長文 7.1週
1.【1】「あら、なつかしい。」
2. 母が声をあげました。おばあちゃんの家を
改築することになって、荷物の整理に行ったときのことです。母の手には、手紙の
束が
握られていました。色とりどりの
便箋や
封筒、かわいらしいメモ帳の
切れ端などがたくさん出てきました。
3.【2】「昔は、
携帯やメールなんかなかったでしょう。だから、こんなふうに手紙を
交換していたのよ。」
4.と母が言います。するとおばあちゃんが
笑いながら、
5.「毎日学校で会う友だちともやり取りしていて、よくそんなに書くことがあるものだと思ったわ。」
6.と言いました。
7. 【3】母は少し
恥ずかしそうでしたが、
私は見せてもらうことにしました。手紙のほとんどは、今でも家族ぐるみでつきあいのある母の同級生からのものです。
特におもしろかったのは、四年生のときにダジャレに
夢中になっていたころの手紙です。
8.【4】「
大沢先生のおおさわぎ」「そんなシャレやめなシャレ」「体育行く?」
9.などと書いてあり、
大沢先生らしい太った男の人のイラストがありました。さらに、
10.「
真衣子、まーいい子。」
11.と母の名前を使ったダジャレもありました。
12. 【5】そのほかに、
秘密の手紙もありました。
封筒の表書きに「
真衣子へ。だれにも見せないでね」とあったので、
私は少しどきっとしました。
封筒の中には、色あせた水色のびんせんが入っていて、小さな字でぎっしりと文が書いてありました。
13. 【6】
私はそれを読みたかったけれど、母はこれはだめ、とさっとかくしてしまいました。
私はきっと
好きな子の話が書いてあるのだな、と思いました。
私だってもう四年生だからわかるのになあ。
14. 【7】おばあちゃんは、箱のほこりを
払いながら、∵
15.「ママはね、小学生のころは、とてもおとなしかったのよ。
授業参観に行ってもほとんど発言しないような子でね。」
16.と
驚くようなことを言いました。今の母からは全く
想像できません。
17.【8】「ねえねえ、いつから今みたいにうるさくなったの?」
18.と聞くと
19.「あなたが生まれてからかしらねえ。」
20.と、おばあちゃんが答えました。
私は、人間って
変わるものだなと心の中で思いました。母は知らぬ顔で、昔の本を
束ねています。
21. 【9】
私は、もし子どものころの母と今、同じクラスだったら、
私たち、
仲良くなるかなあと考えました。なんとなく、
好みも
似ていそうだし、話も合いそうだなと思います。
私は楽しくなってきて、
22.「おはよう、
真衣子。」
23.と聞こえないようにつぶやいてみました。【0】
24.(言葉の森
長文作成委員会 φ)
長文 7.2週
1.
世界中を
簡単に
旅することができなかった
昔の人々にとって、ウミガメが毎年
決まった
季節になると
海岸にやってきて
卵を
産んでいく
様子は、
神秘的だったことでしょう。そんなウミガメから、
竜宮城という
夢のような話が生まれたのかもしれません。
2. では、日本にやってくるウミガメには、どんな
種類があるのでしょうか。日本
列島は
四季がはっきりしているので、
季節によって
気温や
海水温が大きく
変わってきます。その中で、日本に
卵を
産みにくるのは、アカウミガメ、アオウミガメ、タイマイなどのカメです。
関東地方より南の
海岸で
卵を
産むアカウミガメは、春になると日本近海に
姿をあらわします。アオウミガメは、
屋久島より南で
卵を
産み、タイマイは
沖縄本島より南で
卵を
産みます。
3.
