長文 1.1週
1. 【1】オリンピックのメダルが一
位から
順に金、
銀、
銅でできているように、金は
大昔から、とても人気のある
金属でした。なにしろ
他の
薬品におかされず、やわらかくてコインやアクセサリーにも
加工しやすく、そして何より
美しかったからです。【2】しかし、金は、一トンの
金鉱石の中から、わずか三グラムから五グラムくらいしか
取れないという
貴重なものです。
2. 今から八百年くらい
昔、ヨーロッパの人々は、
珍しい食べ物や
宝物を
求めて、まだ知られていない海の
向こうの国々へと出かけていきました。【3】その中の一人、マルコ・ポーロは、
旅の
途中で見聞きしたことを
集め、のちに『
東方見聞録』という本を出しました。その中で、
東洋には「ジパング」という名前の「
黄金の国」がある、と書きました。
3. 【4】この「ジパング」というのは、
実は日本のことで、日本の
英語名である「ジャパン」はこれに
由来しています。マルコ・ポーロ
自身は、
実際に日本を
訪れたことはなく、中国で聞いた話として書いただけでした。【5】しかし、この本に「ジパングにはものすごい
量の
黄金があり、国王の
宮殿はすべて金でできている」と書かれていたため、コロンブスも、この
黄金の国を
求めて船出したのではないかと言われています。
4. 【6】ヨーロッパの人が
夢見た「
黄金の国」ほどではありませんが、日本にはかつて
佐渡や
鴻之舞など、とてもりっぱな金
鉱山があり、
貴重な金がたくさんとれていました。しかし、これらの
鉱山もやがて
掘り尽くされ、今ではそれほどたくさんの金をとることはできません。
5. 【7】そこで、
最近注目されているのが、「
都市鉱山」と言われるものです。
実は、パソコンや
携帯電話、
液晶テレビなどの中には、「レアメタル」と
呼ばれる
貴重な
金属が、
少量ずつですが
使われています。【8】その中にはもちろん、金もあります。ですか∵ら、これらの
機械をうまくリサイクルして、その中の
金属を
取り出して
使おう、という
試みが
始まっています。【9】家電
製品などがたくさん
使われている日本には、
世界有数の
都市鉱山があると言われています。
6. 今も
昔も、大人気の金。リサイクルを
進めて、日本は
再び、「
黄金の国」になれるでしょうか。【0】
7.
言葉の森
長文
作成委員会 τ
長文 1.2週
1.【1】(いないかなあ。いるにちがいない。)
2. などと、心にいいきかせては、ふみちゃんのこいをむちゅうでおいつづけました。
3. ふしぎなことに、いつのまにか、ぼくの頭の中をすばらしいにしきごいが、すいすいとおよぎはじめていました。【2】こがねいろ一しょくの目のさめるようなこいなのです。
4. 用水のどては、夏草がおおくて、やぶかがたくさんいます。「ぶわんぶわん」といっせいにとびだして、ぼくのからだを、ところかまわずさしまくりました。
5. 【3】けれども、それが、その日にかぎって、ふしぎと気にならないのでした。にしきごいにとりつかれてしまったぼくには、すこしぐらいのちを、やぶかにすわれても、それは、たいしたことではなかったのでしょう。
6. 【4】ふとみると、用水のそばに池がありました。池はあさくて水はきれいにすんでいました。(はてな、見たことのある池だな。)
7. 「ちらりっ」とそんなおもいがしました。
8. でも、そのしゅんかん、ぼくは池の中の大きなこいたちのむれに、気をとられていました。
9. 【5】池には、赤・青・黒のたくさんのまごいたちが、ゆうゆうとおよいでいたからです。
10. きれいにすんでいる水の中を五十センチほどもあるこいたちが、ひとつのかたまりになって、すいすいとおよいでいるようすは、ぼくをうっとりさせてしまいました。【6】なんだか、ゆめの国にいるみたいでした。
11. そして、このゆめの中のぼくは、ふみちゃんにおそわったあのにしきごいが、この池の中にきっといるとおもいはじめたのです。すると、どうでしょう。【7】たくさんのまごいのあいだを、まるで女王さまのようにゆうゆうとおよいでいるあのにしきごいがいたのです。あかるい目のさめるような、こがねいろのこいでした。
12. それは、さっきから、頭の中を、いったりきたり、ちらちらちらちら光って見せる、ふみちゃんにきいた、あのこいだったのです。
13. 【8】ぼくは、かかえていたカバンをなげすてました。ズックぐつをぬぎ、「すたすたっ」と、おもわず池の中にはいっていきました。
14. ところが、どうしてどうして、こいはすばしっこいさかなです。ばさばさ! と大きな水音をたてて、いっせいににげはじめたのです。
15. 【9】たちまち池の水は、にごってしまい、もう、一ぴきのこいも見えなくなりました。それにぼくは水しぶきをあびて、ずぶぬれにされたのです。∵
16. ぼくは、きゅうにこうふんしてきました。からだの中で、むらむらっと、むちゃくちゃの虫がうごきはじめたのです。
17.【0】(ええ! どうにでもなれ。ようし、一ぴきはかならずつかまえるからな。)
18.と、むちゅうになって、むちゃくちゃ虫のいうままにうごきはじめたのです。
19. まず、池のかたほうのはじから、こしをかがめ、りょう手を水の中にいれて、すばやくひらいたりちぢめたりしながら、こいの
大軍をもういっぽうのはじに、「じわじわっ」と、おいつめていきました。
20. おいつめられたこいたちは、びっしりとせをかさねあいながら、「ばしゃばしゃ、ばしゃばしゃっ」と、大きな音をたてています。
21. ぼくは、
22.(えい!)
