長文 7.1週
1. 【1】
江戸時代は、
戦争の多かった当時のヨーロッパとはちがい、
犯罪も少ない
平和な
時代でした。大
都会の
江戸で二百年
以上もお
風呂屋さんの
料金が
変わらないという、とても
安定した
時代だったのです。
2. 【2】多くの人が、
長屋というせまい家に
身をよせあって
暮らしていましたが、ぜいたくを言わなければ
食べ物は
充分にあり、
貧しくとも心
豊かに生きることができる
時代でした。そこでいろいろな
庶民の
文化が生まれ
育っていきました。【3】なかでも
園芸はとてもさかんでした。
3. 広い
庭はなくても、
鉢植えの
植物ならだれでも楽しむことができます。たくさんの人々が
鉢物のおもしろさに
熱中し、やがてそれぞれの
時代の
流行も生まれました。【4】カラタチの小さな
鉢植え一つに、今で言えば数
億円の
値段がついたこともあったということですから、その
熱中の
度合がよくわかります。
4. ところで、
江戸時代にはまだ
電灯がなく夜は早く
寝たので、多くの人が
早起きでした。【5】そこで
早起きで
美しく見られる花、アサガオが親しまれ、大
流行しました。
江戸時代以前には、アサガオは
淡い青色のものだけで、道のすみなどに
咲いている
地味な花でした。【6】それが
江戸時代の
後期になると、花も
葉も
実にさまざまな
変わった
種類のものが
栽培されるようになりました。カラーで
印刷されたアサガオの
専門書まで何
冊も出されました。町中では、
天秤棒をかついだ
植木売りが歩いている
姿がよく見られました。【7】アサガオの
優劣を
競う花合わせ、コンクールもさかんに行われ、お寺や
神社の
境内などには、
自慢の
珍しい鉢植えがたくさん
持ち寄られました。
5. アサガオは色や形が
変化しやすい
植物なので、いろいろなもの∵が作られました。【8】当時のカラーの本の中に、
濃い黄色のアサガオがあります。
濃い黄色のアサガオを
咲かせることは、
現代の
技術でもまだできていません。
6. 花の色や形だけでなく、
葉も花に合った形のものが
珍重されました。【9】中でも
好まれたのが
牡丹咲きと言われるもので、これは
雄しべや
雌しべまでが花びらと同じような色や形になったものです。しかし、
苦労を
重ねた
末、やっと
満足のいく色や形のものができても、
変化の
進んだ花ほど
種ができないのが
普通です。【0】
牡丹咲きのものは、
種をつくるのに
必要な
雄しべや
雌しべまでが
変化したものになっているのでなおさらです。そこで、
牡丹咲きの花と同じ親を
持つ兄弟で
普通に
咲いた花から
種をとり、その
種から
芽を出したものからまた
牡丹咲きのものを
選ぶという、気の遠くなるような手間をかけて、新しい
品種を作っていったのです。
7. こんなに手間のかかることでは、「アサガオ」そい人には、とてもできなかったでしょう。
8.
言葉の森
長文
作成委員会 α
長文 7.2週
1. 【1】六人きょうだいの、下から二ばんめ。
2. わたしは、あまたれでなき虫のすえっ子でした。
3. それに、うまれたときから、めんどうをみてくれた、お手つだいのばあやが、わたしを、たっぷりあまやかしてしまったのです。
4. 【2】ころんでないたら、にいさんたちが、ころばしたのだろうと、ばあやは、にいさんをしかりました。
5. ひとりでおきたら、「おお、つよいこと、つよいこと。」と、ほめました。
6. にいさんたちにしてみると、おもしろくないことばかりでした。【3】にいさんたちがころんでも、「気をつけるんだよ。」とか、「おとこの子のくせに、なくなんて。」と、せりふが、まるでちがいましたから。
7. そこで、いまいましいにいさんたちは、だれもいないるすになると、わたしをいじめました。
8. 【4】雨だれポッツリさん
9. ポッツリ ポッツリ ポッツリさん
10.と、いううたを、かえうたで、
11. あまたれ ポッツリさん
12.と、うたいはやしては、からかいました。そうして、わたしのほっぺたに、ポッツリと、雨がふりはじめると、それっと、うたは、ますます元気づいてきます。
13. 【5】なさけなくてかなしくて、わたしの目からポツリポツリおちるしずくは、やがて、とめどもない大雨になってしまうのでした。
14. ある雪の日など、にわにつくった雪の馬にのせてくれたままどっかへいってしまったことがあります。【6】高い馬のせなかから、小さなわたしは、おりられません。
15.「にいさん、にいさぁん。」
16. よんでも、きてくれないので、ながいこと、馬の上にのっかっていたことがあります。白い白い雪の馬が、夕やけでももいろになるまで──
17. 【7】そんなことがあったのに、ある日、またまた、わたしはにいさんにだまされたのです。にわには、雪がいっぱいでした。長ぐつをはいて、外へでたわたしに、大きいにいさんがいいました。
18.「あっ、ゆびわ!」
19. 【8】なんのことかしら。見ると、にいさんは雪の上をゆびさしています。∵
20.「ほら、きれいなゆびわが、おちてる!」
21.「えっ、どこ?」
22. びっくりすると、にいさんはゆびさして、
23.「ほら、そこ、そこにあるじゃないか。」
24. 【9】そこといったって、見えやしません。わたしは、むちゅうで、ゆびさされたところへかけよりました。そのとたん、足もとの雪がバシャン! とおっこち、わたしはふかいふかいあなの中にころげおちてしまいました。【0】おとしあなでした。シャベルであなをほって、あなの上に、小えだや、まつの
葉をかぶせて、雪をかけておいたのです。そこへ、おいでおいでと、ひとをおびきよせて、うまくおっことしたのです。
25. 雪まみれになって、わたしはようやくおきあがりました。まあ、なんてふかいあなでしょう。せいもとどかないあなです。頭の上に青い空があるばかり……、
26. ひどいよう、にいさんのいじわる!
