1. ドイツの心理
学者が、
味には、
塩味、
酸味、
甘味、
苦味の四つの
基本の
要素があって、どんな
味もその組み合わせでできているという
説を
発表して
以来、
基本の
味についてはもうこれ
以外にないと思われていました。しかし、
味覚を
研究していた日本人の
化学者たちは、これにもう一つ、
旨味を
加えるべきだと
主張しました。
2. この
旨味の
成分を
発見し、
初めて学会に
報告したのは、池田
菊苗 博士です。
博士はある日、
夕飯を食べていて、
妻が作ったお
吸い物のあまりのおいしさに
感動を
覚えたのです。そして、「この
味は、四つの
基本味だけで出せる
味ではない」と
確信し、
旨味の
研究に
取りかかりました。
3. お
吸い物のだしは、
昆布でとられていました。そこで
博士は、四十キログラムもの
昆布から
だし汁を作り、そこから
旨味以外のすべての
成分を
取り除いていくという、気の遠くなるような
作業を
続けました。そして
最後に
残った
旨味の正体が、
グルタミン酸という
物質であることをつきとめたのです。池田
博士はこれを学会に
報告するとともに、
調味料として
大量生産する
方法を
発明しました。そしてこの
旨味の
素は、「
味の素」として
商品化され売り出されました。
4.
旨味の
成分は、池田
博士が
発見した
グルタミン酸以外にもあります。たとえば、
煮干しや
鰹節のだしの
旨味はイノシン
酸、
干しシイタケやマツタケの
旨味はグアニル
酸です。だしの
味は外国にもないわけではありません。
西洋料理には
肉類と
香味野菜を
煮込んでとるスープストックやブイヨンと
呼ばれるだしがあります。
中華料理では、
鶏ガラや
干しエビ、
白菜やネギなど、やはりさまざまな
材料を
煮込んで「
湯」と
呼ばれるだしを作ります。
5. このように
旨味は
確かに
味をよくする
成分であるとは
認められていましたが、
旨味が
第五の
基本味であるということは、
世界の人々∵になかなか
受け入れてもらえませんでした。しかし、
最近になってようやく、
旨味は
第五の
味として
認められ、そのまま「
UMAMI」という用語となって
世界中に知られるようになったのです。
6. それでは、
旨味は、なぜおいしく
感じられるのでしょうか。それは、
旨味の
成分が、
私たちの体を作るために
欠かせないものだからだと言われています。
グルタミン酸は
アミノ酸というグループに
属し、イノシン
酸やグアニル
酸は
核酸と
呼ばれるグループに入る
化学物質です。そして、この
両方ともが、
私たちの体を作るのにとても
必要なものなのです。つまり、体の方で、ちゃんとこれらをおいしく、たくさん
取り込むようにできているのかもしれません。
7.
旨味は
少量の
塩が入ることで、より強くなります。また、ちがうグループの
旨味を組み合わせることによっても、ぐんとおいしさが上がることがあります。したがって、うまく
旨味を
利用することで、かえって
塩分を
減らしたり、よりおいしい
味付けにしたりすることも
可能になるのです。
8. ところで、
昆布の
旨味を
発見した池田
博士は、ロンドンに
留学していたとき、同じくロンドンに
留学していた文学
者の夏目
漱石に会っています。もしかすると、夏目
漱石と、「日本
料理のおいしいだしの
味が
恋しいなあ」などと話をしていたのかもしれません。
9.
旨味の
研究は、
一杯のお
吸い物から
始まりました。
10.
昆布のだしによろコンブ池田
博士の
笑顔が、
研究の
出発点だったのです。
11.
言葉の森
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