産卵場所となる
海岸の
沖には、オスがメスより一
ヶ月も前に来て
待っています。やがてメスがやってくる
時期になると、オスたちはメスのあとをついてまわるとともに、オスどうしで
激しく争い、メスを
奪い合います。かんだり、ぶつかったり、オールのような足ではたいたりと、とても
迫力があり、
水族館でゆったり
泳いでいるときの
姿からは
想像もつかないほどです。その後、オスは
産卵場所のまわりの海から
姿を
消します。メスは近くの
砂浜に
上陸して
産卵します。
4. お
風呂やプールに入ると、体が
軽く感じられます。それは、水の中につかっているものには
浮力が
働くからです。海中のウミガメは、
浮力のおかげで
重さが
陸上にいるときよりもずっと
軽くなります。しかし、
浮力の
働かない
陸上では
自由に体を
動かすことができません。海から上がって
卵を
産むときには、
外敵から自分や
卵を
守ることもできなければ、すばやく
逃げることもできません。そのため、
産卵をひかえたメスは、夜になってから
用心深く砂浜に
上陸し、
安全を
確かめてから
産卵にとりかかるのです。∵
5. アカウミガメは、左右の後ろ足を
交互にシャベルのように
使って、大きな
穴を
掘り、一回に百
個ほどの
卵を
産みます。一頭のメスは、夏の
産卵期の間に多いときで六回くらい
卵を
産みます。
6. では、ウミガメは
危険をおかしてまで、どうして
陸に
卵を
産むのでしょう。ウミガメは、
陸上で生活できるように
進化してきた
爬虫類の
仲間です。
爬虫類は
乾いた
場所でも体の水分が外へ出ていかないように、
丈夫なウロコのような
皮膚で体をおおっています。
卵も、水中に
産む魚類や
両生類のものと
違い、
鳥類の
卵のように
殻に
包まれています。ウミガメの
卵は、
殻を通して
息をしており、水中だと
息ができずに
死んでしまうのです。このため、ウミガメは一生の大
部分を海で
暮らすようになった今でも、
卵だけは
陸に
産みにくるのです。
7. ウミガメのひとりごと、「わたしも、本当は、海でウミたいわあ」。
8.
言葉の森
長文作成委員会(Κ)
長文 7.3週
1. 【1】父が母国をはなれたあと、母は三人の
育ちざかりのむすこをかかえ、けんめいに生きてきました。「
牛乳とやさいをうる店がちかくにないから、あなたがやってみては。お金は用だてます。」と、しんせつな友人がすすめてくれ、家のすぐそばに小さな店をひらきました。【2】もうけはみじめなほどすくないのですが、ともかく毎日いくらかでもお金がはいってくるのは
助かります。
2. それでもときには、あすのお金にもこまることがありました。そこでロベルトとリュドビグの兄弟は、アンデルセンの
童話そっくりのアルバイトをしました。【3】町かどに立って、通行人にマッチのわけうりをし、
銅貨をいくまいか、かせいだのです。
3. ロベルトとリュドビグが、ほこらしげにその日のうりあげを母にわたすのをみたとき、アルフレッドは、どれほどじぶんをなさけなくおもったかしれません。【4】からださえじょうぶなら、兄たちにけっしてまけてはいませんのに……。
4. アルフレッドが気をうしなってたおれた数日後の雪の日には、こんなことがありました。
5. 【5】店から昼食のしたくにかえった母が、ロベルトに一まいの
硬貨をわたし、「パンとすづけにしんをかってきてちょうだい。それでおひるをすませましょう。」とたのみました。
6. 【6】ロベルトは二つへんじででかけていったのですが、いつまでももどってきません。
7.「どこまでいったのかしら……。」
8. しびれをきらした母が、ドアをあけると、そこにロベルトが立っていました。そまつながいとうを雪でぐっしょりぬらし、青ざめてふるえながら。
9.【7】「ぼく、お金を雪のなかにおっことしたんだ。いくらさがしてもみつからなくて……。」
10. 十二さいの、父ににてがっしりしたからだのロベルトがなきじゃくりました。
硬貨をしまったポケットにあながあいていたのです。【8】母の、なかみのとぼしいさいふのことをおもって、ロベルトは、きっと、とほうにくれてしまったのでしょう。
11.(かわいそうに、ロベルト兄さん……。)
12.ベッドのなかのアルフレッドは、心でよびかけました。
13.【9】(ひるごはんくらい、たべなくてもへいきなのに……。)
