長文 8.2週
1.【1】「ほんとに、たからものがあるのか!」
2. 竹ちゃんが、ぼくにむかってねんをおすようにいいました。
3. そういわれると、ぼくもあとにはひけません。
4.「うそじゃない。おじいちゃんが、いったんだ、ほらあなの中に、千りょうばこにはいった大ばん小ばんが、ごっそりうずめてあるって。」
5. 【2】ぼくのうそはますます大きくなり、とりかえしのつかない大ぼらになっていきました。
6.「よし、いってみよう。だけど、おまえがいちばんさきにはいるんだぞ。いいな。」
7. 竹ちゃんが、だめおしをするように、ぼくの顔を見つめていいました。
8.【3】「ああ、いいとも。」ぼくは、むねをはってこたえました。
9. でも、ほんとうのところ、ぼくの心は、(こまったぞ。どうしよう……。)と、おろおろしていました。
10. やがて、ローソクやマッチなどをもったぼくたち五人は、ドンドンあなへむかいました。
11. 【4】あなの入り口は、やっと人がとおれるだけのせまさです。
12.「さあ、おまえからはいるんだ!」
13. 竹ちゃんがぼくの心を見すかすようにせきたてました。ぼくは、とたんに、ぶるるる……と、からだがふるえました。
14.【5】「おい、さっきいったの、あれみんなうそっぱちなんだ!」
15. ぼくは、のどのあたりまでそんなことばがでかかったのですが、またゴクン、とのみこんでしまいました。
16. みんなから「大うそつき、大ぼらふき」と、いわれるのがしゃくだったからです。
17. 【6】ぼくは、ローソクに火をつけてまっさきにあなにはいりました。
18. 正ちゃん竹ちゃん、六ちゃんとあとにつづき、いちばんしんがりは竹ちゃんの弟で、二年生のきよしちゃんでした。
19. 【7】はいったとたんに、しめっぽくかびくさいいやなにおいが、ぷーんとはなをつき、ローソクの光におどろいたコウモリが、パタパタ……と、とびたちました。
20.(ばか、ばか、ばか! おまえって、なんてばかなんだ。なぜ、つまらないうそなんかついたんだ!)
21. 【8】ぼくの心が、しきりにぼくをせめたてました。
22.「おい、たからのありかはどのへんだ!」
23. うしろから、竹ちゃんがたずねました。
24.「もっとさきだ。」
25. ぼくは、かぼそい声でこたえました。∵
26. 【9】しばらくすすむうちに、てんじょうから、大きな石がぐーっとおちかかったりして、ゆくてをふさぎました。
27. やっと、はらばいでいけるようなところもあります。
28. 声をだすと、ウォーン、ウォーンと、ぶきみにあなの中でひびきます。
29. 【0】はじめは、たがいにわらったり、はなしたりしていたなかまは、しぜんにだまりこんでしまいました。
30.「おい、どこだ、千りょうばこのあるところは!」
31. うしろから、みんながおこったような声で、さけびました。
32. どこまでつづいているかわからないほらあな。石が上からおちかかっていきうめになったら……と、おもったしゅんかん、ぼくはもう、一ぽもすすめなくなりました。
33. 父や母のしんぱいそうな顔が、目のまえにちらちらして、なきだしたくさえなったのです。
34.(はやくあやまれ、みんなにあやまって、あなの中からでろ!)
35. ぼくの心がさけびました。
36. そのときです、いちばんしんがりにいたきよしちゃんが、とつぜん大声でなきだしました。
37. こわいから、かえるというのです。とたんに、ぼくはすくわれたような気もちになって、
38.「だめだなあ、こんなときに小さい子をつれてくるからだ……。」
39.と、うしろの竹ちゃんをなじるようにいいました。
40.「おい、みんなかえろうぜ。どうせ、たからものなんか、ありっこないんだ。」
41. 竹ちゃんは、ぼくの心の中をみすかしたように、いいかえしました。
42.「そ、そ、そんな、おじいちゃんが、ちゃんといったんだぞ。」
43. ぼくはあわてぎみに、いっしょうけんめいべんかいをしました。
44. やがて、ぼくたち五人は、ぶじにほらあなの外へ、はいだしました。
45. あなの中からでたとたんに、ぼくはすくわれたように、ほっと大きないきをつきました。
46. それでも、なかまたちの顔を、まっすぐ見ることができず、まだなきじゃくっているきよしちゃんのそばへいって、
47.「ごめんよ。」
48.と、小さな声でいいました。

49.「ほらふきうそつきものがたり」(椋鳩十むくはとじゅうへん フォア文庫ぶんこより)