1. 【1】
決心したとおり、エジソンは、グランド=トランク
鉄道の新聞うりになりました。それは、新聞のほかに、
雑誌・くだもの・キャンデーなどを、
列車内でうるのです。そのきょりは、ポートヒューロン――デトロイト間百キロメートル、三時間です。【2】そこで、毎朝七時にポートヒューロンを
発車して、十時にデトロイトにつきます。
2. デトロイトにつくと、この汽車は夕がたまでやすみ、そして、夜の九時半ごろ、ポートヒューロンにかえります。それは、エジソンにとって、ながいひまな時間でした。
3. 【3】この
列車は、三
両編成で、
手荷物車と
喫煙車と
婦人用
普通客車からなっていました。
手荷物車は、
荷物室・
郵便室・
喫煙室の三つにくぎってあり、この
喫煙室はつかわれていませんでした。エジソンは、このへやをあてがわれたのです。【4】かれは、そこへ、
客にうる
品物をもちこみました。
4. こんな
列車ですから、朝のりこんで、
お客に新聞やたべものをひととおりうると、もうひまです。十時から夕がたまでは、デトロイトの
図書館で
勉強します。【5】けれども、
列車内の
往復六時間をぼんやりすごすなんて、そんなことは、エジソンにはできません。
5. そこでかんがえついたのが、車内
実験です。じぶんにあてがわれた車室を、
化学実験室にしようというわけです。
6. 【6】しかし、こんなことは、しゃしょうにそうだんしたらおしまいです。そっとやらなければだめです。かんがえついたあくる日、じぶんの家の地下室から、
薬品や
実験用具をこっそりもちこみました。
7. 【7】じょうぶなからだをおじいさんから、
事業の
才能をおとうさんから、そして、
勉強への
熱情をおかあさんからうけついだのか、少年エジソンはつかれしらずに、しごとと
勉強をつづけるのでした。
8. 【8】朝はやくから
列車うり子、
化学実験、
図書館がよいをするだけでなく、ポートヒューロンに、
助手のオーツをつかって、やさいとくだものの店をひらきました。デトロイトの市場でやすい
品物を見∵つけると、すかさず
仕入れてきて、ポートヒューロンの店でうるのです。【9】そうして、十二さいの少年が、一日八ドルから十ドルの
収入をあげるのです。
9. そのうちの一ドルを毎日おかあさんへ、そしてのこりは、本・
薬品・
実験器具の
費用にしました。
実験室は、みるみる
道具がそろってきました。
10. 【0】いったい、いまエジソンがうちこんでいる
化学実験と、かれの
商売と、どんなつながりがあるのでしょう。
11. なんのつながりもないように見えますが、じつは、エジソンという
人物にとっては、きりはなすことのできないかんけいがあるのです。それは、その後のかれの
発明をかんがえればすぐわかるでしょう。
12.
電灯・電車・
蓄音機・
映画・ラジオ……そのほか、どれをとってみても、
世の人々にちょくせつやくにたつものばかりです。みんな社会と、ちょくせつむすびついています。そういうものが
発明できたのは、エジソンがすぐれた
事業家の
性質をもち、また、
商売というものをよく知っていたからです。
13.(「エジソン」
崎川範行著 講談社 火の鳥
伝記文庫より)