14.「おばかさんねえ……。」
15. ロベルトをだきしめて、母がわらいました。∵
16.「雪のなかに
貯金したとおもえばいいじゃない。」
17.「そうさ。」
18.と、リュドビグ。
19.【0】「でも、雪がとけたとき、フレイのやつがさきに
貯金をみつけなきゃいいけどなあ。」
20. フレイというのは、リュドビグのけんかなかまなのです。
21. みんな、おもわずふきだしました。
22. それから母と子の四人
家族は、ひとさらずつのスープを、フーフーふきながらのみ、ほかになんにもたべなくても、心はみちたりていました。たがいのあたたかい
理解と
愛情とユーモアでむすばれていましたから。
23.(「ノーベル」大野
進著より)
長文 7.4週
1. ドイツの心理
学者が、
味には、
塩味、
酸味、
甘味、
苦味の四つの
基本の
要素があって、どんな
味もその組み合わせでできているという
説を
発表して
以来、
基本の
味についてはもうこれ
以外にないと思われていました。しかし、
味覚を
研究していた日本人の
化学者たちは、これにもう一つ、
旨味を
加えるべきだと
主張しました。
2. この
旨味の
成分を
発見し、
初めて学会に
報告したのは、池田
菊苗 博士です。
博士はある日、
夕飯を食べていて、
妻が作ったお
吸い物のあまりのおいしさに
感動を
覚えたのです。そして、「この
味は、四つの
基本味だけで出せる
味ではない」と
確信し、
旨味の
研究に
取りかかりました。
3. お
吸い物のだしは、
昆布でとられていました。そこで
博士は、四十キログラムもの
昆布から
だし汁を作り、そこから
旨味以外のすべての
成分を
取り除いていくという、気の遠くなるような
作業を
続けました。そして
最後に
残った
旨味の正体が、
グルタミン酸という
物質であることをつきとめたのです。池田
博士はこれを学会に
報告するとともに、
調味料として
大量生産する
方法を
発明しました。そしてこの
旨味の
素は、「
味の素」として
商品化され売り出されました。
4.
旨味の
成分は、池田
博士が
発見した
グルタミン酸以外にもあります。たとえば、
煮干しや
鰹節のだしの
旨味はイノシン
酸、
干しシイタケやマツタケの
旨味はグアニル
酸です。だしの
味は外国にもないわけではありません。
西洋料理には
肉類と
香味野菜を
煮込んでとるスープストックやブイヨンと
呼ばれるだしがあります。
中華料理では、
鶏ガラや
干しエビ、
白菜やネギなど、やはりさまざまな
材料を
煮込んで「
湯」と
呼ばれるだしを作ります。
5. このように
旨味は
確かに
味をよくする
成分であるとは
認められていましたが、
旨味が
第五の
基本味であるということは、
世界の人々∵になかなか
受け入れてもらえませんでした。しかし、
最近になってようやく、
旨味は
第五の
味として
認められ、そのまま「
UMAMI」という用語となって
世界中に知られるようになったのです。
6. それでは、
旨味は、なぜおいしく
感じられるのでしょうか。それは、
旨味の
成分が、
私たちの体を作るために
欠かせないものだからだと言われています。
グルタミン酸は
アミノ酸というグループに
属し、イノシン
酸やグアニル
酸は
核酸と
呼ばれるグループに入る
化学物質です。そして、この
両方ともが、
私たちの体を作るのにとても
必要なものなのです。つまり、体の方で、ちゃんとこれらをおいしく、たくさん
取り込むようにできているのかもしれません。
7.
旨味は
少量の
塩が入ることで、より強くなります。また、ちがうグループの
旨味を組み合わせることによっても、ぐんとおいしさが上がることがあります。したがって、うまく
旨味を
利用することで、かえって
塩分を
減らしたり、よりおいしい
味付けにしたりすることも
可能になるのです。
8. ところで、
昆布の
旨味を
発見した池田
博士は、ロンドンに
留学していたとき、同じくロンドンに
留学していた文学
者の夏目
漱石に会っています。もしかすると、夏目
漱石と、「日本
料理のおいしいだしの
味が
恋しいなあ」などと話をしていたのかもしれません。
9.
旨味の
研究は、
一杯のお
吸い物から
始まりました。
10.
昆布のだしによろコンブ池田
博士の
笑顔が、
研究の
出発点だったのです。
11.
