長文 10.1週
1.【1】「おかえりなさあい。」
2.水曜日の朝のあいさつは、おはようではありません。
私のお母さんは
看護師です。
夜勤と言って夕方から夜の間、
病院で
働くことがあるのです。【2】
入院している
患者さんは、
寝ている間も
具合が
悪くなったり、どこか
痛くなったりするので、
一晩中、ナースステイションには
看護師さんが
起きています。ベッドのそばのブザーを
押すと、
飛んできてくれるのです。だから、
安心して
入院できるのです。
3. 【3】お母さんの
夜勤の
晩は、お父さんと二人です。夕
ご飯も、お父さんが作ってくれます。お父さんの作る
ご飯は、お母さんのときと少し
違います。
味が少し
塩辛くて、
野菜やお肉の切り方が大きいです。【4】お母さんのときは、おかずの
種類もたくさんありますが、お父さんのときは、あまりありません。お父さんの作るメニューの中で、いちばんおいしいのはカレーライスです。
4. お母さんは、お父さんと
結婚する前からずっと
看護師です。【5】
子供のときからなりたかった
職業だそうです。
看護師になるための学校は、
勉強がとても
大変で、
普通の学校のような
勉強だけでなく、
実際にやってみる
看護実習というのがあったそうです。でも、お母さんは、
看護師になる日を
夢見て、いっしょうけんめいがんばったと言っていました。
5. 【6】
私が生まれるときだけお休みしましたが、あとはずっと今も
看護師です。お友だちに
6.「うちのお母さん、
看護師なんだ。」
7.と話すと、みんなびっくりして
8.「いいなあ。」
9.とうらやましがります。女の子の中では、人気のある
職業だからです。【7】でも、
実際は
夜勤もあるし、とても
忙しい大変な
仕事なのだということを知らないんだなあと
私は心の中で思います。∵
10. お母さんは、時々、
11.「ゆきちゃん、
肩をもんでくれる?」
12.と言います。そんなときのお母さんの
肩は、力こぶを入れたようにかたくなっています。
私は、ちょうどよい力でもみほぐしてあげます。【8】すると、お母さんは、
13.「ああ、
気持ちいい。
最高。」
14.と
喜びます。
肩のほかに、首や足のふくらはぎをやってあげることもあります。長い時間やっていると、お母さんは
うたた寝してしまうこともあります。
15. そんなに
大変な
仕事だというのに、お母さんは今まで一
度もやめたいと思ったことがないそうです。【9】この間、
私が
16.「どうして
看護師をずっと
続けたいと思うの?」
17.と聞いてみたら、お母さんは、
18.「そうねえ。
患者さんから、ありがとうって言われたとき、人の
役に立てたんだなあって思えるからかな。」
19.と言ってにっこり
笑いました。【0】
20.(
言葉の森
長文作成委員会 φ)
長文 10.2週
1. ダーウィンのお父さんとおじいさんは、
医者でした。ダーウィンも
最初は大学の
医学部に入れられて
勉強をしていました。しかし、ダーウィンは、
成績が
悪く、やる気が見られませんでした。見かねたお父さんは、ダーウィンを
医者にすることをあきらめて、
牧師になるための大学に入れなおしました。しかし、ダーウィンはここでも
牧師の
勉強には
関心がなく、
博物学という
動物や
植物の
勉強にばかり
夢中になっていました。
2. やっと大学を
卒業したダーウィンは、
今度は
海軍の
測量船に
乗って
世界中を見て回ることにしました。お父さんは、船で
世界一周することなどはもちろん大
反対です。しかし、
周りの人の
助けも
借りて何とかお父さんを
説得したダーウィンは、それから五年間、ビーグル
号に
乗って
世界中を
探検しました。
3. 南米のガラパゴス
諸島で、ダーウィンは
不思議なことに気づきました。ガラパゴス
諸島の
島と
島の間には
速い海流が
流れていて、
動物たちが行き来することができません。そのような
閉ざされた
島にすむ
動物たちは、
島ごとに
姿形が
変わっていたのです。
例えば、ヒワという鳥のくちばしが、ある
島では
昆虫を食べるのに
都合よくできているの
に対し、ほかの
島では
植物を食べるのに
都合よくできているというようなことです。
4. ダーウィンは、この
観察をもとに、
自然淘汰という考えを作り上げました。つまり、それぞれの
環境に
適したものが
生き残り、
適さないものが
淘汰されることによって、だんだんと
種が
進化していくという考え方です。
5. 当時の人々は、
生物の
種は
神様が作ったもので
最初から
完全な形であり、
進化することなどはありえないと考えていたので、ダーウィンは多くの人から
批判されました。
更に、ダーウィンが、
進化論を人間にあてはめて、「人間もサルから
進化した」と
述べると、∵
批判は
更に大きく広がりました。人間が
神様から作られたものだという考えと、サルから
進化したものだという考えでは、天と地ほどの
差があったからです。
6. しかし、ダーウィンの考え方は科学
的で、だれもが
納得せざるをえない
根拠を
持っていたので、
次第に多くの人が
認めるようになりました。
7. ところが、この
進化論にも弱点がありました。それは
第一に、
環境に
適したものが
生き残るという考え方で
説明するには、
生物の
種類があまりにも多いということです。もし、ライオンが
地球の
環境に
最も適していたとすれば、ほかの
動物は
全部ライオンとの
生存競争に
負けて、
地球上にはライオンしかいなくなってしまってもおかしくありません。
地球の
環境に
最も適しているものがラッコだったらもっと
大変です。右を
向いてもラッコ、左を
向いてもラッコで、どこを見てもラッコラッコラッコラッコラーッと、いつの間にか
怒られているようです。
8.
