【1】「ほんとに、たからものがあるのか! 」 竹ちゃんが、ぼくにむかってねんをおすよ うにいいました。 そういわれると、ぼくもあとにはひけませ ん。 「うそじゃない。おじいちゃんが、いったん だ、ほらあなの中に、千りょうばこにはいっ た大ばん小ばんが、ごっそりうずめてあるっ て。」 【2】ぼくのうそはますます大きくなり、 とりかえしのつかない大ぼらになっていきま した。 「よし、いってみよう。だけど、おまえがい ちばんさきにはいるんだぞ。いいな。」 竹ちゃんが、だめおしをするように、ぼく の顔を見つめていいました。 【3】「ああ、いいとも。」ぼくは、むねを はってこたえました。 でも、ほんとうのところ、ぼくの心は、( こまったぞ。どうしよう……。)と、おろお ろしていました。 やがて、ローソクやマッチなどをもったぼ くたち五人は、ドンドンあなへむかいました 。 【4】あなの入り口は、やっと人がとおれ るだけのせまさです。 「さあ、おまえからはいるんだ!」 竹ちゃんがぼくの心を見すかすようにせき たてました。ぼくは、とたんに、ぶるるる… …と、からだがふるえました。 【5】「おい、さっきいったの、あれみんな うそっぱちなんだ!」 ぼくは、のどのあたりまでそんなことばが でかかったのですが、またゴクン、とのみこ んでしまいました。 みんなから「大うそつき、大ぼらふき」と 、いわれるのがしゃくだったからです。 【6】ぼくは、ローソクに火をつけてまっ さきにあなにはいりました。 正ちゃん竹ちゃん、六ちゃんとあとにつづ き、いちばんしんがりは竹ちゃんの弟で、二 年生の清ちゃんでした。 |
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【7】はいったとたんに、しめっぽくかび くさいいやなにおい が、ぷーんとはなをつ き、ローソクの光におどろいたコウモリが、 パタパタ……と、とびたちました。 (ばか、ばか、ばか! おまえって、なんて ばかなんだ。なぜ、つまらないうそなんかつ いたんだ!) 【8】ぼくの心が、しきりにぼくをせめた てました。 「おい、たからのありかはどのへんだ!」 うしろから、竹ちゃんがたずねました。 「もっとさきだ。」 ぼくは、かぼそい声でこたえました。∵ 【9】しばらくすすむうちに、てんじょう から、大きな石がぐーっとおちかかったりし て、ゆくてをふさぎました。 やっと、はらばいでいけるようなところも あります。 声をだすと、ウォーン、ウォーンと、ぶき みにあなの中でひびきます。 【0】はじめは、たがいにわらったり、は なしたりしていたなかまは、しぜんにだまり こんでしまいました。 「おい、どこだ、千りょうばこのあるところ は!」 うしろから、みんながおこったような声で 、さけびました。 どこまでつづいているかわからないほらあ な。石が上からおちかかっていきうめになっ たら……と、おもったしゅんかん、ぼくはも う、一ぽもすすめなくなりました。 父や母のしんぱいそうな顔が、目のまえに ちらちらして、なきだしたくさえなったので す。 (はやくあやまれ、みんなにあやまって、あ なの中からでろ!) ぼくの心がさけびました。 そのときです、いちばんしんがりにいた清 ちゃんが、とつぜん大声でなきだしました。 こわいから、かえるというのです。とたん に、ぼくはすくわれたような気もちになって 、 「だめだなあ、こんなときに小さい子をつれ てくるからだ……。」 と、うしろの竹ちゃんをなじるようにいいま した。 「おい、みんなかえろうぜ。どうせ、たから ものなんか、ありっこないんだ。」 竹ちゃんは、ぼくの心の中をみすかしたよ うに、いいかえしました。 「そ、そ、そんな、おじいちゃんが、ちゃん といったんだぞ。」 ぼくはあわてぎみに、いっしょうけんめい べんかいをしました。 やがて、ぼくたち五人は、ぶじにほらあな の外へ、はいだしました。 あなの中からでたとたんに、ぼくはすくわ れたように、ほっと大きないきをつきました 。 それでも、なかまたちの顔を、まっすぐ見 ることができず、まだなきじゃくっている清 ちゃんのそばへいって、 「ごめんよ。」 と、小さな声でいいました。 「ほらふきうそつきものがたり」(椋鳩十( むくはとじゅう)編 フォア文庫より) |