23.と、気あいをかけて、むちゃくちゃにこいの中へつっこんでいきました。
24. ところが、それがいけなかったのです。おいつめられた数百ぴきのこいたちが、なんといっせいに、ぼくにむかってたいあたりをしてきたからたまりません。水の中へ「ずでん」とあおむけにひっくりかえされ、そのうえ、あっぷあっぷと、どろ水をたんまりとのまされてしまいました。
25. さあ、ぼくのはらの虫がおさまりません。
26.「ちくしょう、やったな。」
27.と、おもわずさけんでいたのです。
28. もう、にしきごいなどどうでもよくなりました。いまは、ただ、このぶざまなまけいくさのめいよばんかいのために、こいたちを、めっちゃくちゃに、やっつけたくなりました。
29.『いたずらわんぱくものがたり』「まぼろしのにしきごい」(
代田昇)より
長文 1.3週
1. 【1】はたけは、麦をかりとったあとで、すっぺりとしていました。わたしは、いっしょうけんめいはしりました。みなもおってきます。
2. ところが、そのうち、わたしは、足のうらがあつくてたまらなくなりました。【2】そのころのわたしたちは、みんなはだしでしたから、夏の日ざしにやけた土は、ちょうどすなはまとおなじように、あつかったのです。
3. それで、わたしは、はしりながら、草がすこしかたまってはえているようなところをえらんで、ふむようにしました。
4.【3】(しめた、これならあつくないぞ。)
5. そうおもいながら、五、六ぽもいったでしょうか。お
神明さんは、すぐそこです。
6. そのとき、
7.「あいたあっ!」
8. 右足のうらに、ひどいいたみをかんじて、わたしはとびあがりました。きりでもズブリとさしとおしたようなかんじです。
9. 【4】一ぽ、二ほ、たたらをふむと、土の上にころがりました。かずまくんやいくおくんたちは、すぐにとんできました。
10.「どうした。」
11.「へびか。」
12. わたしは、しりもちをついたまま、右足を見ました。なにか、つきささっています。【5】くぎです。赤くさびた、
五寸くぎです。ブッスリとはいりこんでいます。いたみが頭のしんまでつきとおります。
13.「すぐにぬいてしまわなきゃなんねえど。」
14. かずまくんは、そういうと、いきなりわたしの足をかかえ、つきささっているふるくぎをつかむと、おもいきりつよく、グイとひきぬきました。
15.【6】「ああっ!」
16. おもわずひめいをあげましたが、もうそのときには、くぎはとれていました。
17.「三センチぐれえも、へえってたな。」
18. いくおくんが、まゆをひそめてわたしを見ています。わたしは、りょう手でその足くびをにぎりしめました。【7】ちがすこしでてきましたが、ぬいたあとはすぐふさがりそうにも見えます。
19.「あるけるか。たってみろよ。」
20. 左足に力いれて、そっとたってみました。いたみはたしかにかんじますが、つまさきをちょっとつけるようにすれば、あるけないこともなさそうです。∵
21.【8】「かたなをつえにすればいい。」
22. いわれたとおりやってみると、いかにもちゃんばらでやられたゆうしのような気になりました。
23. ちゃんばらごっこは、それでちゅうし。みんなでお
神明さんのまえで、しばいごっこなどをして夕方まであそび、家へもどるときには、もうそのけがのことは、ほとんどわすれていました。
24. 【9】さて、これですんでいればなんということもなかったのですが、つぎの日になって、この足が、いたみだしたのです。赤くはれだした足のうらは、すこしずつ、いたみをましてきました。
25. 【0】しかられるかもわからないとおもったわたしは、いつかいたみがひくことをねがって、こらえていましたが、どうにもこうにも、がまんしきれなくなりました。ズキンズキンと、ほねでもきられるようないたさです。
26. たぶん、その夕方だったでしょう。足をおさえてころげているのを、兄かあねが見つけ、母にしらせました。母は、いそいでやってくると、赤くはれた足のうらを見るなり、さけびました。
27.「なにをしたんだえ、この足は。」
28. わたしは、いたみになみだをながしながら、けがをしたときのことをはなしました。とたんに、母は、いきなりわたしのほおを、パシッとたたきました。
29.「なんで、すぐさまいわなんだがや!」
30.『いたずらわんぱくものがたり』「ちゃんばらごっこのけが」(かつおきんや)より
長文 1.4週
1. 【1】そろばんのもとになるものは、エジプトのピラミッドができるころから
発明されたと言われています。日本にそろばんが入ってきたのは、中国からでした。【2】中国のそろばんは、中国
式計算にあうように、上のたまが二つ、下のたまが五つあり、そのたまは、丸い
球形をしていました。【3】しかし、丸いたまはつるつるして、ずれることがあります。日本人は、ぱちぱちと
動かしやすく、また
動かした
位置でずれにくくするために、上から見ると円で
横から見るとひし形という今の形にしました。【4】また、十
以上になると、となりのたまに
移るように、上のたまを一つにし下のたまを四つにしました。こうして、中国のそろばんよりもすばやく計算ができる日本のそろばんができました。今
世界中に広がっているそろばんは、日本の形のものになっています。
2. 【5】そろばんと
電卓とをくらべてみると、
電卓のいいところは、
使い方がかんたんで、まちがえることがないことです。そろばんは、すばやく計算できるようになるためには、毎日の
練習が
必要です。それに、
動かし方をまちがうと、計算まちがいをすることもあります。
3. 【6】けれど、毎日
練習することで、計算する力が
身につきます。
指先を
動かすことで、
指が
器用になり、
脳の
働きもよくなります。また、計算している数字を、たまのかたまりの
動きとして目でつかめるようになります。【7】何よりも、
美しい木でできているたまをはじき、自分がどんどん上手になっていくことで、
達成感や
気持ちの
良さが
味わえます。【8】
世の中には、
簡単であるからいいというものもありますが、そろばんのように
身につけるまで時間がかかるからいいというものもあるのです。
4. 【9】そろばんは、鳴らすといい音がするので、
楽器のかわりにして
遊ぶ人もよくいます。でも、
床をすべらせて
遊ぶことは
絶対におすすめできません。すぐにこわれてしまうからです。
実はこんなことを書くのも、そうやって
遊んでしまういたずらっ子がけっこういる∵からなのです。【0】
5.