言葉の森
長文作成委員会(τ)
長文 8.1週
1.【1】「あつっ。」
2. ぼくは、思わず指を
引っ込めました。しかし、後ろを向いている母には
気付かれませんでした。今夜は、ぼくの大
好物の鳥の
唐揚げです。あつあつの鳥が
並ぶお皿から
食欲をそそる
香りが
漂ってきます。
3. 【2】ぼくは、思わず手を
伸ばしてしまったのですが、
揚げたてだったせいで、
人差し指にやけどをしてしまいました。ぼくは何食わぬ顔で、そっと
洗面所へ行き、指を流水で
冷やしました。母は何も知らずに、
揚げ物を
続けています。
4. 【3】その
唐揚げは、ぼくが下味をつけるのを
手伝ったのです。ショウガやニンニクをすりおろしたり、酒やしょうゆを入れたり、
片栗粉をまぶしてなじませたりするのがぼくの仕事でした。だから、どんな味に仕上がったか
確かめたかったのです。
5. 【4】ぼくは、指が
冷たくなるまで
冷やすと、
再びキッチンに向かいました。さっきの
唐揚げは食べごろに
冷めているはずです。のれんをあげて、テーブルに目をやると、
6.「あ、あれ? ないっ。」
7.
唐揚げのお皿はなくなっていました。
8.【5】「鳥を取り上げないでえ。」
9.とぼくは、言いそうになりましたが、がまんして、
冷静にまわりを
見渡しました。なんと、お皿は母の横のレンジ台に
移動していました。ぼくは、まだ食べていないのにと心の中で
叫びました。
10. 【6】母はニヤッとして、
菜ばしではさんだ鳥を
振って油を切りながら、
11.「
残念でした。」
12.と言いました。さらに、
13.「水ぶくれにならなかった?」
14.と聞きました。ぼくは、さっきのつまみぐい
未遂を母は知っていたのだなあとあせりました。∵
15. 【7】父もつまみぐいの
常習犯です。会社から帰って、まずキッチンに直行し、テーブルの上をチェックします。そして、
置いてあるものをひょいと口に入れてしまいます。すると、母が
必ず、
16.「きちんと手を
洗ってから! うがいもしてから!」
17.と言うのです。
18. 【8】父は、はいはいと言いながら
洗面所に消えます。そんなときの父は、まるで
叱られた
子供のようです。父は何度も注意されているのに、
堂々とつまみぐいをするところがぼくと
違います。
19. 【9】ぼくは、
昨日うまい
言い訳を
考え付きました。つまみぐいを
叱られたら、ママの
料理があんまりおいしそうだからだよ、と言うのです。これなら見つかっても
叱られません。しかし、「そんな
言い訳していいわけ」と言われるかな。【0】
20.(言葉の森
長文作成委員会 φ)
長文 8.2週
1. 羽には、
様々な
用途があります。あるときには
婦人の
帽子を
飾り、
女性の
美しさを
際立たせます。
別のときにはペンになり、ラブレターをつづるかもしれません。またあるときにはコートの
中綿になり、
私たちを
温かく包んでくれます。
2. しかし、羽のありがたみをいちばん
感じているのは、何といっても鳥たちでしょう。羽がなければ
飛ぶことができません。
更に、
美しい羽は、つがいの
相手となるパートナーをひきつけるのにも
役立ちます。また、鳥を
寒さから
守る役目も
果たします。これらの点では、鳥たちも人間とあまり
変わりません。もっとも、羽をペンの
代わりにする鳥はいないようですが。
3.
鳥類が羽を
持っていることは広く知られていますが、その作りをじっくり
眺めたことのある人はあまり多くないかもしれません。羽は
実に見事にデザインされています。
4.
風切羽の中心には羽を
支える軸が走っています。よく見るとその
裏側には一本の
溝が
刻まれています。このちょっとした
工夫のおかげで
軸の
強度は高まり、
曲がったりよじれたりしても
折れにくくなっています。
5.
鳥類はまた、
普通の羽の間に、糸のような細長い羽を
持っています。この羽の
根元にある
一種の
感覚器は、羽の
乱れを鳥に知らせます。羽が
乱れてきたという
信号が出ると、鳥は
翼を休め、くちばしで
羽づくろいをして羽を
整えます。この
感覚器はまた、
飛んでいる
速度を鳥が
判断するのに
役立っているのではないかとも言われています。
6.
