1. 【1】父が母国をはなれたあと、母は三人の
育ちざかりのむすこをかかえ、けんめいに生きてきました。「
牛乳とやさいをうる店がちかくにないから、あなたがやってみては。お金は用だてます。」と、しんせつな友人がすすめてくれ、家のすぐそばに小さな店をひらきました。【2】もうけはみじめなほどすくないのですが、ともかく毎日いくらかでもお金がはいってくるのは
助かります。
2. それでもときには、あすのお金にもこまることがありました。そこでロベルトとリュドビグの兄弟は、アンデルセンの
童話そっくりのアルバイトをしました。【3】町かどに立って、通行人にマッチのわけうりをし、
銅貨をいくまいか、かせいだのです。
3. ロベルトとリュドビグが、ほこらしげにその日のうりあげを母にわたすのをみたとき、アルフレッドは、どれほどじぶんをなさけなくおもったかしれません。【4】からださえじょうぶなら、兄たちにけっしてまけてはいませんのに……。
4. アルフレッドが気をうしなってたおれた数日後の雪の日には、こんなことがありました。
5. 【5】店から昼食のしたくにかえった母が、ロベルトに一まいの
硬貨をわたし、「パンとすづけにしんをかってきてちょうだい。それでおひるをすませましょう。」とたのみました。
6. 【6】ロベルトは二つへんじででかけていったのですが、いつまでももどってきません。
7.「どこまでいったのかしら……。」
8. しびれをきらした母が、ドアをあけると、そこにロベルトが立っていました。そまつながいとうを雪でぐっしょりぬらし、青ざめてふるえながら。
9.【7】「ぼく、お金を雪のなかにおっことしたんだ。いくらさがしてもみつからなくて……。」
10. 十二さいの、父ににてがっしりしたからだのロベルトがなきじゃくりました。
硬貨をしまったポケットにあながあいていたのです。【8】母の、なかみのとぼしいさいふのことをおもって、ロベルトは、きっと、とほうにくれてしまったのでしょう。
11.(かわいそうに、ロベルト兄さん……。)
12.ベッドのなかのアルフレッドは、心でよびかけました。
13.【9】(ひるごはんくらい、たべなくてもへいきなのに……。)
14.「おばかさんねえ……。」
15. ロベルトをだきしめて、母がわらいました。∵
16.「雪のなかに
貯金したとおもえばいいじゃない。」
17.「そうさ。」
18.と、リュドビグ。
19.【0】「でも、雪がとけたとき、フレイのやつがさきに
貯金をみつけなきゃいいけどなあ。」
20. フレイというのは、リュドビグのけんかなかまなのです。
21. みんな、おもわずふきだしました。
22. それから母と子の四人
家族は、ひとさらずつのスープを、フーフーふきながらのみ、ほかになんにもたべなくても、心はみちたりていました。たがいのあたたかい
理解と
愛情とユーモアでむすばれていましたから。
23.(「ノーベル」大野
進著より)