言葉の森
長文
作成委員会 λ
長文 2.1週
1. 【1】ところが、
千曲川のいきは、はやくはやく川へいきたいばっかりでしたが、かえりに、この目のさめるような赤ナスばたけのそばをとおるときは、子どもたちの心は、大きくゆらぎました。だいいち、さんざ水をあびてつかれていました。【2】いきはよいよいかえりはこわいのうたのように、子どもたちは、
身も心もだれきっていました。一休みして水がほしかった。そこへもってきてさかをのぼりつめたとたん、この赤ナスばたけのふうけいは、たまらなかったのです。
2. 【3】その日はどういう日だったか、がまんしきれないで、はるきち、よしお、ちよの三人で、ちよはわたしでした。とうとう、一つとってたべてみようということになって、はるきちがはたけへはいり、よしおとちよが、見はりばんでした。
3.【4】「すみのほうのをもいで、すぐにげだせばいいぞ。」
4. はるきちは、こしをこごめて、わたしたちからはなれていきました。よしおは、家へはいる道のトマトの木にかくれ、ちよは、すこしはなれたところにたって、家のほうを見つめて、見はりをしていました。
5. 【5】ここで三人は、ちょっとけいさんちがいをしていたのです。家の中から人がでてくるということばかりかんがえて、見はりばんをしていて、うしろからだれかくるかもしれないということは、かんがえてもみなかったことです。【6】それだけ、人どおりのないところだったせいもあったかもしれません。
6.赤ナスの
木の葉のかげに、はるきちの頭が見えていましたが、すぐ見えなくなりました。
7.「とったなーっ。」
8. ちよは、むねがどきんとしたけれど、こんなにあるんだから、一つや二つわかるものかと、気を大きくしていたときです。【7】まったくおもいがけないことになりました。わたしのたっているうしろから、
9.「これこれ、赤ナスがほしいのかね。」
10. わらい顔でひんのいいおばあさんがふろしきづつみをかかえて、こうもりがさをさしかけたまま、よびかけたのです。
11. 【8】わたしは、はっとしたまま、にげだせません。はるきちとよしおは、それっ! とばかり、ふたたび
千曲川のほうへ、ころげるようににげだしました。わたしは、こまってしまいました。
12.「女の子がこんなことをすると、家の人がかなしがりますよ。」
13. 【9】やさしいことばでした。
14.「どこのむすめさんだね。」∵
15. わたしの顔を、しげしげとながめています。
16.(おまえは、男の子ばかりとあそんでいて、らんぼうでこまったものだ。)
17. おかあさんの顔といっしょに、毎日のようにいわれていることばが、すーっと頭の中をとおりすぎました。
18. 【0】それからあとは、そのおばあさんが、
19.「赤ナスの、とったのがうちにあるからあげるで、ふたりをよんでおいで。」
20.といって、家の中へはいりました。おばあさんが、家へはいるのを見とどけると、わたしは、ふたりのあとをおって、いっきにさか道をおりていくと、谷のほうへ、えだぶりがよくでている大きなまつの木のねもとに、ふたりともしょんぼりこしをおろしていました。
21.わたしを見ると、
22.「じゅんさがきたかよ。」
23. はるきちの大きな声でした。よしおのほうは、とおまわりだが、三の門のほうから家へかえろうと、あるきだしました。三人はさっきの元気はどこへやらで、日はくれかかるし、心ぼそかったし、それよりも、はるきちが赤ナスをとったのか、とらなかったのか、そんなはなしもひとこともでないで、とおまわりの道のほうへ、おもくなった足をはこびました。
24.『いたずらわんぱくものがたり』「赤ナスとおまわりさん」(
宮口しづえ)より
長文 2.2週
1. 【1】母まで、まるでわたしのことなどわすれたように、白いまえかけのひもをきゅっとむすぶと、もうながしばのほうにいってしまいました。
2. わたしはしかたなく、かつよねえちゃんを、よこ目でひとにらみしてから、うらにわのむこうのはなれにいきました。
3. 【2】はなれでは、
太郎くん、みっちゃん、としぼうたち、ちびすけばかり五、六人が、ひとかたまりであそんでいました。
4.「あ、ゆう子ちゃんだ。」
5.と、みっちゃんがとびついてきました。みっちゃんは、わたしより一さい年下のなかよしです。【3】でもわたしは、ぶすっとつったっていました。このままはなれでちびすけたちのあいてをするなんて、じつにつまらないことにおもえてきたからです。
6.「ねえ、あそぼうよ。」