27. もう、はんなきでした。
28.「うえーん、だしてよう。」
29. よんだのに、見えないところで、にいさんがわらっています。
30. うれしそうな声で、わらっています。
31. 大きいにいさんのほかに、小さいにいさんの声もします。にいさんたちは、こんな大きなあなをふたりでほってひとりはかくれて、わたしのおちるのを見てたのです。
32. 頭の上に、にいさんのにくらしいとくい顔が、ちらとのぞいて、きえました。
33.「ほらふきうそつきものがたり」(
椋鳩十編 フォア
文庫より)
長文 7.3週
1. 【1】ぼくが小学校二年生のころ、もう三十年いじょうもまえのはなしです。
2. てい学年のじゅぎょうは午前中です。べんとうをたべおわると、ひるのそうじに
上級生が、ぼくらの組にやってきます。
3. ぼくの組のうけもちは、わかい女の先生です。
4. 【2】ぼくらは、「さようならっ。」と、大声をはりあげて、先生にあいさつすると、教室をすっとぶようにでていくのです。
5. 冬のある日のことでした。
6. かえりじたくをして、さあ下校だというときになって、ぼくは、先生によびとめられました。
7.【3】「しみずさん、あなたはちょっとのこっていなさい。」
8. むこうがわのまどぎわの三、四人が、ほくそえみ、いみありげな顔をして、ぼくのほうを見ながらかえっていきました。
9. ぼくには、なんのことかわかりません。
10.【4】(やだなあ。またなんか、手つだいなさいなんていうのかなあ。きょうは、とおるくんと、うら山のどんぐりひろいにいくやくそくしてあるというのに。……)
11. 【5】先生は、いままでも、ときどき、ほうかご、教室のけいじばんに絵をはりだしたり、うしろの黒ばんに絵をかいたりするのを手つだわせるのでした。ぼくがすこしばかりずががうまいからといって、ぼくのつごうもきかないで、先生はいつでも、
12.「ちょっと手つだってね。」なんていうのです。
13. 【6】だけど、その日、ぼくをよびとめた先生の声には、いつにないきびしさがこもっていました。
14. みんなかえっていきます。とおるくんも、
15.「ぼく、さきにいってるよ。あとでこいよ。」といって、かえっていきました。
16. 【7】だれもいなくなった教室。ぼくと先生ふたりだけになりました。すると、先生は、がたがたと、じぶんのつくえの上をかたづけながら、
17.「しみずくん、きみはろうかにたっていなさい。なにをしたかわかるでしょう。【8】じぶんのやったことがどんなことだか、よくかんがえてみなさい。」
18. そういって、すたすた
教員室へいってしまいました。
19. ぼくには、まったくなんのことかわかりません。【9】わからないからといって、このままかえってしまったら、あしたまた、ひどくしかられるにきまっています。
20.「なにかしらないけど、ろうかにたっていろというんなら、たっていればいいだろう。」∵
21. 【0】ぼくは、きょうのごごのあそびのよていがまるつぶれになるのにはらをたてながら、ろうかにたちました。
22. 六年生のそうじとうばんの人たちがやってきました。
23.(
中略)
24. ろうかをふきそうじしているかれらから、ぼくは、さんざんにいじめられ、からかわれました。
25. 六年生は、そうじがおわって、ぼくの教室からひきあげていきました。
26. ひる休みがすぎて、ごごのじゅうぎょうがはじまったようです。
27. あれきり、先生は、教室にやってきません。二時間、三時間とすぎていきました。
28.(いったい、いつまでたってればいいんだ。なぜ、先生はこないんだ。)
29. 冬の日ざしがずーっと長くなって、校しゃはすっかりさびしくなりました。夕ぐれです。あたりが、うすぐらくなってきました。
30. 二年生の教室は、学校の西北のはずれのほうにあって、
教員室ともとおいのです。
31.(さむいなあ。ぼくをほっといて先生はなにをしてるんだろう。)
32. とうとう、夜になってしまいました。
33. 足がしびれてきます。たったりすわったりして、ろうかで、先生のくるのをまっていました。
34. まどがまっくらになり、まどガラスに、ほしがはりつくようにまたたきはじめました。
35.(もう家では、夕ごはんすんだころなのになあ。)
36. そんなことをおもって、なきべそかきそうになっているときでした。こつこつと足音がきこえてきました。かいちゅうでんとうの光が、ろうかをはうようにちかづいてきて、パッとぼくをてらしました。
37.「いったい、なにをしているのだ。そんなところで。」
38. しゅくちょくの男の先生でした。
39.「先生がたっていなさいというので、たっていました。」
40.「なんだ。
西沢先生は、きょうはきゅうようで、ごぜんちゅうでかえったよ。きみをたたせて、わすれちゃったのかな。いそいでかえりなさい。」
41. 先生のほうがあわてているみたいでした。ぼくは、くさりをとかれた犬のように、家にむかって、まるくなって、夜道をかけていきました。
42.「ほらふきうそつきものがたり」(
椋鳩十編 フォア
文庫より)
長文 7.4週
1. 【1】
西洋には「トマトが赤くなると
医者が青くなる」ということわざがあります。
