長文集  10月3週  ★「でもね、お母さん(感)  su-10-3
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2012/06/15 08:09:23
【1】「でもね、お母さん、小学校って、ま
るで軍隊みたいなん だ。だからぼく、いや
なんだよ。」
 なるほど、そのころのドイツの小学校は、
規則第一で、暗く重苦しいふんいきに満ちあ
ふれていました。【2】授業も、暗記ばか 
り。自分で考えることは、いっさい許されま
せん。先生にさからうことはもちろん、質問
することさえ禁じられていたのです。おさな
いアルバートが「軍隊そっくり。」というの
も、もっともでした。
 【3】おまけに、無口で体育がにがてなア
ルバートには、なかなか友だちもできません
。一か月もしないうちに、学校がすっかりい
やになってしまいました。
 【4】とはいえ、勉強まできらいになった
わけではありませんでした。下校してくると
、ヤコブおじさんに助けてもらいながら、辞
書をひき、本を読み、自分の好きな勉強を深
めていきました。
 【5】数学に興味をもったのも、そのころ
のことです。
 ある日、アルバートはヤコブおじさんにた
ずねました。
「ねえ、おじさん、『代数』ってなんのこと
?」
 おじさんは、待っていましたとばかりに、
説明をはじめました。
【6】「『代数』とは、わからない数をさが
しだす数学だよ。ま ず、わからない数を、
文字の『X(エックス)』とよぶ。そして、
問題でいわれたとおりに、計算式をつくって
いくと、さいごに、『X』がどんな数かが、
ちゃんとわかるんだ。」
【7】「なんだか、おもしろそうだね。」
「おう、頭の体操みたいなものだからな。」
 こうして、アルバートは、小学生ではとて
も理解できないような数学を、どんどん、自
力で学んでいったのです。
 【8】勉強にあきると、こんどはバイオリ
ンを取り上げ、小さな手で器用に、モーツァ
ルトやベートーベンの曲をかなでます。
 そういえば、バイオリンも、ほとんど独習
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でした。
 【9】六さいになったとき両親に連れてい
かれたバイオリンの先生∵は、小学校の先生
と同じように、かたくるしくて、いばりくさ
っていました。はじめのうち、アルバートは
、レッスンがいやでたまりませんでした。【
0】けれども、家に帰って、自分で工夫しな
がら練習をつづけているうちに、ある日とつ
ぜん、モーツァルトのソナタがひけるように
なったのです。
 それからは、しめたもの。すっかりバイオ
リンのとりこになったアルバートは、一生、
この優雅で複雑な楽器と、親友のようにつき
あいました。
 父のへルマンからは文学、母のパゥリーネ
からは音楽、そしてヤコブおじさんからは科
学……。この三つの世界は、アインシュタイ
ンの一生の大きな柱となりました。
 
(「アインシュタイン」岡田好恵著より)