進化論の
第二の弱点は、
自然淘汰だけで
進化を
説明しようとすると、鳥のくちばしの
変化ぐらいまでは
説明できても、アメーバが魚になり、魚が
爬虫類になり、
爬虫類が
哺乳類になるというような大きな
変化は
説明しにくいということです。
9.
進化論の
第三の弱点は、
進化論そのものよりも、その
進化論を
利用した社会の
問題でした。
進化論は、
欧米諸国がアジアやアフリカを
植民地にするときに、その
裏づけとなる考えとして
利用されました。つまり、白人は
最も優れていて、
有色人種はそれよりも
劣り、その
有色人種よりも
更に劣っているのがサルだという考え方が、白人の
支配を正当
化したのです。
10. このような弱点はあったものの、ほぼ一人で
進化の
全体像を考え出したダーウィンは、人間のものの見方を大きく
前進させたのでした。
言葉の森
長文作成委員会(Σ)
長文 10.3週
1.【1】「でもね、お母さん、小学校って、まるで
軍隊みたいなんだ。だからぼく、いやなんだよ。」
2. なるほど、そのころのドイツの小学校は、
規則第一で、
暗く重苦しいふんいきに
満ちあふれていました。【2】
授業も、
暗記ばかり。自分で考えることは、いっさい
許されません。先生にさからうことはもちろん、
質問することさえ
禁じられていたのです。おさないアルバートが「
軍隊そっくり。」というのも、もっともでした。
3. 【3】おまけに、
無口で
体育がにがてなアルバートには、なかなか友だちもできません。一か月もしないうちに、学校がすっかりいやになってしまいました。
4. 【4】とはいえ、
勉強まできらいになったわけではありませんでした。下校してくると、ヤコブおじさんに
助けてもらいながら、
辞書をひき、本を読み、自分の
好きな
勉強を
深めていきました。
5. 【5】数学に
興味をもったのも、そのころのことです。
6. ある日、アルバートはヤコブおじさんにたずねました。
7.「ねえ、おじさん、『
代数』ってなんのこと?」
8. おじさんは、
待っていましたとばかりに、
説明をはじめました。
9.【6】「『
代数』とは、わからない数をさがしだす数学だよ。まず、わからない数を、文字の『X(エックス)』とよぶ。そして、
問題でいわれたとおりに、計算
式をつくっていくと、さいごに、『X』がどんな数かが、ちゃんとわかるんだ。」
10.【7】「なんだか、おもしろそうだね。」
11.「おう、頭の
体操みたいなものだからな。」
12. こうして、アルバートは、小学生ではとても
理解できないような数学を、どんどん、自力で学んでいったのです。
13. 【8】
勉強にあきると、こんどはバイオリンを
取り上げ、小さな手で
器用に、モーツァルトやベートーベンの
曲をかなでます。
14. そういえば、バイオリンも、ほとんど
独習でした。
15. 【9】六さいになったとき
両親に
連れていかれたバイオリンの先生∵は、小学校の先生と同じように、かたくるしくて、いばりくさっていました。はじめのうち、アルバートは、レッスンがいやでたまりませんでした。【0】けれども、家に帰って、自分で
工夫しながら
練習をつづけているうちに、ある日とつぜん、モーツァルトのソナタがひけるようになったのです。
16. それからは、しめたもの。すっかりバイオリンのとりこになったアルバートは、一生、この
優雅で
複雑な
楽器と、親友のようにつきあいました。
17. 父のへルマンからは文学、母のパゥリーネからは音楽、そしてヤコブおじさんからは科学……。この三つの
世界は、アインシュタインの一生の大きな
柱となりました。
18.