真っ赤に
実ったトマトを食べると、お
医者さんが
困るほど、だれも
病気にならない、という
意味です。【2】これは少々大げさな言い方だとしても、トマトの赤さのもと、リコピンには
病気を
予防する
働きがあります。また、トマトには、ビタミンCも多くふくまれています。
2. 【3】このことわざとそっくりなもので、日本には「
柿が赤く色づくと
医者の顔が青くなる」という
言葉があります。
柿にはビタミンやミネラルが
豊富に
含まれています。また、
柿の
葉っぱや
渋にも多くの
栄養素が
備わっています。【4】おもしろいのはカキのヘタの
部分で、しゃっくりを止める
働きがあるということです。
3. イギリスには、「一日にひとつのリンゴは
医者を遠ざける」ということわざがあります。【5】リンゴには
病気を
予防したり、
回復に
役立ったりする作用があるからです。「サンマが出ると
医者が
引っ込む」などというのもあります。このように
身近な
食べ物がことわざになっているものは少なくありません。
4.【6】「秋ナスは
嫁に食わすな」ということわざがあります。これはおいしい秋ナスを、お
姑さんがお
嫁さんにわざと食べさせない、と考える人もいます。【7】しかし
実は、秋にとれるナスは体を
冷やすので、これから子どもを生み
育てるお
嫁さんには食べさせすぎないように、という
心遣いがこめられているとも言われています。さて本当はどちらでしょうか。
5. 【8】このほかにも、ヨーロッパでは、「レタスは
恋の
炎をしずめる」という言い方があります。レタスの切り口から出てくる白い
汁には、
精神を
安定させたり、
眠気をさそったりする
働きがあるのを、しゃれた言い回しで
表しているのです。∵
6. 【9】
変わったところでは、「ミョウガを食べると
物忘れをする」というのもあります。これは
次のような話から
伝わったとされています。
昔、
お釈迦様の弟子で
物忘れの
激しい人がいました。【0】その人は自分の名前も
覚えられなかったので、
お釈迦様が
名札を首にかけてあげました。やがて、その人が
亡くなったあと、お
墓のまわりに見知らぬ
植物が生えました。それが「
茗荷」と名づけられた、というお話です。しかし、ミョウガを食べると
物忘れをするということはありません。
逆にミョウガの
香りには
集中力を高める
効果があるそうです。
7. 「
大豆は
畑の肉」「アボカドは森のバター」「カキは海のミルク」などなど、
簡潔なたとえにされているものも数多くあります。どれも
実にうまく
食べ物の
効用を
表しています。
8.
言葉の森
長文
作成委員会 α
長文 8.1週
1.【1】「ほう、なにがあるか、いってみな。」
2. ねずみ小ぞうが、いかにもばかにしたようにいいました。
3.「金の茶がまだ。」
4. わたしは、おもってもいなかったことを、ついいってしまったのでした。
5.「そんなの、うそにきまってらあ。」
6. 【2】たっぺがいいました。
7. ここで、わたしが、うそだというか、だまってさえおればよかったのです。
8. ところが、ねずみ小ぞうめが、
9.「とうちゃんの頭、ぴかぴかの金光りだもんな。」
10.と、いったから、もういじでもうそだというわけにはいかなくなってしまったのです。
11.【3】「見たけりゃ、見せてやるぞ。」
12. わたしは、ねずみ小ぞうをにらみながらいいました。
13.「じゃあ、見せてくれ。いつ見せてくれるんだ。」
14. ねずみ小ぞうは、もうけんかちょうしです。
15.「みんなのたからものを見たあとだ。」
16. 【4】わたしは、できるだけときをかせごうとしました。
17. その日はそれですみましたが、さて、これからどうしたものか。
18. 金の茶がまなんて、おもってもいないことを口にしてしまったのは、くらの中のたなにあるあかがね(
銅)の茶がまからおもいついたものだったのです。
19. 【5】うすぐらいくらの中で、いくらか光るものといえば、これだけでありました。
20. 父と母と、すえっ子だったわたしの三人は、このくらの中でねていました。父と母が朝はやくでかけていってしまうから、わたしはひとりぼっちで、このくらのものを見まわしているのでした。【6】そして一つ一つのどうぐに、わたしのものがたりをつくっていました。
21. この茶がまは、ものがたりの中では、金になったり、ぶんぶく茶がまのおはなしになっていました。
22. わたしは、そっとたなから、茶がまをおろしてみました。【7】おばあさんが、ときどきこまかなはいでみがいていましたから、ほこりをはらうと、よく光りました。
23.「よし、うんとみがいてやろう。そしたら、金みたいに光るかもしれないな。」
24. 【8】わたしは、おばあさんのいないときを見はからって、茶がまを外のいどばたにもちだしました。
25. そのころは、いろりでまきをもやし、ごはんをたいたりおしるを∵にたりするので、かまもなべも、すすけてしまいますから、はいやこまかなすなで、ごしごしみがきました。
26. 【9】わたしは、おばあさんのまねをし、はいとすなをたわしにいっぱいつけて、ごしごし、ごしごしと力まかせにみがきました。