7. みっちゃんがわたしの手を、しきりにひっぱります。【4】そのとき、いいことをおもいつきました。家の中のたんけんをしてやろう、とおもったのです。
8.「みっちゃん、おいで。」
9. わたしはみっちゃんをつれて、いそいではなれをとびだし、うらにわのしげみにかくれて、ざしきのようすをうかがいました。
10.【5】「なにするの。」
11.「しっ、だまって、たんけんよ。」
12.「たんけん?」
13.「うん、そうっと家の中にはいってなにかいいものさがしだそう。かあちゃんたちに見つからないようにね。」
14.「見つかったらいけないの?」
15.「そうよ、見つかったら、たんけんにならないよ。」
16.「うん、おもしろそうだね、たんけんって。」
17. 【6】みっちゃんはすぐにうなずきました。みっちゃんは、いつもわたしのいうなりになるのです。
18. ふたりはざしきのよこにまわり、ろうかのすみっこから家の中にしのびこみました。そしてまず、ふろばにとびこみました。
19. 【7】ざしきのほうからきこえてくる、おじいさんたちのはなし声やわらい声。だいどころの水の音、おさらのふれあう音や足音。いろんな音に耳をすましながら、ふたりは、かがみのまえでくびをすくめてくすりとわらいました。
20.【8】「あ、かあちゃんの声だ。」
21.みっちゃんが、とびだそうとしました。
22.「だめ、みっちゃん。見つかったら、また、はなれにつれもどされるよ。」∵
23. それからふたりは、かべにそって、そうっと、そうっと、せ中をまるめてあるきました。
24. 【9】だいどころのそばの、小べやのまえまできたときです。
25.「あれ、なに?」
26.と、みっちゃんがゆびさしました。
27. せまいへやじゅうには、おさらをだしたあとの木ばこなどが、ほうりだしてありました。【0】そのまん中にテーブルが一つ、そしてテーブルの上に、なんだか大そうおいしそうなものが、どんぶりに山もりにおいてあるのです。
28. だれもいません。ふたりはテーブルにかけよりました。
29. どんぶり山もりのおいしそうなもの、それは金いろにつやつやともりあげた、きんとんでした。見ているだけで、ツバがでてきそうです。
30. みっちゃんがぶすりとゆびをつっこんで、ひとなめしました。
31.「わっ、おいしーい。」
32. わたしも、やわらかい金いろの中に、おもいっきり人さしゆびをつっこんで、きんとんをすくいました。
33. あまくてあまくて、とろりと口いっぱいにとけそうです。すくってはなめているうちに、気がとおくなりそうな、おいしいきんとんです。
34.『いたずらわんぱくものがたり』「きんとんきんとんくりきんとん」(山口
勇子)より
長文 2.3週
1.【1】「ゆるりばたではしるでねえ!。」
2. ねどこの中で、おこっている母の声です。そのひょうしに、兄がちょっとひるみました。そこでわたしは、いっきにおいつめようとしたとき、おもわず、お茶ぼんを、けっとばしたのです。
3.「あっ!」
4. 【2】わたしは、からだじゅうから、ちのけがひいていくほど、びっくりしました。やっと、つやのでてきた、ばんこやきのきゅうすを、父が、どんなにだいじにしているか、よくしっていたからです。
5. はいの中にころげおちたきゅうすを、そっとひろいあげました。【3】こわごわと、さし口や、ふたにさわってみました。兄も、しんぱいそうにのぞきこみました。
6. こわれては、いませんでした。ひびもはいっていないようです。あわてて、ながしへもっていって、はいをあらいおとし、もとのところへおいて、ふきんをかぶせました。
7. 【4】兄も、だまって、もちをやきはじめました。
8. そこへ、父のほうが、さきにおきてきたのです。だまって、たばこを一ぷくすうと、いつものように、いればをもって、顔をあらいにいこうとしました。
9. お茶ぼんのふきんを、めくりました。はがありません。
10. 【5】わたしは、どきっとしました。きゅうすのことばかりがしんぱいで、それまで、いればのことは、わすれていたのです。それでも、だまって下をむいていました。
11.「おーい。ゆうべは、はをどっかへしまったか?」
12. 【6】父は、まだおきてこない、母のほうへいいました。はのない父のことばは、声がもぐって、よくききとれません。
13.「ちっとゆっくりしてえのに、みんなでうるせえだから。」
14. 母はぶつぶついいながら、おきてきました。
15.【7】「おぼんの上には、ねえだかい。」
16. そういいながらも、母は、戸だなの戸を、しめたり、あけたりして、さがしはじめました。