19.(「アインシュタイン」
岡田好恵著より)
長文 10.4週
1. 「
寝る子は
育つ」ということわざがあります。
昔の人は
理屈でなく
経験で
理解していたのでしょうが、このことわざのとおり、
寝る子が
育つのには科学
的な
根拠があるのです。日の出とともに
起き、日の入りとともに
眠るような
時代と
異なり、
現代の人々は夜も
活動を
続けています。ですから、大人はもちろん、
子供が
眠りにつく時間も年々
遅くなる一方です。しかし、夜
更かしは
健全な
成長のためにも
勧めることはできません。たとえ
遅く寝たとしても、
ある程度の
睡眠時間を
確保できればいいのだろうと思うかもしれませんが、そうではありません。
睡眠も、
量より
質が
問題になってくるのです。
睡眠の場合、
眠りに
就く時間が
重要なポイントになります。「
早起きは三文の
得」ということわざがあるのも、
実は納得できる
理由があるのです。
2. それでは、どうして
遅く寝るのはいけないのでしょうか。
睡眠中には大切なホルモンが
分泌されます。
成長期の子どもたちに
最も重要なのが
成長ホルモンです。このホルモンは夜九時から二時くらいの間に
盛んに
分泌されます。ホルモンは夜中に出るもん(出るもの)なのです。ですから、この時間には
眠りに
就いている
必要があります。
成長ホルモンの
主な
働きは、
骨の
成長を
促し、
筋肉を作る
たんぱく質の
合成を
助け、日中
活動して
痛んだ
細胞を
修復することです。名前のとおり、体の
成長に
欠かせないものと言えます。
3. ほかにメラトニンというホルモンも
忘れてはなりません。このホルモンは
暗くなると
分泌される
性質があり、電気を
煌々と
灯した明るい
部屋で夜
更かしをしていると
分泌量が
減少してしまいます。メラトニンには人間の
自然な生活のリズムを
整える働きや、
酸素の
毒性から体を
守る働き、それに
加えて
免疫を
強化する
働きがあります。∵
4.
遅く寝た場合、これらのホルモンが十分に
分泌されず、体に
支障をきたす
恐れがあります。このことから、
健康な体を
維持するためには、早く
眠りに
就き十分な
睡眠時間を
確保することが大切だとわかります。
5.
睡眠には
深い眠りと
浅い眠りがあることが知られています。
浅い眠りでは
脳はまだまだ
活動しています。日中のできごとを思い出し、
記憶として
定着させています。ですから、日中いっしょうけんめい
勉強したことが、
浅い眠りを通して
記憶として
定着するわけです。
6.
浅い眠りと
深い眠りは九十分ごとに
入れ替わると考えられていますが、
眠りに
就く時間が
遅く睡眠時間が少なくなった場合は、
眠りのほとんどを
深い睡眠が
占めてしまいます。というのも、
脳に
休養を
与えるという、人が生きていくうえで
重要な
眠りが
深い眠りだからです。
睡眠時間が足りなくなった場合は、
浅い眠りの出番はなくなってしまうのです。
7. 毎日
深夜まで
勉強していると、かえって
脳を
痛めつけることにもなりかねません。せっかくの
努力を
無駄にしないためにも、また
効率よく
学習の
成果をあげるにも、早い時間に
床に
就き能率のよい
睡眠をとりましょう。
8.
言葉の森
長文作成委員会(ω)
長文 11.1週
1. 【1】ぼくは、二年生のとき、
初めて一人で電車に
乗りました。夏休みにおばあちゃんのうちへ行くためです。
駅のホームで、お母さんは、
心配そうに何回もぼくの顔を見て、
2.「いい?
