【1】私が小さい頃から大切にしているも のは貝殻です。大切にしているだけではなく て、今も集めているので、大切にしているも のはどんどん増えていきます。 最初に貝殻をもらったのは、たぶん幼稚園 の年中のときです。【2】伊豆にあるお父さ んの会社の保養所(ほようじょ)でお泊まり をしたときです。きれいな伊豆の海には広い 砂浜があって、私は、そこでよく砂の山を作 って遊びました。砂の山を固めたあと、真ん 中を掘ってトンネルにするのが大好きでした 。 【3】私は、浮輪をしても波が怖かったの で、あまり海には入らないで砂遊びばかりし ていました。砂を掘っていたら、小さい貝や 貝のかけらがたくさんみつかりました。私は それを洗ったアイスのカップに集めました。 【4】そのときも私が砂を掘っていたら、 赤い水着を着たお姉さんがやって来て、 「たくさん集めたね。これきれいでしょう。 桜貝というのよ。」 と、ピンクの二枚貝をくれました。すけて見 えそうなうすい貝で、まるで貝のお姫様のよ うでした。【5】私はうれしくて、ありがと うと言いたかったけれどはずかしくて言えま せんでした。代わりに横にいたお父さんがお 礼を言いました。 夕ごはんのとき、お母さんにそのことを話 しながら桜貝を見せました。【6】お母さん は、 「あら、ほんと。こんなにきれいな桜貝って あんまりないのよね え。よかったわね。」 と言って、そっと桜貝を手に乗せました。そ して、 「これねえ、うすくてわれやすいから、何か でつつんでおいた方がいいね。」 と、ティッシュを出して、そっとつつんでく れました。∵ 【7】私は、ちょっと緊張しながら、何度 もそのティッシュをあけて、桜貝を見ました 。寝るまでに三十回ぐらいは見たと思いま す。ほんとうにきれいで、何回見てもあきま |
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 |
せんでした。その夜 は、うれしくてなかな か眠れませんでした。 【8】大事に持って帰った桜貝ですが、い つだったかティッシュから出して、他(ほか )の貝といっしょにテーブルに並べて遊んで いるとき、つまみあげた指先にちょっと力が 入りすぎて、片方のはしが欠けてしまいまし た。 【9】その後、自分で海で拾ったり、誰か におみやげでもらったり、鎌倉のお店で買っ たりして、貝殻はどんどん増えていきまし た。でも、やっぱりいちばん大切にしている のは、はしが少し欠けたあの桜貝です。私は 、今も時々、桜貝の入った宝石箱を開けて見 ています。【0】 (言葉の森長文(ちょうぶん)作成委員会 φ) |