27. 水をさあっとかけ、はいとすなをおとすと、茶がまは、見ちがえるほど光ってきました。
28.(
中略)
29. 【0】 わたしは、すっかりうれしくなり、はやくみんなをおどろかせてやろうとおもいました。
30. ねずみ小ぞうは、あれでなかなか目がきくからあとまわし、たっぺはきょろきょろだから、まずあいつからと、あくる日、おばあさんが、外にでかけたあと、大いそぎでたっぺをよんできました。
31.「いいか、ここで見るんだぞ。」
32. たっぺをくらの中にいれずに、あかりをいれる小まどをあけました。
33. うまいぐあいに、ちょうどいり日がさっとながれこんで、茶がまが、きらり、きらりと光りました。
34.(
中略)
35. たっぺは、あした学校にいって、みんなにいうにきまってるとおもうと、その夜は、なかなかねつかれませんでした。
36. あくる日、やっぱりたっぺがいいふらしたので、みんなが「おれにも見せてな」と、よってくるのでした。
37. だが、このうその金の茶がまは、おもいがけないところからばれてしまったのです。
38. 学校からかえってきたら、おばあさんが、茶がまをとりだし、目をつりあげておこるのでした。
39.「なんだって茶がまを、こんなひどいめにあわせるんだ。
40. この茶がまはな、おばあさんの母のかたみだから、だいじにだいじにしてきたものを。ほら、よく見ろ。」
41. おばあさんにいわれてよく見ると、茶がまには、こまかいきずあとが、いっぱいついているのでした。
42. あかがねというものはとてもやわらかですから、おばあさんは、きずがつかないように、はいをこまかなあみめのふるいになんどもかけて、こなのようにし、やわらかなきぬにすこしずつつけてみがくのでした。
43. それをわたしは、なべやかまとおなじように、ごしごしみがいてしまったのです。
44.「ほらふきうそつきものがたり」(
椋鳩十編 フォア
文庫より)
長文 8.2週
1.【1】「ほんとに、たからものがあるのか!」
2. 竹ちゃんが、ぼくにむかってねんをおすようにいいました。
3. そういわれると、ぼくもあとにはひけません。
4.「うそじゃない。おじいちゃんが、いったんだ、ほらあなの中に、千りょうばこにはいった大ばん小ばんが、ごっそりうずめてあるって。」
5. 【2】ぼくのうそはますます大きくなり、とりかえしのつかない大ぼらになっていきました。
6.「よし、いってみよう。だけど、おまえがいちばんさきにはいるんだぞ。いいな。」
7. 竹ちゃんが、だめおしをするように、ぼくの顔を見つめていいました。
8.【3】「ああ、いいとも。」ぼくは、むねをはってこたえました。
9. でも、ほんとうのところ、ぼくの心は、(こまったぞ。どうしよう……。)と、おろおろしていました。
10. やがて、ローソクやマッチなどをもったぼくたち五人は、ドンドンあなへむかいました。
11. 【4】あなの入り口は、やっと人がとおれるだけのせまさです。
12.「さあ、おまえからはいるんだ!」
13. 竹ちゃんがぼくの心を見すかすようにせきたてました。ぼくは、とたんに、ぶるるる……と、からだがふるえました。
14.【5】「おい、さっきいったの、あれみんなうそっぱちなんだ!」
15. ぼくは、のどのあたりまでそんなことばがでかかったのですが、またゴクン、とのみこんでしまいました。
16. みんなから「大うそつき、大ぼらふき」と、いわれるのがしゃくだったからです。
17. 【6】ぼくは、ローソクに火をつけてまっさきにあなにはいりました。
18. 正ちゃん竹ちゃん、六ちゃんとあとにつづき、いちばんしんがりは竹ちゃんの弟で、二年生の
清ちゃんでした。
19. 【7】はいったとたんに、しめっぽくかびくさいいやなにおいが、ぷーんとはなをつき、ローソクの光におどろいたコウモリが、パタパタ……と、とびたちました。
20.(ばか、ばか、ばか! おまえって、なんてばかなんだ。なぜ、つまらないうそなんかついたんだ!)
21. 【8】ぼくの心が、しきりにぼくをせめたてました。
22.「おい、たからのありかはどのへんだ!」
23. うしろから、竹ちゃんがたずねました。
24.「もっとさきだ。」
25. ぼくは、かぼそい声でこたえました。∵
26. 【9】しばらくすすむうちに、てんじょうから、大きな石がぐーっとおちかかったりして、ゆくてをふさぎました。
27. やっと、はらばいでいけるようなところもあります。
28. 声をだすと、ウォーン、ウォーンと、ぶきみにあなの中でひびきます。
29. 【0】はじめは、たがいにわらったり、はなしたりしていたなかまは、しぜんにだまりこんでしまいました。
30.「おい、どこだ、千りょうばこのあるところは!」
31. うしろから、みんながおこったような声で、さけびました。
32. どこまでつづいているかわからないほらあな。石が上からおちかかっていきうめになったら……と、おもったしゅんかん、ぼくはもう、一ぽもすすめなくなりました。
33. 父や母のしんぱいそうな顔が、目のまえにちらちらして、なきだしたくさえなったのです。
34.(はやくあやまれ、みんなにあやまって、あなの中からでろ!)