港南台でおりるんだからね。二つめだからね。」
3.と言いました。【2】ぼくは、うなずきました。でも、お母さんは、まだ
心配そうで、
4.「
港南台、だからね。おばあちゃんがそこでまってるからね。」
5.と言いました。
6. 青い電車が入ってきて、いよいよ
乗り込みました。ぼくは、ドキドキしてきました。【3】お母さんを見たら、いっしょうけんめい手をふっています。ぼくは、それを見て、手をふるのはまだ早いよ、と思いました。そのとき、プルルルルーとベルが鳴って、びっくりしているうちに、電車のドアが
閉まりました。
7. 【4】ぼくは、ドアに顔をくっつけて、お母さんを見ました。お母さんが、何か言いながら手をふっています。ぼくもふろうとしたけれど、あっというまに電車は
発車して、お母さんは見えなくなってしまいました。
8. 【5】ぼくは、
急に心細くなって、あたりを見回しました。すると、近くの
席にぼくぐらいの
年齢の子がゲーム
機で
遊んでいるのが見えました。そのとなりには、もう少し大きいその子のお兄さんのような子もいて、やはりゲームをやっていました。【6】二人は、大きな声で
笑ったり、たたきあったりしながら、
夢中で
遊んでいます。ぼくは、何のゲームかなあと思いながら、ずっとそちらを見ていました。
9.「
次は
洋光台、
洋光台。」
10.とアナウンスが聞こえました。ぼくは、はっとしました。【7】いくつ
駅をすぎたか数えていませんでした。でも、「台」がつくから、合っているなと思いました。やっとついたと思って、電車をおりてホームをさがしても、おばあちゃんはいませんでした。∵
11. 【8】ぼくは、ドキドキしてきましたが、自分に、「
落ち着け。よく考えろ」と言い聞かせました。そこで手ににぎっていた紙を思い出して、よく見たら、「二つめ、
港南台」と書いてありました。ぼくは、どうしたらいいかわからなくなって、紙を
持ったまま立っていました。【9】そうしたら、知らないおばあさんが来て、紙をのぞきこんで
12.「一つ先まできちゃったね。
港南台でおりたかったんでしょ。あっちがわにきた電車にのって、一つもどればだいじょうぶ。」
13.と教えてくれました。
急いで
反対方向の電車に
乗ると、その電車はすぐに
発車しました。
14. 【0】電車が
次の
駅に近づくと、
15.「
次は
港南台、
港南台。」
16.と、アナウンスが聞こえました。
今度はしっかり紙を見ていたので、合っているなと思いました。電車が止まり、ホームにおりたら、おばあちゃんが遠くからぼくを見つけて、こっちに走って来るのが見えました。
17.(
言葉の森
長文作成委員会 φ)
長文 11.2週
1. ミツバチの
群れは、一
匹の
女王蜂と数千
匹から数万
匹の
働き蜂、
繁殖期に
現れる二千
匹から三千
匹の
雄蜂で
構成されています。それぞれの
役割分担も
明確で、
高度な
巨大社会を
形成していると言ってもよいでしょう。
2. ミツバチは、
規則正しい六角形を組み合わせて
巣板を作ります。
巣板を
構成する六角形の
小部屋は
巣房と
呼ばれます。
巣房は、
育児、
花粉の
貯蔵、花
蜜の
貯蔵、ハチミツの
加工など、さまざまな
目的に
利用されています。それぞれの
作業を
効率よく行えるように、
巣房の
配置も
考慮されています。
3. では、ミツバチは、なぜ六角形の
巣を作るのでしょうか。もしミツバチの
巣が丸だったら、上下左右に
並べていくとき、
無駄なスペースができてしまいます。もし四角だったら、
巣と
巣の間に
隙間はなくなりますが、ミツバチが
巣に入ったときに
無駄なスペースができてしまいます。ミツバチの
体型から考えると、六角形がいちばん
効率がよいのです。
4. ミツバチの
巣の
材料は、
働き蜂の
腹部から
分泌される
蝋片です。
働き蜂は、その
蝋片を、
後肢の
内側にあるブラシ
状の毛を
使って
抜き取り、
肢についた
蝋片を大あごでくわえ、それをかみ
砕きながらはりつけていきます。この
根気のいる
作業を
続けるだけでも
大変なことですが、
定規も
分度器もコンパスも
持たずに六角形の
巣を
規則正しく並べていくのですから、まさに
神業としか言いようがありません。
5.
以前は、ミツバチが
最初に丸い形の
巣を作り、それが
周囲から
押しつぶされて
自然に六角形になると考えられていました。しかし
実際にミツバチの
巣づくりの
様子を
観察したところ、
初めから六角形を作っていることが分かったのです。
6. 一九六六年、ドイツの二人の
学者は、ミツバチの
巣が
横向きに作られていることから、六角形の
巣を作る
秘密は、
重力に
関係ある∵のではないかと考えました。
巣を作るとき、ミツバチは、頭を上下左右に
向けたいろいろな
姿勢を
取らなければなりません。そのときに体にかかる
重力は
絶えず変化します。そこで、二人が
注目したのが、
働き蜂の首と
腹にある
感覚毛です。二人は、
実験から、ミツバチは首の
感覚毛が頭に
触れることによって
重力の
方向を
感知していることをつきとめました。ミツバチは、
感覚毛の
接触によって、自分の体の
向きを知り、六角形の
巣を作っていたのです。
7. ミツバチの
巣がいかに
巧妙に作られているかは、数学
者たちの
研究によっても
証明されています。三つの
菱形からなる
中央部のそれぞれの
角度は一〇九
度二八分ですが、この数字は、
使う蝋の
量を
最小にして
巣を作った場合の
角度なのです。数学
者たちが
微分学の
理論を
使ったむずかしい計算をして出した数字をミツバチは生まれながらに知っていたことになります。
8. ハニカム
構造と
呼ばれる六角形の組み合わせは、
効率がよいだけではなく、
安定した形でもあります。
外部から力が
加えられたとき、うまく力を
分散することができるのです。ダイヤモンドや雪の
結晶は、このハニカム
構造になっています。また、
建築材料、
航空機の
翼の
内部、サッカーゴールのネット、スキー
板の
内部などにもこのハニカム
構造が
応用されています。ハニカム
構造がこんなにも
幅広く採用されていることをミツバチが知ったら、はにかんでしまうかもしれません。
9.
