長文集  3月1週  ○バクチクをなげろ  se2-03-1
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2010/09/28 13:40:03
 【1】小屋の中には、なん十頭ものブタが
います。もし、それらのブタがバクチクにお
どろいて、小屋をとびだしたらどうなるでし
ょう。町じゅうは、ブタだらけになってしま
います。どうろというどうろにブタがあふれ
、家の中にまで、ブタがとびこんでくるでし
ょう。【2】ブタは、おひつをひっくりかえ
してごはんをくうかもしれません。ちゃだん
すから、おかずをくわえだすかもしれませ 
ん。もしかしたら、ねている赤んぼうにかみ
つくかも……。
 ぼくのひざこぞうは、がくがくしてきまし
た。
【3】(にげちゃおう!)と、おもったとき
です。
コウちゃんが、
「火をつけろ!」
と、めいれいしました。小さいけれど、力の
こもった声です。
 ふたり一組になって、ひとりがバクチクを
もち、もうひとりがマッチをするのです。【
4】ぼくは、サブちゃんと組でした。ぼくが
マッチをするやくですが、なかなか火がつき
ません。マッチぼうを三本もおってしまいま
した。やっと火がついたら、こんどはサブち
ゃんの手がふるえるので、うまくバクチクに
火がつきません。【5】いや、ほくの手だっ
て、ふるえていたのです。
 そのうらに、シュルシュルシュルという音
がきこえました。コウちゃん、ヘイちゃん組
のバクチクのどうかせんに、火がついたので
す。つづいて、チヨちゃん、クンちゃん組の
バクチクにも火がつきました。
【6】「それっ。」
 コウちゃんが、バクチクをさくの中になげ
こみました。クンちゃんもほうりました。す
ると、サブちゃんはあわてて、まだ火がつい
てもいないのに、ほっぽりだしました。
 ぼくらは、もうあとも見ないでかけだしま
した。【7】ブタ小屋のつうろはじめじめし
ていて、よくすべるので、あまりはやくかけ
れません。サブちゃんが、すてんところびま
した。
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「ゲンちゃん、まってえ。」
 サブちゃんのなき声がうしろできこえまし
たが、たすけてやるどころではありませんで
した。
 【8】ぼくらは、ブタ小屋をとびだそうと
したとき、ばったり社長とはちあわせしてし
まいました。おもいがけないことだったの 
で、たまげてしまいました。
 社長のほうも、とつぜん子どもたちがとび
だしてきたので、目をまるくしていました。
【9】そのすきに、ぼくらはにげだしてしま
いました。∵
「こらっ、まてえ!」
 社長のどなる声がおいかけてきましたが、
みんないちもくさんにかけました。
 やっとじぶんの家のちかくまでにげてきて
、ほっとしたとたんにぼくらはサブちゃんが
いないことに気がつきました。
 【0】ぼくは、どきんとしました。ころん
だサブちゃんをおいてきぼりにしてきたこと
が、きゅうにすまなくなりました。
「社長に、くびのほねをへしおられたかしら
。」
と、チヨちゃんがいったので、みんなしんぱ
いになりました。
「まさか。」
と、クンちゃんがうちけしました。
「そんなばかなことするもんか。」
 ぼくもじぶんにいいきかせました。
「コウちゃん、バクチクの音きいたかい?」
と、ヘイちゃんがいいました。
「いや、おれもへんだとおもってるんだ。」
 バクチクがはれつしたのを、きいたものは
ありませんでした。あとでわかったのですが
、ブタ小屋のゆかがぬれていたので、火がき
えてしまったのです。
 しばらくすると、サブちゃんが、にやにや
しながら、もどってきました。
 社長は、サブちゃんから、ぼくらがあそび
ばをとられた、しかえしをしたことをきくと

「わっははは……、がきどもやりおるな。」
と、わらったそうです。そして、どろだらけ
のサブちゃんを、水道までつれていって、あ
らってくれたそうです。そして、
「もっと、元気になれよ。」
といって、かたをたたいてくれたそうです。
「とってもやさしかったよ。」
と、サブちゃんはいいました。
 きっと、社長も子どものころわんぱくぼう
ずだったのでしょう。

『いたずらわんぱくものがたり』「バクチク
をなげろ」(長崎源之助)より