17.(あってくれますように――。)わたしは、からだをかたくして、いのるおもいでした。兄もだまっています。
18.【8】「おまえたちは、さっき、おぼんをけとばしたんじゃあ、あるまいなあ。」
19. くるりとこちらをむいた、母は、おそろしいまでに、こわい顔になっていました。
20. いろりばたにひざをつくと、長い火ばしで、はいの中を、かきまわしはじめたのです。【9】父もさがしましたが、ありません。
21. しまいに、もえているマキをくずし、火の中までもさがしまし∵た。すると、小さくしぼんで、もとのかたちなどなくなっている、いればらしいものが二つ、まっかなおきの中からでてきたのです。
22. 【0】わたしも兄も、もういろりばたからは、とおくさがった、いたのまに、ひざをそろえて、すわっていました。
23.「ゆるりばたでさわいじゃあ、なんねえって、あれほどゆってることが、わからねえだか。いればをつくるには、たんと、金がかかるだよ、金をだしたって、いまいって、すぐ買えるものじゃあなかんべあ。はがなかったら、けさっから、なにもかめねえだよ。おまえたちも、なにもくわずにいるといい。」
24. 母は、こまったのはとおりこして、もうやけっぱちのように、おこりちらしました。
25. そのころ、わたしの村には、まだ、はいしゃさんはありませんでした。町までは、とまりがけでなければ、いかれなかったじだいです。
26. はのない父は、おこりたいことばさえ、うまくはしゃべれなかったのでしょう。こわい顔で、たばこだけをすっていました。
27. じぶんでも、もういればのせわになる年になりました。あの朝の父のかなしさや、母のはらだたしさがとてもよくわかって、すまなく、それでも、なつかしくおもうのです。
28.『いたずらわんぱくものがたり』「父のいれば」(
宮川ひろ)より
29.おき(すみがほのおを上げないでもえているじょうたい)
長文 2.4週
1. 【1】ダイヤモンドの
美しさは、さまざまな色の
輝きを
複雑に
放っているところにあります。
2. 光は
透明なようですが、
実はいろいろな
波長の光が
集まっています。だから、プリズムに通すと
曲がり方の
違いからさまざまな色が見えます。【2】空気中の水分に日の光が当たって、
虹が見えるのもこの原理です。
3. ダイヤモンドは光の
屈折率が高く、光を大きく
曲げる性質をもっています。そうすると、
短い波長の
紫は強く
曲がり、長い
波長の赤色は弱く
曲がります。【3】その間の色もそれぞれの
曲がり方をするので、ダイヤから出てきた光はさまざまな色に分かれて見えるのです。
4. ダイヤモンドは、
最も硬い石と言われています。
硬さの
調べ方は、ある
鉱物と
他の
鉱物をこすり合わせ、
傷のついた方がやわらかい、という
方法で行います。【4】ダイヤモンドは、どの
鉱物よりも
傷つきにくいのです。
5. では、ダイヤモンドは
割れないのかというと、金づちでたたいただけで
砕けてしまうこともあります。それは「
へき開」と言って、
割れやすい
特定の
方向があるからです。【5】
鉱物はその
内部の原子の
配列によって、
結合のとても弱い
方向ができる場合があります。
植物を切る時、その
繊維の
向きにより、
縦にさくのは
簡単でも
横にちぎるのは
難しい、ということがありますが、その場合と
似ています。
6. 【6】
鉄はすぐにさびますが、ダイヤモンドはさびることはありません。日光にさらされても
変色せず、
酸に
溶けることもないので、とても
安定した
物質です。ただ
熱には弱く、
高温で
熱した場合、
気化して
二酸化炭素になってしまいます。【7】つまり、
火事にまきこまれると、あとかたもなく
消えてしまうことがあるのです。
7. ダイヤモンドの
価値は、
重さ、
品質、色、カットの
仕方によって大きく
変わります。
珍しい青やピンクのダイヤなどはとても
価値の∵高いものです。【8】しかし、
実際は
宝石としては
適さないものの方が多くあり、それらは
価格も
安く、その
硬さゆえに
工業用として広く
利用されています。たとえば
回転する
工具の
刃先にダイヤモンドがまぜられていると、
金属でもコンクリートでも
削りとることができます。【9】これは、
道路工事でアスファルトを切るのに
使われたり、
歯医者さんの
歯を
削るドリルに
使われたりしています。
家庭の
電化製品や車も、ダイヤモンドの
助けを
借りて作られたものが
実はたくさんあります。
8. ダイヤは
宝石としてもてはやされているだけなく、
身近な生活の中でも
活躍しているのです。【0】
9.