言葉の森
長文作成委員会(Λ)
長文 11.3週
1. 【1】かれはすぐ、プリンストンの
名物教授になりました。
世界的な大科学
者ということもありますが、そのすなおで、あたたかい
性格が
教授仲間や学生たちをとらえたのです。
2. 【2】
博士は、
決まった
講義は行いませんでしたが、
研究室にくる学生たちを、たいへん親切に
指導しました。
3. 【3】学生ばかりではありません。たのまれれば、小学生の
勉強だって見てあげたのです。
4. 【4】じっさい、プリンストンの町には、ある十さいの女の子が毎日のようにアインシュタイン家に行って、
博士に算数の
宿題を教えてもらったという話が
残っています。
5.「あんなえらい先生に、
宿題を見てもらうなんて!」
6. 【5】女の子のお母さんが、びっくりしておわびに行くと、
博士は、
7.「とんでもない。わたしのほうこそ、おじょうさんから教わることが、たくさんあったんですよ。」
8.といったそうです。
9. 【6】ライオンのたてがみのような
白髪をなびかせ、町を
散歩する
博士を、だれもがあたたかい目で
見守りました。
10. アインシュタイン
博士は、この町でだれからも
愛されうやまわれました。【7】ただひとつ、あまりにも
身なりをかまわないことだけは、人々のじょうだんの
種になりました。古いセーターに、サンダルばき。くつしたをはかず、さんぱつも大きらい。
11. 【8】こんな
博士に、「すこし
服装に気をつかわれたらどうですか。」と、だれかが
忠告すると、「肉を買って、
包み紙のほうがりっぱだったら、わびしくないかね。」と、やりかえされてしまいました。人は外見ではない、ということでしょう。
12. 【9】しかも、人生というのは
限られています。ものは、すべて
必要最低限にきりつめ、おしゃれをする時間があれば、一分でも
研究のほうにまわしたい――アインシュタイン
博士は、心からそう思っていたのです。
13.(「アインシュタイン」
岡田好恵著より)
長文 11.4週
1.
食虫植物とは、
葉などで虫や
小動物をつかまえて
消化し、
栄養分として
吸収する
植物のことです。
食虫植物と言っても、しょっちゅう虫をつかまえているわけではありません。
食虫植物も
普通の
植物と同じように、日光から
栄養分を自分で作っているので、虫を食べなくても
枯れることはないからです。ただ、
育ちが少し
悪くなることはあります。
食虫植物は、
世界には、五百
種あまり、日本にも、二十
種あまりが自生しています。数ある
食虫植物の中から、ハエトリグサ、ウツボカズラ、モウセンゴケの三
種類を
紹介しましょう。
2. ハエトリグサの
葉には、
片側に三つずつ、合計六本の小さな毛が生えています。虫がこの毛に二回さわると、すぐに
葉が
閉じて虫をつかまえます。虫があたふたしているうちにふたが
閉まってしまうわけです。なぜ二回さわるまで
葉を
閉じないかというと、一回だけでは虫が
葉っぱのまん中に入っていないかもしれないからです。二回ならほとんど
間違いなく虫が
真ん中に入っているだろうというわけです。ハエトリグサは
用心深い性格なのかもしれません。
3.
