長文集  9月1週  ○うちにはいると、おかあさんは(感)  si2-09-1
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2010/06/14 12:00:08
 【1】うちにはいると、おかあさんは、ヤ
ッちゃんをおふろにいれてくれました。
 あついくずゆをたべて、ヤッちゃんは、ふ
とんにはいりました。
 すると、もうねてしまったとおもっていた
チイちゃんが、むくむくおきあがりました。
【2】「おにいちゃん、さむかった?」
 そういいました。チイちゃんは、もうおこ
った顔をしていませんでした。
「さむかったさあ。こごえて死んでしまいそ
うだった。」
「ごめんね。」
 チイちゃんにあやまられて、しかたなくヤ
ッちゃんは、にこっとわらいました。
【3】「へいきさ、おふろにはいったから。
あのね、チイちゃん、あの手ぶくろ、さがし
たんだけど、見つからなかったんだ。」
「ふーん、そうなの。でも、いいや、ぼくが
まんする。」
 ヤッちゃんは、なんだかチイちゃんがかわ
いそうになりました。【4】それで、つくり
ばなしをすることにしました。
「うーんと、あのね、あの手ぶくろ、じつは
、なくしたんじゃなくて、かしてやったんだ
よ。」
「かしてあげたって、だれに?」
「あのね、小人にさ。」
「小人? ほんとう?」
【5】「うん、ほんとうだよ。夕がた雪がふ
ってきたろ。おにいちゃんがうちへかえろう
とおもって、あるいてくると、もしもしって
よぶんだ。だれかなって見ると、小人じゃな
いか。小さい、小さ い、とっても小さい、
雪の小人。まっ白いふくをきてね、白い三か
くぼうしをかぶった、小人が天からふってき
た。」
【6】「ほんとう? それ、ほんとうのはな
しなの?」
「ほんとうとも。小人が五人、おにいちゃん
のかたに、ぽんと立って、おねがいです、お
ねがいですっていうじゃないか。なんだいっ
ていうとね、すみませんが、その手ぶくろを
かしてくれませんか、そういった。」
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【7】「へへえー、小人が、そんなこといっ
たの!」
「うん。それで、どうしてってきくと、じつ
は……、ぼくたち天からふってきたので、と
まる家がないんです。どうか、しばらく、そ
の手ぶくろ、かたっぽうおかりできませんで
しょうか。」
【8】「へえー、そんなこといったの。手ぶ
くろかたっぽうだけ……。ははあ、わかった
。その小人、手ぶくろにはいってねるんだ。
ゆびのところに、ひとりずつ。そうだ、きっ
と。それで、どうしたの、おにいちゃん。」

【9】「それでね、チイちゃんの手ぶくろだ
けど、ぼくかしてあげちゃったのさ。」
「ふーん、そうだったの。その小人よろこん
だ?」
「よろこんだとも……。大よろこびさ。」
「じゃあ、かしてあげて、よかったね。でも
、その小人、どこにすんでいるんだろう?」
【0】「さあね……、雪の中にあなをほって
、すんでいるんじゃないか……。」
「春になって、あったかくなったら、手ぶく
ろかえしてくれるかなあ。」
「もちろんさ……。」
 そういうと、ヤッちゃんは、ことんと、ね
むってしまいました。
 ☆
 それから一か月半ばかりたって、あたたか
い日が五、六日つづいて、雪がとけはじめま
した。雪がとけてどろんこ道になりました。
 ある日、ヤッちゃんのうちの、おとなりの
犬が、赤いきれをくわえて、ふりまわしてあ
そんでいました。
 それを見て、チイちゃんが、大声をあげま
した。
「ぼくのだっ、ぼくの手ぶくろだ。ゾウの手
ぶくろがかえってきたあ。」
 それは、チイちゃんの手ぶくろでした。
「わあーい。小人にかした手ぶくろだあーい
。小人が、かえしてくれたんだあ。」
 チイちゃんは、大よろこびしました。
 手ぶくろは、長いあいだ雪の下にあったの
で、ちぢんで、小さくなっていました。それ
に、おとなりの犬がふりまわしたからでしょ
う、ところどころあながあいて、もうつかえ
なくなっていました。
 それでも、チイちゃんは、その手ぶくろを
、小人にかした手ぶくろだといって、いつま
でも、だいじにしていました。

「ほらふきうそつきものがたり」(椋鳩十(
むくはとじゅう)編 フォア文庫より)