1.【1】「でもね、お母さん、小学校って、まるで
軍隊みたいなんだ。だからぼく、いやなんだよ。」
2. なるほど、そのころのドイツの小学校は、
規則第一で、
暗く重苦しいふんいきに
満ちあふれていました。【2】
授業も、
暗記ばかり。自分で考えることは、いっさい
許されません。先生にさからうことはもちろん、
質問することさえ
禁じられていたのです。おさないアルバートが「
軍隊そっくり。」というのも、もっともでした。
3. 【3】おまけに、
無口で
体育がにがてなアルバートには、なかなか友だちもできません。一か月もしないうちに、学校がすっかりいやになってしまいました。
4. 【4】とはいえ、
勉強まできらいになったわけではありませんでした。下校してくると、ヤコブおじさんに
助けてもらいながら、
辞書をひき、本を読み、自分の
好きな
勉強を
深めていきました。
5. 【5】数学に
興味をもったのも、そのころのことです。
6. ある日、アルバートはヤコブおじさんにたずねました。
7.「ねえ、おじさん、『
代数』ってなんのこと?」
8. おじさんは、
待っていましたとばかりに、
説明をはじめました。
9.【6】「『
代数』とは、わからない数をさがしだす数学だよ。まず、わからない数を、文字の『X(エックス)』とよぶ。そして、
問題でいわれたとおりに、計算
式をつくっていくと、さいごに、『X』がどんな数かが、ちゃんとわかるんだ。」
10.【7】「なんだか、おもしろそうだね。」
11.「おう、頭の
体操みたいなものだからな。」
12. こうして、アルバートは、小学生ではとても
理解できないような数学を、どんどん、自力で学んでいったのです。
13. 【8】
勉強にあきると、こんどはバイオリンを
取り上げ、小さな手で
器用に、モーツァルトやベートーベンの
曲をかなでます。
14. そういえば、バイオリンも、ほとんど
独習でした。
15. 【9】六さいになったとき
両親に
連れていかれたバイオリンの先生∵は、小学校の先生と同じように、かたくるしくて、いばりくさっていました。はじめのうち、アルバートは、レッスンがいやでたまりませんでした。【0】けれども、家に帰って、自分で
工夫しながら
練習をつづけているうちに、ある日とつぜん、モーツァルトのソナタがひけるようになったのです。
16. それからは、しめたもの。すっかりバイオリンのとりこになったアルバートは、一生、この
優雅で
複雑な
楽器と、親友のようにつきあいました。
17. 父のへルマンからは文学、母のパゥリーネからは音楽、そしてヤコブおじさんからは科学……。この三つの
世界は、アインシュタインの一生の大きな
柱となりました。
18.
19.(「アインシュタイン」
岡田好恵著より)