35. ぼくの心がさけびました。
36. そのときです、いちばんしんがりにいた
清ちゃんが、とつぜん大声でなきだしました。
37. こわいから、かえるというのです。とたんに、ぼくはすくわれたような気もちになって、
38.「だめだなあ、こんなときに小さい子をつれてくるからだ……。」
39.と、うしろの竹ちゃんをなじるようにいいました。
40.「おい、みんなかえろうぜ。どうせ、たからものなんか、ありっこないんだ。」
41. 竹ちゃんは、ぼくの心の中をみすかしたように、いいかえしました。
42.「そ、そ、そんな、おじいちゃんが、ちゃんといったんだぞ。」
43. ぼくはあわてぎみに、いっしょうけんめいべんかいをしました。
44. やがて、ぼくたち五人は、ぶじにほらあなの外へ、はいだしました。
45. あなの中からでたとたんに、ぼくはすくわれたように、ほっと大きないきをつきました。
46. それでも、なかまたちの顔を、まっすぐ見ることができず、まだなきじゃくっている
清ちゃんのそばへいって、
47.「ごめんよ。」
48.と、小さな声でいいました。
49.「ほらふきうそつきものがたり」(
椋鳩十編 フォア
文庫より)
長文 8.3週
1. 【1】わたしたちは友だちを三つにわけていました。大すき、中すき、小すきです。
2. (
中略)
3. わたしはすみちゃんのこと、中すきでしたが、おはじきのルビーいろに光るのを、六こもきまえよくくれたので、大すきになりました。
4. 【2】すみちゃんのうちは、電車どおりから川べりのほうに、ほそ道をおりたところです。すみちゃんのうちの木のくぐり戸のところまでくると、すみちゃんの弟のだいちゃんが、門ばんみたいにつったっていました。
5.【3】「だめだ。はいっちゃだめ。」
6.「どうして?」
7.「かあちゃんがおつかいからかえるまで、だれもうちにいれちゃだめっていわれてる。ねえちゃんには、だれもあえない。」
8.「でもわたし、すみちゃん大すきだもん。すみちゃんもわたしのこと大すきだもん、いいの、いいの。」
9. 【4】わたしは、だいちゃんをおしのけて、さっさとあがりました。
10.「すみちゃん。」
11. ふすまをあけると、すみちゃんはへやのまんなかで、ふとんをいっぱいかけてねていました。
12.「ウ……ウウ……ウ……。」
13. 【5】へんな声でなにかいったとおもうと、きゅうに、頭までふとんをかぶってしまいました。ふとんの中でもまだ、「ウ……ウ……。」といっています。まるで山ばとが、森のおくでないているような声です。
14.「どうしたの、なにいってるの。」
15. 【6】わたしはかまわずふとんをはぐって、すみちゃんの顔をのぞきました。
16.「なあに、その顔。」
17. びっくりしてしまいました。いつものすみちゃんとは大ちがいのへんな顔です。【7】ほっぺたのかたっぽが、むやみやたらにふくれあがり、あごからのどまでぶうーっとおまんじゅうみたいです。それがまた、ぶくぶくとゆがんでいます。目といえば、とろーんとして、おまけに赤目です。
18. 【8】すみちゃんはへんな顔で、わたしをうらめしそうに見あげ、
19.「ウ……ウウ……ウ……。」
20.と、なきだしました。すると、ふくれたところがもっとふくれて、ぶるん、ぶるん、うごきます。見ていると、おかしくて、おかしくて、わらわずにはいられなくなりました。∵
21.【9】「あっはっはっは。」
22.と、わらっていると、だいちゃんがかけこんできて、いきなりわたしのカバンをなげとばしました。ふでばこもとびだして、げんかんのたたきの上で、ガシャッと大きな音をたてました。
23.「なにするのっ。」
24. 【0】わたしは、げんかんにすっとびました。
25.「あーっ、赤えんぴつがおれたーっ。」
26. せっかくとんがらした、大せつな赤えんぴつもおれてしまったではありませんか。
27.「もう、大すきなんかやめた。すみちゃんも、だいちゃんも、小すき小すきの大っきらい。」
28. わたしは大いそぎでえんぴつをかきあつめ、カバンをつかんで、すみちゃんのうちをとびだしてしまいました。
29. つぎの日、わたしは学校でみんなにいいました。
30.「すみちゃんね、ぶっくぶくにふくれた顔になってね、わたしのこと、ウウ……ウ……ってにらんだの。」
31.「えっ? おばけみたいに?」
32.「そう、そう、おばけよ。ふくれおばけよ。」(
中略)
33. みんな「ふうん」と、きいてくれたのに、まっちゃんがいじわるな声でいうのです。
34.「へーんな人、あんなにすみちゃんのこと、大すきっていってたくせに。」
35.「ちがうよ。もう、大すきじゃないよ。小すき、小すきの大きらいよ。」
36.「そう、それじゃすみちゃんからもらったルビーのおはじき、みーんなすてる?」
37.「うん、すてる。」
38. いってしまってからおしいな、とちらりとおもいました。でもこうなったらすてるんだ。へいき、へいき、とおもいなおしました。
39.「あきかんにいれて、おすなばにうずめるよ。」
40. それからなん日かして、わたしはのどがいたくなりました。高いねつがでて、からだじゅうこわれそうです。いきをするたびに、うなり声がでます。
41. おいしゃさんが、くすりのにおいをぷんぷんさせてやってきました。耳の下のところを、ふといつめたいゆびでおさえ、
42.「おたふくかぜに、やられましたな。」
43.と、いいました。
44.「ほらふきうそつきものがたり」(
椋鳩十編 フォア
文庫より)
長文 8.4週
1. 【1】ふだん、歩行
者は、
道路の
右側を歩くことになっています。そして、
自動車やバイクは
左側通行です。ですから、日本で作られる
自動車の大
部分は、ハンドルが右についている右ハンドル車です。【2】しかし、外国から
輸入された車は、ハンドルが
左側についている左ハンドル車が多いのです。これは、外国では、車が日本とは
逆の
右側通行であることが多いからです。
2. 【3】日本と同じ
左側通行をしている国は、イギリス、アイルランド、オーストラリア、インド、南アフリカなど、かつてイギリスの
植民地であった国か、イギリスと
深い関係にあった国々です。【4】アジアでは日本のほか、タイやシンガポール、インドネシアなども
左側通行ですが、
全体として
右側通行の国の方が多く、
左側通行の国は
世界の三分の一くらいです。
3. 【5】イギリスや日本がなぜ
左側通行なのかというと、これは
昔、イギリスの
騎士や日本の
武士が、
腰の
左側に
剣や刀を
差していたため、
すれ違うときにその
剣や刀がぶつからないようにしたからではないかと言われています。
4. 【6】日本は
昔、道があまり
整備されておらず、通行のルールもはっきりとは
定まっていませんでした。しかし、
明治政府がイギリスをお手本として社会の
仕組みを
整えていったため、ある
時期から人も車も
左側通行と
定められました。【7】その後、人だけは、車と
対面通行となる
右側通行とするように
変更されました。
5.