表面から見える羽の下には、ダウンと
呼ばれる
綿羽がぎっしりと生えています。カモの場合、その
厚さはニセンチ近くにもなります。
綿羽の
断熱性は
優れており、冬の
身を切られるような
寒さも、ダウンのコートがあれば
平気です。∵
7. 羽のおかげで、鳥も人間もファッションを楽しむことができ、さらには
寒さをしのぐこともできます。鳥の羽は、まさに「一石
三鳥」あるいはそれ
以上の
働きをしています。しかし、生まれつきそういう羽を
持っているカモたちにとっては、当たり前のことなのカモしれません。
8.
言葉の森
長文作成委員会(τ)
長文 8.3週
1. 【1】ニトログリセリンのグリセリンは、石けんをつくるときにできる
副産物です。ねばっこい
液で、
薬や、
機械のうごきをなめらかにするための
油としてつかわれます。【2】「
硝酸が
変化させたグリセリン」というのが、ニトログリセリンのいみですが、じっさいには、とくべつのそうちで、こい
硝酸と
硫酸をまぜた
液に、水分をとりさったグリセリンをそそいでつくります。
2. 【3】これくらいのことは、
技術雑誌にしたしんでいるアルフレッドには、とっくにわかっています。
3.(つくりかたがわかっても、ばくはつをコントロールすることには
役だたないなあ……。)
4. 【4】そうおもいながら、アルフレッドは、いくどか、小さなばくはつ
実験をこころみました。けれども、ニトログリセリンは、うんともすんともいわないか、とんでもないときにばくはつして、きもをひやさせるかです。
5.【5】「いずれにしても、
導火線を用いなければならないよね……。」
6. アルフレッドが、ちえをかりにいったジーニン先生は、大学の
研究室でいいました。
7. 【6】
導火線は、黒色
火薬を紙と糸でまいてつくった線です。手もとに火をつけると、シューッともえていき、ばくやくをばくはつさせるのです。
8.【7】「……そうなんです、先生。まさか
大量のニトログリセリンを、
鉄のはりでばくはつさせるわけには、いきませんものね。いのちあってのものだねです。」
9.【8】「しかし、
導火線では、ばくはつしない……と。あたえるショックが小さすぎるのかなあ。」
10.【9】「そうかもしれません。といって、
導火線をうんと太いものにすると、もちはこびのとき、きけんですし……。」
11. アルフレッドは、そうこたえながら、「あたえるショックを強めるには?」と、ノートにメモしました。【0】
12.
13.(「ノーベル」大野
進著より)
長文 8.4週
1. 文字は、
初め石などに
刻まれていました。しかし、それでは時間もかかるし、
重すぎて
持ち運ぶこともできません。人間が、カイコのまゆから
絹の
布を作ったり、
植物から
繊維をとり出して
布を作ったりすることができるようになると、その
布を作る
技術を
利用して、紙を
発明することができるようになりました。紙は、
安い上に、
軽くて、しかも
薄いので、何
枚も
重ねて
使うことができました。この紙の
発明で、文字が人間の社会に広がるようになったのです。
2. 日本にも、一六〇〇年
以上前に、中国から紙を作る
方法が
伝わってきました。日本には紙にするのにとてもよい
植物があり、日本人は
工夫が
得意だったので、あっというまに、
厚い紙、
薄い紙、
硬い紙、
軟らかい紙、白い紙、色のついた紙、そして、金や
銀をちらした紙、よい
香りがする紙など、いろいろな紙が作り出されました。
3. その
時代に書かれた本には、「いろいろな紙をもらうと、この紙にあわせて、どんなふうに
工夫して字や絵をかこうかと考えてとても楽しい」とか、「いやなことがあっても、
真っ白で
上等な紙のたばをもらうと、
気持ちもはれて、ここに何を書こうかとうれしくなってくる」などという話が
載っています。今でも、きれいな
折り紙や
包み紙、
真っ白なノートなどをもらったときに、同じような
気持ちが
感じられるのではないでしょうか。
4. 日本では、古い紙を
もう一度すきかえして新しい紙にする
技術も
発明されました。そのリサイクルの紙は
真っ白でなくしっかりもしていませんでしたが、
普通の人も買うことができる
安い本になりました。
5.
