長文集  8月2週  ○ほんとに、たからものが(感)  si2-08-2
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2010/06/14 11:59:39
【1】「ほんとに、たからものがあるのか!

 竹ちゃんが、ぼくにむかってねんをおすよ
うにいいました。
 そういわれると、ぼくもあとにはひけませ
ん。
「うそじゃない。おじいちゃんが、いったん
だ、ほらあなの中に、千りょうばこにはいっ
た大ばん小ばんが、ごっそりうずめてあるっ
て。」
 【2】ぼくのうそはますます大きくなり、
とりかえしのつかない大ぼらになっていきま
した。
「よし、いってみよう。だけど、おまえがい
ちばんさきにはいるんだぞ。いいな。」
 竹ちゃんが、だめおしをするように、ぼく
の顔を見つめていいました。
【3】「ああ、いいとも。」ぼくは、むねを
はってこたえました。
 でも、ほんとうのところ、ぼくの心は、(
こまったぞ。どうしよう……。)と、おろお
ろしていました。
 やがて、ローソクやマッチなどをもったぼ
くたち五人は、ドンドンあなへむかいました

 【4】あなの入り口は、やっと人がとおれ
るだけのせまさです。
「さあ、おまえからはいるんだ!」
 竹ちゃんがぼくの心を見すかすようにせき
たてました。ぼくは、とたんに、ぶるるる…
…と、からだがふるえました。
【5】「おい、さっきいったの、あれみんな
うそっぱちなんだ!」
 ぼくは、のどのあたりまでそんなことばが
でかかったのですが、またゴクン、とのみこ
んでしまいました。
 みんなから「大うそつき、大ぼらふき」と
、いわれるのがしゃくだったからです。
 【6】ぼくは、ローソクに火をつけてまっ
さきにあなにはいりました。
 正ちゃん竹ちゃん、六ちゃんとあとにつづ
き、いちばんしんがりは竹ちゃんの弟で、二
年生の清ちゃんでした。
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
 【7】はいったとたんに、しめっぽくかび
くさいいやなにおい が、ぷーんとはなをつ
き、ローソクの光におどろいたコウモリが、
パタパタ……と、とびたちました。
(ばか、ばか、ばか! おまえって、なんて
ばかなんだ。なぜ、つまらないうそなんかつ
いたんだ!)
 【8】ぼくの心が、しきりにぼくをせめた
てました。
「おい、たからのありかはどのへんだ!」
 うしろから、竹ちゃんがたずねました。
「もっとさきだ。」
 ぼくは、かぼそい声でこたえました。∵
 【9】しばらくすすむうちに、てんじょう
から、大きな石がぐーっとおちかかったりし
て、ゆくてをふさぎました。
 やっと、はらばいでいけるようなところも
あります。
 声をだすと、ウォーン、ウォーンと、ぶき
みにあなの中でひびきます。
 【0】はじめは、たがいにわらったり、は
なしたりしていたなかまは、しぜんにだまり
こんでしまいました。
「おい、どこだ、千りょうばこのあるところ
は!」
 うしろから、みんながおこったような声で
、さけびました。
 どこまでつづいているかわからないほらあ
な。石が上からおちかかっていきうめになっ
たら……と、おもったしゅんかん、ぼくはも
う、一ぽもすすめなくなりました。
 父や母のしんぱいそうな顔が、目のまえに
ちらちらして、なきだしたくさえなったので
す。
(はやくあやまれ、みんなにあやまって、あ
なの中からでろ!)
 ぼくの心がさけびました。
 そのときです、いちばんしんがりにいた清
ちゃんが、とつぜん大声でなきだしました。
 こわいから、かえるというのです。とたん
に、ぼくはすくわれたような気もちになって

「だめだなあ、こんなときに小さい子をつれ
てくるからだ……。」
と、うしろの竹ちゃんをなじるようにいいま
した。
「おい、みんなかえろうぜ。どうせ、たから
ものなんか、ありっこないんだ。」
 竹ちゃんは、ぼくの心の中をみすかしたよ
うに、いいかえしました。
「そ、そ、そんな、おじいちゃんが、ちゃん
といったんだぞ。」
 ぼくはあわてぎみに、いっしょうけんめい
べんかいをしました。
 やがて、ぼくたち五人は、ぶじにほらあな
の外へ、はいだしました。
 あなの中からでたとたんに、ぼくはすくわ
れたように、ほっと大きないきをつきました

 それでも、なかまたちの顔を、まっすぐ見
ることができず、まだなきじゃくっている清
ちゃんのそばへいって、
「ごめんよ。」
と、小さな声でいいました。

「ほらふきうそつきものがたり」(椋鳩十(
むくはとじゅう)編 フォア文庫より)