言葉の森
長文
作成委員会 α
長文 3.1週
1. 【1】
小屋の中には、なん十頭ものブタがいます。もし、それらのブタがバクチクにおどろいて、
小屋をとびだしたらどうなるでしょう。町じゅうは、ブタだらけになってしまいます。どうろというどうろにブタがあふれ、家の中にまで、ブタがとびこんでくるでしょう。【2】ブタは、おひつをひっくりかえしてごはんをくうかもしれません。ちゃだんすから、おかずをくわえだすかもしれません。もしかしたら、ねている赤んぼうにかみつくかも……。
2. ぼくのひざこぞうは、がくがくしてきました。
3.【3】(にげちゃおう!)と、おもったときです。
4.コウちゃんが、
5.「火をつけろ!」
6.と、めいれいしました。小さいけれど、力のこもった声です。
7. ふたり一組になって、ひとりがバクチクをもち、もうひとりがマッチをするのです。【4】ぼくは、サブちゃんと組でした。ぼくがマッチをするやくですが、なかなか火がつきません。マッチぼうを三本もおってしまいました。やっと火がついたら、こんどはサブちゃんの手がふるえるので、うまくバクチクに火がつきません。【5】いや、ほくの手だって、ふるえていたのです。
8. そのうらに、シュルシュルシュルという音がきこえました。コウちゃん、ヘイちゃん組のバクチクのどうかせんに、火がついたのです。つづいて、チヨちゃん、クンちゃん組のバクチクにも火がつきました。
9.【6】「それっ。」
10. コウちゃんが、バクチクをさくの中になげこみました。クンちゃんもほうりました。すると、サブちゃんはあわてて、まだ火がついてもいないのに、ほっぽりだしました。
11. ぼくらは、もうあとも見ないでかけだしました。【7】ブタ
小屋のつうろはじめじめしていて、よくすべるので、あまりはやくかけれません。サブちゃんが、すてんところびました。
12.「ゲンちゃん、まってえ。」
13. サブちゃんのなき声がうしろできこえましたが、たすけてやるどころではありませんでした。
14. 【8】ぼくらは、ブタ
小屋をとびだそうとしたとき、ばったり社長とはちあわせしてしまいました。おもいがけないことだったので、たまげてしまいました。
15. 社長のほうも、とつぜん子どもたちがとびだしてきたので、目をまるくしていました。【9】そのすきに、ぼくらはにげだしてしまいました。∵
16.「こらっ、まてえ!」
17. 社長のどなる声がおいかけてきましたが、みんないちもくさんにかけました。
18. やっとじぶんの家のちかくまでにげてきて、ほっとしたとたんにぼくらはサブちゃんがいないことに気がつきました。
19. 【0】ぼくは、どきんとしました。ころんだサブちゃんをおいてきぼりにしてきたことが、きゅうにすまなくなりました。
20.「社長に、くびのほねをへしおられたかしら。」
21.と、チヨちゃんがいったので、みんなしんぱいになりました。
22.「まさか。」
23.と、クンちゃんがうちけしました。
24.「そんなばかなことするもんか。」
25. ぼくもじぶんにいいきかせました。
26.「コウちゃん、バクチクの音きいたかい?」
27.と、ヘイちゃんがいいました。
28.「いや、おれもへんだとおもってるんだ。」
29. バクチクがはれつしたのを、きいたものはありませんでした。あとでわかったのですが、ブタ
小屋のゆかがぬれていたので、火がきえてしまったのです。
30. しばらくすると、サブちゃんが、にやにやしながら、もどってきました。
31. 社長は、サブちゃんから、ぼくらがあそびばをとられた、しかえしをしたことをきくと、
32.「わっははは……、がきどもやりおるな。」
33.と、わらったそうです。そして、どろだらけのサブちゃんを、水道までつれていって、あらってくれたそうです。そして、
34.「もっと、元気になれよ。」
35.といって、かたをたたいてくれたそうです。
36.「とってもやさしかったよ。」
37.と、サブちゃんはいいました。
38. きっと、社長も子どものころわんぱくぼうずだったのでしょう。
39.『いたずらわんぱくものがたり』「バクチクをなげろ」(
長崎源之助)より
長文 3.2週
1. 【1】しんがっきが、はじまりました。
2. ぼくたちの四年男子組のうけもちは、となり町からうつってきた森先生にかわりました。
3. 森先生は、はじめてのじゅぎょうのとき、
4.「きょう女子組の先生から、男子組のせいとが、ヘビのようなものをつかって、女子をおどしたり、なかせたりするものがいるから、げんじゅうにちゅういしてくれといわれた。【2】よわいものいじめはよせ! 男子らしくないぞ。」
5.といって、口をきつくむすんで、こわい顔をして見せました。ぼくたちの組の男子は、そのはん人が、だれであるか、ひとりのこらずしっていましたが、みんなしらん顔をしてだまっていました。
6. 【3】そのとき、ガキだいしょうの
勝五郎が、「ふん」と、はなをならしました。
勝五郎は、よくないことをけいかくするまえに「ふん」とはなをならすくせがありました。(で、あいつ、なにかやるつもりだな。)と、ぼくはすぐかんじたのです。
7. 【4】この小学校でも、あたらしい先生がきたときは、なにか、いたずらをして、先生をびっくりさせたり、おこらせたり、おおわらいをして、からかったりするのが、しきたりのようになっていました。【5】いたずらのさしずをするのは、ずうっとまえから、まえのガキだいしょうが、つぎのガキだいしょうにひきつぐとりきめになっていたのです。
8.「おい、みんな、ひる休みに校ていのサクラの木の下にあつまれ、
省ちゃんは、ぞうりぶくろをもってくるのだぞ。」
9. 【6】
勝五郎のめいれいが、耳から耳へまたたくまにつたわりました。
10. ぼくが、ぞうりぶくろをもってサクラの木のところへいくと、もう、
勝五郎の子分いちどうが、顔をそろえてまっていました。
11. 【7】
勝五郎は、ぼくから、ぞうりぶくろをうけとると、じぶんのふところから、ぼくのヘビをひっぱりだしてふくろの中にいれました。
12.「いいか、みんな、このふくろを、
教卓の上にのせておくんだ。【8】先生が、だれだ、このようなけがらわしいものをここにおいたのは、とかなんとかいいながら、ふくろの中に手をいれる……、それからは、見てのおたのしみだぞ。」
13.