葉を
閉じてからもしばらくは、
葉の中に虫が
動ける隙間があります。しかし、虫をつかまえてから一日
経つと、
葉をぴたりと
閉じて虫を
押しつぶしてしまいます。そして、
消化液を出して虫をどんどんとかしてしまいます。虫を
完全にとかすまでには十日ぐらいかかります。その後、また
葉を
開いて、
次の
餌食となる虫を
待つのです。
4. ウツボカズラのふくろにはふたがあります。このふたの
裏やふくろの口のまわりから
甘いミツを出して虫をおびきよせます。ふくろの
表面はロウのようになっていてとてもすべりやすいので、虫たちがいくらもがいても
徒労に
終わってしまいます。ミツを目当てにやってきた虫たちは、
結局は足をすべらせてふくろの中に
落ちて∵しまいます。ふくろの下にはいつも
消化液がたまっています。ウツボカズラは、ふくろの
内側にあるぶつぶつから虫の
栄養分を
吸い取っています。一方
的に
栄養分を
取るだけですから、
物々交換とはいかないようです。ふくろについているふたですが、このふたは雨を
防ぐためのもので、虫をつかまえた後も
閉まりません。
5. モウセンゴケの
仲間は、
北極、
南極、
砂漠をのぞく、ほぼ
世界中に
分布しています。日本でも北から南までどこでもよく見ることができます。モウセンゴケの
葉には
腺毛が生えていて、その先からねばねばした
液を出して虫を
捕えます。赤い
腺毛の先にねばねばがきらきらと光り、まるでダイヤモンドダストのようです。
葉の上に虫がとまると、毛が
素早く動きだします。毛だけでなく
葉も虫をつつみこむように
動き、虫をとかす
消化液を出します。十時間もすると、
葉は虫をくるくる
巻きにして、ゼンマイのような
姿になります。そして、
消化液でとかされた虫の
栄養分を
吸い取り、その後、まるで
何事もなかったようにまた
葉を
開いて
次の虫を
待ちます。「モウセンゴケ」とは名ばかりで、「もう、せん。」と言いながらも
次々に虫をつかまえてしまうようです。
6.
言葉の森
長文作成委員会(Λ)
長文 12.1週
1. 【1】
私が小さい
頃から大切にしているものは
貝殻です。大切にしているだけではなくて、今も
集めているので、大切にしているものはどんどん
増えていきます。
2.
最初に
貝殻をもらったのは、たぶん
幼稚園の年中のときです。【2】
伊豆にあるお父さんの会社の
保養所でお
泊まりをしたときです。きれいな
伊豆の海には広い
砂浜があって、
私は、そこでよく
砂の山を作って
遊びました。
砂の山を
固めたあと、
真ん中を
掘ってトンネルにするのが
大好きでした。
3. 【3】
私は、
浮輪をしても
波が
怖かったので、あまり海には入らないで
砂遊びばかりしていました。
砂を
掘っていたら、小さい貝や貝のかけらがたくさんみつかりました。
私はそれを
洗ったアイスのカップに
集めました。
4. 【4】そのときも
私が
砂を
掘っていたら、赤い
水着を
着たお姉さんがやって来て、
5.「たくさん
集めたね。これきれいでしょう。
桜貝というのよ。」
6.と、ピンクの
二枚貝をくれました。すけて見えそうなうすい貝で、まるで貝の
お姫様のようでした。【5】
私はうれしくて、ありがとうと言いたかったけれどはずかしくて言えませんでした。
代わりに
横にいたお父さんが
お礼を言いました。
7. 夕ごはんのとき、お母さんにそのことを話しながら
桜貝を見せました。【6】お母さんは、
8.「あら、ほんと。こんなにきれいな
桜貝ってあんまりないのよねえ。よかったわね。」
9.と言って、そっと
桜貝を手に
乗せました。そして、
10.「これねえ、うすくてわれやすいから、何かでつつんでおいた方がいいね。」
11.と、ティッシュを出して、そっとつつんでくれました。∵
12. 【7】
私は、ちょっと
緊張しながら、何
度もそのティッシュをあけて、
桜貝を見ました。
寝るまでに三十回ぐらいは見たと思います。ほんとうにきれいで、何回見てもあきませんでした。その夜は、うれしくてなかなか
眠れませんでした。
13. 【8】
大事に
持って帰った
桜貝ですが、いつだったかティッシュから出して、
他の貝といっしょにテーブルに
並べて
遊んでいるとき、つまみあげた
指先にちょっと力が入りすぎて、
片方のはしが
欠けてしまいました。
14. 【9】その後、自分で海で
拾ったり、
誰かにおみやげでもらったり、
鎌倉のお店で買ったりして、
貝殻はどんどん
増えていきました。でも、やっぱりいちばん大切にしているのは、はしが少し
欠けたあの
桜貝です。
私は、今も時々、
桜貝の入った
宝石箱を
開けて見ています。【0】
15.(
言葉の森
長文作成委員会 φ)
長文 12.2週
1. 『
種の
起源』の
著者チャールズ・ダーウィンがミミズの
研究を
始めたのは、二十八
歳のときでした。それ
以来、ダーウィンは四十年
以上もミミズの
観察を
続けました。ダーウィンが
最初に目をつけたのは
牧草地です。
最初はでこぼこで石ころだらけだったはずの
牧草地の土が細かくしっとりとした土になり、
地面が
平らになっていくのは、ミミズが土を食べて、土のフンをするからではないかと考えたのです。つまり、ミミズが長い年月をかけて、土を