不思議なことに、
都会の人の
流れを見ていると、
誰が
決めたわけでもないのに、
自然と
左側通行になっていることが多いようです。【8】これは、人間は右
利きの人が多いため、右手で
他人に
対したいからではないかと言われています。
6. ヨーロッパでも、
昔は
左側通行がよく見られたようです。【9】しかし、ヨーロッパ
全土を
支配したナポレオンが、
軍隊を
右側通行と∵し、それを広めたため、ほとんどの国で
右側通行が行われるようになりました。ナポレオンがどうして
右側通行を
好んだかというと、
彼が
実は左利きだったから、という
説があります。
7. 【0】ナポレオンの
左利き説が正しいとすると、もしもナポレオンが大多数の人と同じ右
利きだったら、
世界にはイギリスや日本と同じ
左側通行の国が多数を
占めていたかもしれません。そうすれば、日本人である
私たちが、海外
旅行で車の
流れにとまどうことはなかったでしょう。
8. ところで、船と
飛行機は、
安全性のために
世界中で
右側通行に
統一されています。国によって通行の
方法が
違うと、
国際航路で大
混乱が
起きてしまうからです。
9.
言葉の森
長文
作成委員会 τ
長文 9.1週
1. 【1】うちにはいると、おかあさんは、ヤッちゃんをおふろにいれてくれました。
2. あついくずゆをたべて、ヤッちゃんは、ふとんにはいりました。
3. すると、もうねてしまったとおもっていたチイちゃんが、むくむくおきあがりました。
4.【2】「おにいちゃん、さむかった?」
5. そういいました。チイちゃんは、もうおこった顔をしていませんでした。
6.「さむかったさあ。こごえて
死んでしまいそうだった。」
7.「ごめんね。」
8. チイちゃんにあやまられて、しかたなくヤッちゃんは、にこっとわらいました。
9.【3】「へいきさ、おふろにはいったから。あのね、チイちゃん、あの手ぶくろ、さがしたんだけど、見つからなかったんだ。」
10.「ふーん、そうなの。でも、いいや、ぼくがまんする。」
11. ヤッちゃんは、なんだかチイちゃんがかわいそうになりました。【4】それで、つくりばなしをすることにしました。
12.「うーんと、あのね、あの手ぶくろ、じつは、なくしたんじゃなくて、かしてやったんだよ。」
13.「かしてあげたって、だれに?」
14.「あのね、小人にさ。」
15.「小人? ほんとう?」
16.【5】「うん、ほんとうだよ。夕がた雪がふってきたろ。おにいちゃんがうちへかえろうとおもって、あるいてくると、もしもしってよぶんだ。だれかなって見ると、小人じゃないか。小さい、小さい、とっても小さい、雪の小人。まっ白いふくをきてね、白い三かくぼうしをかぶった、小人が天からふってきた。」
17.【6】「ほんとう? それ、ほんとうのはなしなの?」
18.「ほんとうとも。小人が五人、おにいちゃんのかたに、ぽんと立って、おねがいです、おねがいですっていうじゃないか。なんだいっていうとね、すみませんが、その手ぶくろをかしてくれませんか、そういった。」
19.【7】「へへえー、小人が、そんなこといったの!」
20.「うん。それで、どうしてってきくと、じつは……、ぼくたち天からふってきたので、とまる家がないんです。どうか、しばらく、その手ぶくろ、かたっぽうおかりできませんでしょうか。」
21.【8】「へえー、そんなこといったの。手ぶくろかたっぽうだけ……。ははあ、わかった。その小人、手ぶくろにはいってねるんだ。ゆびのところに、ひとりずつ。そうだ、きっと。それで、どうしたの、おにいちゃん。」∵
22.【9】「それでね、チイちゃんの手ぶくろだけど、ぼくかしてあげちゃったのさ。」
23.「ふーん、そうだったの。その小人よろこんだ?」
24.「よろこんだとも……。大よろこびさ。」
25.「じゃあ、かしてあげて、よかったね。でも、その小人、どこにすんでいるんだろう?」
26.【0】「さあね……、雪の中にあなをほって、すんでいるんじゃないか……。」
27.「春になって、あったかくなったら、手ぶくろかえしてくれるかなあ。」
28.「もちろんさ……。」
29. そういうと、ヤッちゃんは、ことんと、ねむってしまいました。
30. ☆
31. それから一か月半ばかりたって、あたたかい日が五、六日つづいて、雪がとけはじめました。雪がとけてどろんこ道になりました。
32. ある日、ヤッちゃんのうちの、おとなりの犬が、赤いきれをくわえて、ふりまわしてあそんでいました。
33. それを見て、チイちゃんが、大声をあげました。
34.「ぼくのだっ、ぼくの手ぶくろだ。ゾウの手ぶくろがかえってきたあ。」
35. それは、チイちゃんの手ぶくろでした。
36.「わあーい。小人にかした手ぶくろだあーい。小人が、かえしてくれたんだあ。」
37. チイちゃんは、大よろこびしました。
38. 手ぶくろは、長いあいだ雪の下にあったので、ちぢんで、小さくなっていました。それに、おとなりの犬がふりまわしたからでしょう、ところどころあながあいて、もうつかえなくなっていました。
39. それでも、チイちゃんは、その手ぶくろを、小人にかした手ぶくろだといって、いつまでも、だいじにしていました。
40.「ほらふきうそつきものがたり」(
椋鳩十編 フォア
文庫より)
長文 9.2週
1. 【1】わたしは、そのとき一つのわるだくみをかんがえついたのです。
2.「ところで、ヘイキチ、まんじゅうをくいたくねえか。」
3. わたしがいうと、ヘイキチは、あんのじょう目をかがやかしました。
4.「そりゃあ、くいてえさ。」
5.【2】「だったら、バスのしりにのれよ。そして、
県道にでるちょっとてまえの、ダルマ
屋のところでおりるんだ。ダルマ
屋へいくと、おじさんが、よくバスにのった、かんしんだ。おまえはゆうきがあるぞって、ダルマまんじゅうを一つくれるぞ。」
