとんです。

34.『いたずらわんぱくものがたり』「きんとんきんとんくりきんとん」(山口勇子ゆうこ)より