耕しているのではないかと思いついたのです。
2. ダーウィンは、十年ほど前に土をよくするために
石灰をまいたという
牧草地に行ってみました。すると、
石灰は、
地表から七・五センチぐらいのところに
埋まっていました。ダーウィンはミミズが
石灰の上にフンをして、十年の間にこれだけ
埋めてしまったに
違いないと考えました。しかし、もしかしたら、その十年の間に、
誰かが土をまいたのかもしれません。ほかの
動物や風が土を
運んできたということも考えられます。そこで、ダーウィンは、これがミミズの
仕事だったということを自分の目で
確かめようと
決意しました。
3. ある年の冬、三十三
歳のダーウィンは、
自宅の
裏に広がる
牧草地に
石灰岩の
破片をばらまきました。この
場所なら毎日
観察することができます。しかし、
石灰岩の
破片が
埋まって見えなくなるまでに数年、ミミズが
耕す土の
量をほぼ
正確に計算できるようになるまでに数十年かかります。ダーウィンは、来る日も来る日も
牧草地をながめながら、この気の遠くなるような年月を
待ち続けました。
4. もちろん、この間、ダーウィンはただ
待っていただけではありません。ミミズにガラスやれんがのかけらを食べさせたらどうなるか、
地面の下に何
匹くらいミミズがいるか、ミミズのフンはどのように
移動するのかなど、ミミズ
に関するさまざまな
実験を行いました。まさにミミズづけの数十年間だったのです。ミミズのフンの
研究ばかりしているダーウィンに、もう青年になっていた
子供た∵ちは
憤慨しました。それでも、ダーウィンは
実験を
続けました。
5.
最初に
石灰岩の
破片をまいてから二十九年たち、ダーウィンは六十二
歳になっていました。その年の十一月、ついに
牧草地を
掘る日がやってきました。ダーウィンは、
牧草地にざくっとスコップをさしこみます。土を
持ち上げると、白いものが見えます。それは、言うまでもなく、二十九年前に
牧草地にばらまいた
石灰でした。
深さ五十センチほどの
穴を
掘ると、
周囲の土の
壁に
一筋石灰の
層が見えます。
石灰は、
地表から十七・五センチぐらいのところに
埋まっていました。二十九年間で十七・五センチということは、毎年
約六ミリずつ
埋められていたことになります。これは、もちろんミミズのはたらきによるものです。
6. ダーウィンは、この
研究を三百ページをこえる一
冊の本にまとめ上げました。
進化論の
提唱者として
有名なダーウィンですが、その一方でミミズのような小さな
生き物の
研究にも
生涯をささげたのです。みんなが
見向きもしないような小さな
生き物に
注目し、その
生態を明らかにしたダーウィン。そのダーウィンが
亡くなったのは、ミミズの本を書き上げてから半年後のことでした。
7.
言葉の森
長文作成委員会(Λ)
長文 12.3週
1. 【1】その日から、アインシュタインの、
核廃絶と
戦争反対への
努力がはじまりました。
2.「われわれは、
戦争には
勝ちました。けれども
平和を
勝ちとったわけではない。」
3. 【2】
博士はまず、アメリカ
国民に対して、こう
忠告します。
4. 原子力は、人間の手にあまるほど
危険な力です。つぎの
戦争で
使われたら、
世界は
破滅するでしょう。【3】だから、ぜったいに
戦争が
起こらないように
努力しなければなりません。アメリカ人は、
世界に先がけて原子
兵器のひみつをにぎった
国民として、このことをぜひ
自覚してほしいとうったえたのです。
5. 【4】
博士は、
終戦直後にできた、
国際連合の原子力
委員会の会長を
引き受けました。一九四六年には
国際連合に、
世界政府をつくることを
提唱します。つまり、
世界から
国境をなくし、国家どうしの
争いを
永久になくそうというのです。
6. 【5】けれども、そのときすでに、
ソ連をはじめ
世界各国で、アメリカに
負けじと、
核開発競争がはじまっていました。
7. こうなると、アメリカもだまってはいられません。一九四八年、トルーマン
大統領によって、こんどは「
水爆(
水素爆弾)」の
開発が
命令されました。
8. 【6】
核開発合戦はいよいよ
過熱し、
世界はアメリカ
側と
ソ連側にわかれて、にらみあうようになりました。
9. 人間のおろかさに、
博士は
深く胸をいためました。そして、あるときたずねてきた日本人の
記者に、「
敗戦国日本の
国民には、心から
同情します。【7】けれども、
勝った国々もいま、それ
以上に
苦しい道を歩んでいるのです。」と、しみじみ語りました。
博士は、原子力
発電所をはじめとする、原子エネルギーの
平和利用についても、かなり
慎重な考えをもっていました。
10. 【8】一九四五年『アトランティック=マンスリー』という
雑誌に∵は、つぎのように書いています。「……原子力が
将来、
人類に大きな
恵みをもたらすとは、いまのわたしには、考えにくいのです。原子力は
脅威です。」
11. 【9】人間は、原子力を
発見できたのに、どうして、それを
管理できないのでしょう、ときかれると、「それは、
政治が
物理学よりむずかしいからですよ。」と、
皮肉をこめて、答えています。【0】
12.