勝五郎は、そこでまた、「ふふ」と、とくいのはなをならしました。∵
14. 【9】いたずらがうまくなければ、ガキだいしょうにはなれないというけれど、まったく、そのとおりでした。
15. いよいよ、午後のじゅぎょうはじめのかねの音が、きこえてきました。
16. 四年男子組のきょうしつの中は、しいーんと、しずまりかえっています。【0】これから、なにがおきるか、みんな、おもいおもいのばめんを頭にうかべて、いきをのみこんでまっていたのです。
17. やがて、ろうかのむこうから、先生の足音がきこえてきました。ガラッと、音をたてて、ドアがひらき、一ぽ一ぽ、先生が
教卓にちかづいてきます。それから(なんだこれは?)とふくろに手をかけるまでの、はらはらどきどきのスリル……、このすばらしい気もちを、なににたとえていったらよいのでしょう。
18. 先生は、
勝五郎がかいた、げきの台本(すじがきの本)をそっくりそのまま、じつえんするように、ふくろをもちあげ、口をひらいて中に手をいれました。
19.「なにがはいっているんだ。けったいなものだぞ、これは……。」
20. そこまでのことばは、ふつうのおちついたちょうしでした。が、つぎのしゅんかん!
21.「うわっ?」
22. 先生は、せいとが目のまえにいるのもわすれ、はじもがいぶんもふっとばしたような、さけびをあげながら、手にもったヘビを、まどをめがけてなげつけました。
23. ほんもののヘビだとおもって、びっくりぎょうてんしている先生を見て、ぼくたちは、わあ!と、かんせいをあげました。なんだか、むねの中にたまっていたものが、ふっとんでいくようなふしぎな気もちがしました。
24. が、先生は、まどガラスにぶつかって、ゆかいたの上におちてきたヘビを見て、はじめて、これがもんだいのヘビのおもちゃとわかりました。すると、おそろしさが、はずかしさにかわったのでしょう。青くなった顔が、まっかないろにかわりました。そして、ぞうりぶくろにかいてある名まえをよむと、すぐ、ぼくのまえにきて、
25.「人間は
感情のどうぶつだぞ! おれだって、人間だぞ! ばかにするな!」
26.と、大声でどなりながら、ぞうりぶくろで、ぼくのほおを力まかせになぐりつけました。
27. ぼくが、うるんだ目で、
勝五郎のほうを見ると、かれは、しらん顔で、「ふん」とよこをむきながら、また、はなをならしているのが、なみだににじんで見えていました。∵
28. ぼくは、そのとき、はじめて「人間は
感情のどうぶつだぞ!」ということばをおぼえたのでした。そうして、六十年もたったいまでも、そのことばが、なぐられたいたさとともに、ぼくの心の中にいきつづけてきたことを、わすれることができません。
29.『いたずらわんぱくものがたり』「先生だって人間だぞ!」(
猪野省三)より
長文 3.3週
1.【1】「なにか、ないかなァ。」
2.と、家じゅうの戸だなをあけてみましたが、きょうにかぎって、いつもよういしておいてくれる四人分のおやつがありません。
3. そのとき、おもいだしたことがありました。【2】せんだっての夕方、うちへ、大きなブリキかんをとどけにきた人がいて、かあさんが、
4.「なにしろ、たべざかりが、こんなにおおくちゃ、このせつ、おやつ
代だって、ばかになりませんからね。」
5.といいながら、お金をはらっていたのです。
6.【3】「そうだ、あれはきっと、おかしの買いだめにちがいない。あれだ!」
7.と、気づいたまではいいけれど、さて、どこにしまったのかな? みんながるすなのをさいわい、あっちこっち、おしいれや戸だなをさがしているうちに、ありました! 【4】しんさつしつの入り口のかげがかいだんになっている、そのふくろ戸だなの、ふるしんぶんがつんであるかげに、そのかんが見つかったのです。
8.「なんだ、こんなところに。」
9.ふたをあけてみると、やっぱり! あの、さかなのかたちをした、小さい、あめいろのおせんべいが、ぎっしりつまっています。
10. 【5】わたしは、はっと、いきをのみました。いつもなら、十つぶぐらいずつ、かぞえてわけてもらうおいしいおかしが、こんなにたくさん、目のまえで「たべてください」といっています。それにぷーんと、いいにおい。
11. 【6】わたしは、
金貨の山をまえにしたよくばりじいさんみたいに、手ですくってはあけ、またすくって、たのしんでいましたが、おもいきって、りょう手をおさらにして、山もりすくうと、たちあがりました。さて、かんのふたが、しめられません。【7】そこで、いったんぜんぶ、かんの中にあけて、こんどは、おでこで、ふたをおさえ、すくってからそーっとおでこをはずしてみます。うまくいきました。こんどは、戸だなの戸をしめるばん。りょう手がつかえないから、足でしめるしかありません。【8】おもいガラス戸なので、ガラガラッと大きい音がします。大いそぎでこれだけやると、べんきょうべやにもどって、一つずつ口にほおばります。そのおいしいこと。たべおわるころは、おなかがいっぱい。