6.【3】「えっ、ほんとうかあ。」
7. ヘイキチは、からだをのりだしました。
8.「ああ、ほんとうとも。あそこのおじさんは、元気な子どもが大すきなんだ。」
9. わたしは、わらいたくなるのをがまんして、まじめな顔でいいました。【4】ヘイキチをだますことなんか、わけはありません。たべもののことをもちだせば、すぐくいついてきます。というわけで、ヘイキチはうそともしらず、バスのうしろにのったのですが、そのかっこうったらありませんでした。まるでヤモリがしがみついてるようでした。
10. 【5】ところが、どうしたわけか、ヘイキチはいつまでたってももどってきませんでした。あほうのヘイキチのことですから、もしかしたら、
県道にでるまえにバスからおりそこなったのではないかしら。【6】のりおりの人がなくて、バスは、ていりゅうじょをいくつもとまらずに、とおくのほうまでいってしまったのかもしれない。そうおもうと、わたしはきゅうにふあんになってきました。そこで、わたしはダルマ
屋かし店へいってみました。【7】もし、
主人に見つかって、「おまえだな、ヘイキチにでたらめをいってそそのかしたのは。」と、とっちめられてはいけないので、そっと店の中をのぞいてみました。さいわいなことに
主人もいませんでしたが、ヘイキチのすがたも見あたりませんでした。
11. 【8】さては、やっぱり……そうおもうと、むねがどきどきしてきました。しんぱいになったわたしは、ヘイキチをさがしに
県道をあるいていったのです。しょうてんがいをはずれると、道は田んぼのあいだをどこまでもつづいていました。【9】だが、そのどこにも、ヘイキチのすがたは見えなかったのです。
12.(ヘイキチののろまめ!)∵
13. わたしは、じぶんがうそをいって、ヘイキチをとんだめにあわせたこともわすれて、へイキチのへまをうらみました。
14. 【0】秋の日が、まっかなホオズキのように、ゆく手の山の上にしずもうとしていました。風がつめたくなってきました。ススキのほが、ぎんいろにかがやきながらゆれていました。(
中略)
15. 日はすっかりくれて、くらくなってしまいました。わたしはこわくなりました。なきたいのをいっしょうけんめいこらえていそぎました。ぱたぱた、だれかがうしろからついてくるような気がしましたが、ふりかえると、だれもいませんでした。まっくらな道があるだけでした。わたしは、ぞっとしました。
16. だから、町のあかりが、とおくのほうにちらちら見えたときは、ほんとうにほっとして、おもわずかけだしてしまいました。
17. うちでは大さわぎして、わたしをさがしにいこうとしているところでした。そこへ、わたしがもどっていったので、おかあさんは、ほっとするとどうじに、かんかんになっておこりました。
18.「みんなにしんぱいをかけて、このばかが……。」
19.と、おかあさんは、わたしの頭をいやっていうほどたたきました。そのいたいのなんのって、おもわずなみだがあふれたほどです。いや、もしかしたら、それは、やっと家にもどれたという、よろこびのなみだだったかもしれません。
20. そのとき、わたしはなみだごしに、ヘイキチを見つけたのです。ヘイキチは、わたしを見ながら、にたにたわらっているではありませんか。
21.(おれがあんなにしんぱいしてたのに、おれが、あんなにわるいことをしたとこうかいしてたのに、ああ、なんてことだ。とうのヘイキチが、のんきな顔をしてうちにいたなんて。こんちきしょう!)
22. わたしは、わっとなきだしながら、ヘイキチめがけてむしゃぶりついていきました。ところが、わけをしらないおかあさんは、わたしがただヘイキチにわらわれたので、おこったのだとおもったのでしょう。ますますわたしをしかりつけました。
23. あとできいたのですが、ヘイキチはこわくなって、百メートルもいかないうちにバスをおりてしまったのだそうです。そうしたら、ちょうどろじで、紙しばい
屋がやっていたので、見てしまったというのです。
24. なんのことはありません。わたしはじぶんがついたうそに、だまされたようなものです。まったくばかなはなしです。
25.「ほらふきうそつきものがたり」(
椋鳩十編 フォア
文庫より)
長文 9.3週
1. 【1】それは、「わたくしのおにんぎょう」というだいで、いまもおぼえていますが、こんないみのことを書いたのです。
2. 「わたくしのおにんぎょうは、いつか、るすをしたごほうびに、おかあさんから、かっていただいたのです。【2】きれいなフランスにんぎょうで、赤いぴかぴかしたようふくをきています。きせかえあそびもできるのです。あんまりかわいいので、ときどき、だいてねることもあります。
3. わたくしは、このおにんぎょうがだいすきです。【3】これからも、いつまでもだいじに、かわいがってやろうとおもっています。」
4. じぶんでも、はじめにしては、わりとじょうずにかけたとおもいました。じっさい、あとでかえしてもらったのを見ると、大きな三じゅうまるがついていたのです。【4】そのときからずっと、つづりかたは、わたしのいちばんとくいな科目になったのでした。
5. さて、はじめてつづりかたを書いた日から、なん年かたったある日のこと。【5】うちへ友だちがあそびにきたので、トランプかなにかをさがして、つくえのおくをかきまわしていたら、だいじにしまっておいた、このふるいつづりかたが、でてきたのです。友だちは、おもしろがって、それをよみました。
6.【6】「へーえ、いいにんぎょうがあったんだね。このにんぎょう、いまもあるの?」
7.「うーん、あるような、ないような……。」
8.「なによ、あるような、ないようなって……。あるの、ないの、どっち?」
9. 【7】やれやれ、どうも、このへんで、はくじょうしなくてはならないようです。
10.「えヘヘ。じつは、それ、うそなの。」