江戸時代になると、紙の本はたくさんの人が
持つことができるようになりました。そればかりか、子どものための、紙細工のおもちゃまでたくさん作られるようになりました。これを、おもちゃ絵と∵いいます。そこには
豆絵本のような、本のかわりになるものや、はさみで切ってくみたてて
遊ぶ紙おもちゃなどさまざまな
種類のおもちゃがありました。きせかえ人形や、おしばいごっこの立ち絵、紙ずもうやめんこ、そして組み立て絵というものができたのもこのころです。ほかにもすごろくやかるたなど、今の
時代にも
伝わるおもちゃがこの
時代に
発達しました。。
6.
江戸時代の子どもたちも、今の子どもたちが、ゲームのカードをためたりマンガを買いそろえたりするのと同じことをやっていたのです。
7.
破れやすく、火には
燃えてしまう紙と知ってはいても、それでも紙でできたものには、
集めて
愛さずにはいられない
魅力があるようです。
8.「紙
君って、えらいんだね。
今度から紙
様って
呼ぼうか。」
9.「いやあ、もっと気楽に読んでくれた方がいいよ。」
10.「じゃあ。ヘイ、カミーン。」
11.
言葉の森
長文作成委員会(λ)
長文 9.1週
1.【1】「あっ、これ知ってる。」
2. テレビのコマーシャルに金子みすずさんの詩が流れました。
私は、三年生のとき、国語の教科書で知ってから、みすずさんの詩をたくさん読みました。その中の一つが使われていたので、びっくりしたのです。
3. 【2】
私の
好きな勉強は、国語です。どのくらい
好きかというと、四月に新しい教科書をもらうと、一日で全部読み終えてしまうくらいです。国語の勉強は、新しい漢字をたくさん
覚えるのも、いろいろな人の作品を読むのも、音読も、作文も、全部楽しくてたまりません。
4. 【3】国語はまるで勉強ではなく
趣味のような感じです。学校の
授業が毎日、全部国語だったらいいのになあ、とよく考えます。
5. 去年、母にそれを話したら、
6.「がんばって勉強をして、国語を
専門に研究できる大学に行くといいかもしれないわね。」
7.と言ってくれました。
8. 【4】そのとき、横で新聞を読んでいた父は顔を上げて、
9.「それまでは国語だけではなく、いろいろな科目の勉強もしっかりやるといいよ。国語
以外の勉強が、国語の研究に役立つからね。」
10.と、
私の方を向きました。【5】
私はそれを聞いて、ようし、がんばるぞと思いました。
11. 一年生のときから
仲良しのはるかちゃんは、国語はあまり
好きではなく、算数や理科の方が
好きなのだそうです。
私は、どちらかというと、算数は苦手です。【6】だから、いつもおたがい勉強でわからないところは教え合っています。
12. はるかちゃんは、読書があまり
好きでないらしく、
私がおもしろい本をすすめても、
13.「ええ。めんどうくさいなあ。これ、字が小さいし。」
14.などと言って、あまり読んでくれません。【7】
私は
逆に、数字がたくさん
並んでいる算数の問題集を見ると、「わあ、めんどうそう。」と思ってしまいます。∵
15. そんなはるかちゃんですが、去年、「ちいちゃんのかげおくり」を国語で習ったときは、とても
真剣に何度も読んだそうです。【8】二年生のときの「スイミー」もおもしろかったと言っていました。
16. だから、
私は、
将来国語の教科書を作る仕事をするようになったら、
子供が
興味を持つ話をもっとのせたいと思っています。
17. 【9】
私にとって、国語の勉強は、
ご飯にたとえられます。ほかの教科は、スープやおかずやデザートです。国語の勉強をしっかりやると、きっと
栄養もたっぷり、おなかもいっぱいになります。そんな気持ちで、
私は、今日も国語の
授業を聞いています。【0】
18.(言葉の森
長文作成委員会 φ)
長文 9.2週
1. みなさんは空の絵をかくとき、何色でかきますか。ふつうは空色、つまり
薄い青色にするのではないでしょうか。しかし、もしかすると、ある人は、
昨日の
夕焼けの空を思い出してきれいなオレンジ色にするかもしれません。
2.