12. それからかんがえました。【9】おかしが、きゅうにへったと、かあさん、気がついて、おこるかな? いや、あんなにあるんだから、わかりっこない。いもうとたちに、おしえてあげようか。いや、三人のうち、だれかがつげ口するかもしれない。【0】それに、みんながまねをしたら、たちまちかんがからっぽになって、すぐバレてしま∵う。だまっていよう。
13. この日からわたしは、おやつどろぼうのあじをおぼえました。しけんべんきょうのときなんか、ま夜中にもやりました。
14. わたしは、このときのことを、ずっと大きくなっても、だれにもいいませんでした。だって、ふだんねえさんぶっていながら、こんな、しょうのないくいしんぼだと、しられたくなかったからです。ところが、あとで、とんでもないことをしりました。いいえ、あたりまえといったほうがいいのかもしれません。
15. とうさんが七十八さいでなくなり、
初七日もすんで、みんながあつまったときのことです。しごとも、とうにやめて、さびしくなったかあさんをかこんで、いまはおとなになったきょうだい四人がこたつにはいり、とうさんのむかしばなしや、じぶんたちの子どものころのおもいでを、はなしあっていました。そのとき、わたしが、「じつは、とってもはずかしいはなしだけれど」と、おやつどろぼうのことをはくじょうしました。
16. そしたら、
17.「あらっ、ねえさんも?」
18.「わたしもよ。」
19.「わたしだけかとおもった。」
20.と、いもうと三人が、いっしょにわらいだしました。そして、めいめい、「わたしはこうして」「わたしは、こんなふうに」と、そのときのまねをして見せました。
21. かあさんの顔を見ると、しわだらけの顔がわらっています。
22.「そうそ、そんなことがあったね。おさげやら、おかっぱやらの、頭の黒いネズミどもが、四ひきも、かわるがわるしゅうげきするんだものね。なんでもまとめて買えば、やすくつくとおもったけど、おかしだけは、あてがはずれたよ。とんだかんがえちがいさ。」
23.「なあんだ、かあさん、しってたの。」
24.「しらないもんかね。」
25.「どうして、おこらなかったの。」
26.「どんなにびんぼうしていたときでも、たべもののことで、かあさんおこったことが、あったかね。」
27. ほんとに、そうでした。さすがに、かあさん、むすめたちより、なんまいも上でした。
28.『いたずらわんぱくものがたり』「おやつどろぼう」(
増村王子)より
長文 3.4週
1. 【1】
私たち日本人にとって、
海苔はとてもなじみ
深いものですが、外国の人たちにはそうでもないようです。
2.
明治時代に日本にやってきた
西洋人は、「日本人は黒い紙を食べる」と言って
不思議がったようですが、今でも
海苔が
苦手な外国人は多いようです。【2】外国人のパーティーに、
巻きずしを作って
持っていったら、その
美しさには
感心されたが、
海苔をはがして食べるので、せっかくの
巻きずしがぐちゃぐちゃになってしまったという話も聞きます。どうして
海苔をはがしたのかというと、「
皮だと思った」のだそうです。
3. 【3】あまり知られていませんが、二月六日は「
海苔の日」です。なぜこの日が「
海苔の日」になったのかというと、今から千三百年くらい前の日本
最古の
法律である「
大宝律令」が広められた日だからです。
奈良時代のすぐ前、
飛鳥時代の
終わり頃のことです。【4】その「
大宝律令」の中には、
朝廷に
納める税金として、二十九
種類の
海産物がのっていました。そのうち八
種類が
海藻で、その中の一つが
海苔でしたが、その
海藻の中でも、
海苔は一番の
高級品でした。
4. 【5】その後の
時代も
海苔は
貴重品として
扱われてきましたが、ただ、この
頃食べられていたのは生
海苔で、今
私たちが食べているような
乾物の
海苔ではありませんでした。【6】のちに、
江戸時代になってから、
浅草で紙の
漉き方にヒントを
得た「
漉き海苔」が
登場し、「
浅草海苔」として
全国に広まりました。この
頃、
海苔巻きも大
流行し、人気の
食べ物となったようです。
5. 【7】
海苔の
養殖は
江戸時代から
始まっていましたが、まだ
失敗も多く、
海苔の
生産は
不安定で、
値段も
一定しませんでした。しかし、
昭和二十四年、イギリスのドゥルー
女史が、
海苔の一生を細かく
調べることに
成功しました。【8】この
知識を
基に、ようやく
海苔は人工
的に
養殖できるようになったのです。∵
6.
海苔のサイズは、切る前の
基本となる「
全形」が
横十九センチメートル、
縦二十一センチメートルという、とても
中途半端なサイズに
統一されています。【9】これを、
各メーカーが色々な
枚数にカットして、食べやすい大きさにして売っています。このサイズは、
海苔を
漉くときに
使われていた木
枠のサイズの
名残なのです。
7. 【0】
海苔を作るときには、紙を
漉くときのようにこの
簾の上にどろどろになった生
海苔をすくいとり、
乾かして作ります。
乾いたらやはり紙のように、この
簾をぺりっとはがしてできあがりです。だから、のりは
乾かしたときの
表面にあたる
表がつるっとしていて、
簾からはがした
裏面がでこぼこになっているのです。
8.
言葉の森
長文
作成委員会 τ