11.「うそ? あらやだ。あんたったら、はじめてのつづりかただっていうのに、うそを書いたの?」
12.【8】「うーん、まるっきり、うそでもないよ。あのねえ……。」
13. わたしは、おもちゃばこのすみっこにおしこんであった、おんぼろの、小さなにんぎょうをとりだしました。
14.「ほら、これ。」
15.「これ? こんなちっぽけなの? これがフランスにんぎょう?」
16.【9】「しらない。だけど、まあ、スカートがぱっとひろがってるから、フランスにんぎょうにしとくの。」
17.「ふうん。ええと、赤いようふく……は、たしかに、きてるわね。だいぶ、いろがさめてるけど。」
18.「ほらね、まるっきり、うそでもないでしょ。」
19.【0】「まあね。だけど、きせかえもできるって書いてあるわ。きせかえなんて、できそうもないじゃない。」∵
20. わたしは、だまって、にんぎょうのかぶっている大きなぼうしをスポッとぬがせました。ぼうしといっしょに、金いろの、カールしたかみの毛も、みんなスポッととれて、つるつるのぼうず頭があらわれました。
21.「あーら、やだあ。これで、きせかえのつもり?」
22.「そう。ほかのぼうしをかぶせれば、きせかえって、いえないこともないでしょ。」
23.「あきれた、あきれた。こんなの、だいてねてたの?」
24.「まさか。こんなの、ごつごつしてつめたいばっかしじゃないの。だいてねたのは、こっち。」
25. わたしは、おもちゃばこから、もう一つ、手のもげた、ぬいぐるみのだきにんぎょうをだして見せました。
26.「なあんだ。二つのにんぎょうを一つのことにしちゃったんだね。じゃあ、るすばんのごほうびにもらったのは、どっちなの?」
27.「あれ、うそ。だいいち、そんな小さいときに、ごほうびをもらうほど、長いるすばんなんて、したことないもん。」
28. わたしがけろっとしていったので、友だちは、あきれかえった顔になり、それから、ふたりいっしょに、わっとわらいだしてしまいました。
29. と、いうわけで、わたしのはじめてのつづりかたは、ほんとは、大うそだったんです。どうして、あんなうそを書いたのか、じぶんでもわかりません。
30. でも、ふしぎでした。うそをつくのはわるいことだとしっていたのに、つづりかたにうそを書いたことは、ちっともわるいとおもわなかったのです。もしかしたら、わたしは、つづりかたと、おはなしをつくることとを、ごっちゃにしていたのかもしれません。それからあとも、はなしをおもしろくするためなら、人にめいわくをかけないていどで、ちょいちょい、つづりかたにうそをまぜていたのですから。
31. そんなら、このはなしも、うそじゃないのかって?
32. いえいえ、そんなことありません。これは、ほんとにほんとのはなし。わすれられない、はじめてのつづりかたのおもいでです。
33.「ほらふきうそつきものがたり」(
椋鳩十編 フォア
文庫より)
長文 9.4週
1. 【1】アメリカのモンタナ
州は、
ジュラ紀や白
亜紀の
恐竜の
化石がたくさん
発見される
場所です。このあたりで、タマゴの
殻の
破片のようなものがたくさん見つかり、これが
大発見につながりました。【2】タマゴの
殻の
周辺をさらに
調査すると、
直径三メートルほどもある、クレーターのような形の
巣が見つかったのです。この
巣の中から、赤ちゃん
恐竜の
化石がたくさん出てきました。【3】これは、この
場所でカモノハシ
竜のタマゴが
孵化したことを
示しています。また
周辺からは、大人のカモノハシ
竜の
化石が見つかりました。
2. 【4】タマゴの
殻が細かく
割れている
理由は、赤ちゃん
恐竜が足で
踏みつけたからでしょう。つまり、タマゴからかえった赤ちゃんは、しばらく
巣の中で生活していたということになります。【5】
巣の中から見つかった赤ちゃんの
骨は、大きさがさまざまで、いちばん小さいものは
全長二十五センチメートル、大きなものは一メートルほどありました。【6】
恐竜の親は、赤ちゃんが生まれてから一メートルの大きさに
成長するまで、エサをあげて
子育てをしていたのでしょう。これは、親鳥が
巣の中のヒナにエサを
運ぶのとよく
似ています。【7】このカモノハシ
竜の
仲間には、「よいお母さん
恐竜」という
意味のマイアサウラという学名がつけられました。
3.
更に、
巣の中をよく
調べてみると、
植物の
破片の
化石が数多く見つかりました。これは、親が子に
運んだエサの
植物とは
違うものです。【8】なぜエサでもない
植物が、たくさん
発見されたのでしょう。
4. 鳥はタマゴを生むと、タマゴの上に
乗って
温めつづけます。タマゴがかえるには、
一定期間決まった
温度を
保つ必要があるからです。
恐竜の場合はどうでしょう。【9】マイアサウラの親の大きさは八メートル近くあり、
体重は何トンもあったと考えられます。こ∵れでは、タマゴの上に
乗って
温めるわけにはいきません。そこで、自分が
温める代わりに、タマゴの上を
植物でおおって
温度を
保ったのです。【0】こうしておけば、
直射日光で
暑くなりすぎたり、夜間に
冷えすぎることもありません。また、
植物は
発酵によって
熱を出すので、それによってタマゴを少しずつ
温めることができます。
5. このような
巣は、同じ
場所から
複数見つかっています。マイアサウラは
集団で
子育てをしていたのでしょう。生まれたばかりの赤ちゃん
恐竜は弱く、
敵にねらわれやすいのですが、
集団を作って生活をしていれば、いつも大人のマイアサウラが赤ちゃんを
守ることができます。
6.
発見された
化石は、これまでわからなかった
恐竜の
行動を、
私たちに教えてくれるものでした。
化石をくわしく
調べることで、
私たちは
大昔の
恐竜の生活の
仕方まで知ることができたのです。
7.
言葉の森
長文
作成委員会 κ