確かに、空の色は
時刻によっても、天気によっても
変わります。空だけではありません。木でもベンチでも人の顔でも、その時々でいろいろな色合いに
変わります。では、その時々の色を
決めるのはなんでしょうか。
3. それは光です。
物は、光との
関係によってさまざまな色合いに
変化します。
特に、外の
景色は
太陽の光をじかに
受けているので、一日のうちでもさまざまに
印象を
変えます。この光というものを大切に考えて、
自然の
姿をそのまま絵にしようと考えたのが、
印象派と
呼ばれる
芸術家たちでした。
4.
印象派とは、十九
世紀の後半にフランスで
起こった画家を中心とするグループです。それまでは、時間をかけてかきこんだ
重々しい作品がよいとされてきました。そのため、
一瞬の
輝きをとらえてすばやく
仕上げる印象派の絵は、
最初単なるスケッチにすぎないと見られていました。
印象派の
最初の
印象は、あまりよくなかったのです。
5. しかし、
印象派の人たちは、
実はしっかりした科学
的な考え方にもとづいて
制作をしていました。そのひとつが、
シュヴルールという人の色の考え方です。
彼は本の中で、となり合う色がおたがいに
影響しあって、いろいろな見え方になることを
説明しました。そしてとなり合う色どうしが
違えば
違うほど、より大きな
効果があるとしました。
6.
例えば、赤と
緑、黄と
紫などは、
最も違う色合いで、このような色の組み合わせを
補色の
関係と
呼びます。
補色を
並べてみると、目がちかちかするような
効果を生みます。青っぽい色は
奥に∵
引っ込み、赤っぽい色は前に
飛び出してくるようにも見えます。
7. その
印象派の画家たちの中で中心となったのが、クロード・モネです。モネは、
移ろいやすい光や
自然の
鮮やかな色を、だれよりも
深く追い求めました。
8. それまでの絵は、
絵の具を
混ぜることによってさまざまな色を作り出していました。
絵の具は
混ぜ合わせれば
混ぜ合わせるほど、明るさがなくなっていきます。
絵の具の
筆を
洗っていると、水がどんどん
暗い色になっていくことを知っている人も多いでしょう。
印象派以前の絵は、
暗い部分に
影をつけることによってものの
奥行きを出していたので、絵が
更に暗く重い感じになっていました。
9. モネはこうした
暗い絵を
嫌いました。そして、光に
溢れたみずみずしい
景色を
描くために、新しい
技法を
使いました。ある色を作るのに、
絵の具を
混ぜ合わせるのではなく、
純粋な色を数多くの点としてとなり合わせるように
描いたのです。こうすると、
離れて見た場合、それらの色が
混ざり合って見えます。しかし、
絵の具を
混ぜて
使ったときよりもはるかに明るい色になるのです。モネは、となり合う点どうしを
補色の
関係にするなど、いろいろな
工夫を
重ねました。こうして、モネの絵は、
自然の風や
太陽のあたたかさまで
感じさせるようなものになっていったのです。
10.
最初は
受け入れられなかったモネの絵も、
次第に多くの人に
認められるようになりました。今その光
溢れる絵は、
世界中の人々から
愛されています。
11.「モネさんのような絵を、
印象派の絵と言ってもイーンショウか。」
12.「うん、いいかモネ。」
13.