13.(「アインシュタイン」
岡田好恵著より)
長文 12.4週
1.
駄洒落(ダジャレ)とは、音が同じかそっくりな
言葉をならべて
遊ぶ言葉遊びです。
江戸中期の
雑俳と
呼ばれる
短い詩のひとつと言われています。
地口とも
呼ばれます。この
雑俳に
詠われる
内容は、みんなの知っている
言葉や、
芝居の
有名なせりふをもとにした
機知に
富んだおもしろいことがらです。いろいろな
言葉をよく知っていて、
世の中のことに
精通し、センスがよいと気の
利いたじょうずなシャレができるのです。ですから、
江戸時代では、シャレのうまい人を
教養があるとみなしたようです。
立派な
庶民の
文化だったわけです。
地口に合った絵を
行灯に
描いて、秋の
お祭りに
使ったという「
地口行灯」は、
最近復活して
関東地方のあちこちで、作られているようです。
2. しかし、
正統派の
俳人や
文化人と言われる人たちの中には、ばかばかしいおふざけと見る人もあり、シャレに「
駄」がつけられてしまったのです。もともとは「
洗練されている」「
洒落ていて
趣がある」という
意味だったシャレですが、つまらない・
粗末な・でたらめといった
意味を
表す、
不名誉な「
駄」がつけられてしまいました。
3. さて、ダジャレにはどんなものがあるのでしょう。いろいろな
種類がありますが、まずはちょっとした
語呂合わせで作る「同じ読み方の
言葉を
使ったもの」。これには、「電話にはでんわ」、「アルミ
缶の上にあるミカン」などがあります。
全く同じ音なのに
全然違うものを
表しているという
意外性のおもしろさがあります。ダジャレといえば、このようなものを
思い浮かべる人も多いでしょう。少し
発展させると、「とかげと
影」「
机にくっつく絵」「
宝があったから」などができます。
4.
次に、「
似たような音を
持つ言葉を
使ったもの」があります。「とこやはどこや」「めじろのねじろ」「
迷子の
舞妓」などがそれにあたります。
気軽にひょいと口をついて出るような
軽いダジャレ∵です。少し
無理があると、またそれがおもしろくなることもあります。
5. 三つめは、ニつの
言葉をくっつけて作ったやや
上級編です。「
布団がお山の方まで
吹っ飛んだ!」「おやまぁ。」ちょっとしたストーリーができあがります。
6. さらに、一つの文にニつの
意味をもたせるものがあります。「風林火山ない?」と「
風鈴飾んない?」、「
倒産か
辛かったな」と「父さんカツラ買ったな」、「
私と
居てください」と「
渡しといてください」などです。ダジャレのつもりでなく、口にして、「あれ、
勘違い」ということもあるかもしれません。
7.
江戸時代には
文化だったダジャレですが、
最近では
若者たちに親父ギャグなどと
呼ばれて、
肩身のせまいところです。しかし、日本語
独特の音のおもしろさ、
言葉から広がるイメージなどを
共有することで、場が
和み、楽しい気分になるものです。ダジャレを
最もよく言う
層は、小学校高学年の男子と四十
代以上のサラリーマンだそうです。
語彙が
増えて、ユーモアを
解するようになったダジャレ入門
者の小学生と、
忙しい生活や
仕事に
疲れ、つかのまの
癒しをダジャレに
求めるダジャレ
世代のお父さんたちというわけです。
8.
欧米人は
冗談が
好きで、ユーモアとウィット(
機知)に
富んだ会話を楽しむ、とよく言われます。ユーモアのセンスというのは、言っている本人はもちろん、
相手も楽しくなり、
円滑な人間
関係を
結ぶ上で
大変重要なものです。
9. ダジャレの
特徴は、
子供から大人までだれでも
気軽に言えることです。「日本じゃだれでも、ダジャレを言える」となったら、ダジャレは日本の
伝統文化の一つとして
世界に
誇れるものになるかもしれません。
10.
言葉の森
長文作成委員会(φ)