言葉の森
長文作成委員会(α)
長文 9.3週
1. 【1】アルフレッドのゆいごんじょうは、十二月十七日、サン=レモのやしきでひらかれました。立ちあったのは、リュドビグの長男イマニュエル、ロベルトの長男ヤルマル、それにソールマンと
弁護士です。
2.【2】「なんですって。わたしが、ノーベルさんのゆいごんをとりしきることになっているんですって……。」
3. ソールマンは、おどろきました。たしかに、ゆいごんじょうのおもて書きには、ソールマンの名があります。【3】ゆいごんじょうが、
弁護士によってよみあげられるにつれ、ソールマンはさらに大きなおどろきにうたれ、まばたきもしません。
4.「わたし、アルフレッド=ノーベルは、あとにのこすざいさんについて、つぎのようにゆいごんする……。」
5. 【4】アルフレッドは、ごくわずかなお金をおくる友人、しんるいの名をあげたあと、こう書いていました。
6.「のこりのすべての金の
利子を、毎年、そのまえの年に、
人類のために
役だつしごとをした人々に、
賞としてわけること。
7. 【5】
利子は五つにわけ、
8.一、
物理学
9.一、
化学
10.一、
医学生理学
11.一、文学
12.一、
国際平和
13.の、それぞれの分野で、
重要な
発明発見をし、あるいは
理想にみちた
作品をあらわし、あるいはまた
戦争をふせぐことにつとめた
人物にあたえること。」
14. 【6】ゆいごんじょうを、
弁護士がよみおわると、ソールマンが、ぼうぜんとして、いいました。
15.「このしごとを、わたしがやるのですか。たった二十六さいのこのわたしが……。」
16.【7】「ソールマンさん……。ロシア語では、ゆいごんをとりしきる人のことを『たましいの
代理人』というのですよ。しっかりなさい。おじのアルフレッドは、あなたがこれをやれるとみこんだから、あ∵なたをえらんだのですよ。」
17. 【8】イマニュエルが、なき父リュドビグそっくりの、かしこそうな目をむけてはげましました。
18. そうはげますイマニュエルは、ヤルマルとともに、ゆいごんじょうがもしなかったら、アルフレッドのばく大なざいさんをもらえるはずの人なのです。
19.【9】「わかりました。では、このしごとを、わたしのしょうがいのしごととして、おひきうけします。」
20. そうちかったソールマンは、十二月二十九日、ストックホルムの教会で、アルフレッドのそうしきがおわったあと、しごとにとりかかりました。【0】
21.
22.(「ノーベル」大野
進著より)
長文 9.4週
1. 海水は
塩辛いもので、
私たちはそれを当たり前のことだと思っています。
実際、そこに
含まれる
塩分は
大変な
量です。海水をすべて
蒸発させ、
残った
塩分を
陸地に
敷きつめると、百五十メートルもの
厚い層ができると言われています。この
大量の
塩は、一体どこから来たのでしょうか。
2.
塩分のふるさとのひとつは川です。
地球上に
存在する川の大半は
淡水なので、これは
意外な
感じがします。雨が
降ると水が地中に
しみ込んで、土の中にあるミネラル分を
溶かします。このミネラル分の中に
塩分が
含まれています。
溶け出した
塩分は、川によって海まで
運ばれます。ただ、
淡水の川に
含まれる
塩分はごく少ないので、なめても
塩辛いとは
感じません。
3.
塩分のもうひとつのふるさとは、
海底火山です。
活動する
海底火山の
爆発や
熱水の
噴出によって、地中からミネラル分が
放出され、その中に
含まれる
塩分が海水に
溶け込むのです。
4. このように、
塩はいろいろなところから海を
目指してやって来ますから、海には
塩がたまる一方のように思えます。その上、海からはどんどん水分が
蒸発しミネラル分だけがあとに
残ります。これでは、
塩分がどんどん
濃くなっていったとしても
不思議ではありません。しかし
現実には、海水の
塩分濃度は、ほぼ
一定です。つまり、
増える分と
減る分とがうまく
釣り合っているのです。では、
塩分は一体どこへ行くのでしょう。
5. まず、海の
生物が
塩を体の中に
取り込みます。
例えばサンゴやエビ、カニなどは、
硬い殻を作るために
塩類を
必要とします。これらの
生き物が
死ぬと、その
殻に
含まれていた
塩類は
海底にたまります。こうして
塩分の
一部は
取り除かれます。このようにして、海水中の
塩分は、
増える量と
減る量のバランスがとれているのです。
6. では、この
海底にたまった
塩分はどうなるのでしょうか。
海底を∵
含む地殻は
巨大なプレートで
成り立っています。それらのプレートは少しずつ
移動し、二つ
以上のプレートが出合うところでは、一方が
隣のプレートの下に
入り込みます。
沈み込んだ
海底は
高温のマントルの中で
溶けていきます。
当然、
海底にたまっていた
塩分も
一緒に
溶けてしまいます。
7. 地中から海へ、そしてまた地中へ。
塩は、この
壮大な
旅を気の遠くなるような年月の間
繰り返してきました。今日の
一杯のお
味噌汁にも、
塩分の長い
旅の
歴史が
刻まれているのです。
8.「
塩分さん、
最初の生まれはどこなんですか。」
9.「
実は、スーパーの
食品売り場なんだよ。」
10.「うそでシオ。」
11.
言葉の森
長文作成委員会(Μ)