長文集  11月3週  ★その日も、実験につかれて(感)  su2-11-3
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2012/06/15 08:09:23
 【1】その日も、実験につかれて頭をかか
えこんでいましたが、ふと、ゆかの上を見た
エジソンは、おもわず、あっと声をあげまし
た。
「そうか、そうか……どうして、こんなこと
に気がつかなかったのだろう!」
 それは、もめんの糸くずでした。
 【2】エジソンは、もめんのぬい糸を手ご
ろのながさにきり、タールとすすをまぶして
ニッケルにのせ、そうっと炉にいれてやきま
した。
 むねをおどらせながら、とりだしてみると
、ああ、なんというよろこび! 【3】おも
ったようにほそい炭素線が、みごとにできて
いたのです。
 エジソンは、もうむちゅうでした。それか
ら二日がかりで、この炭素線を、輪にしたり
、ばてい形にしたりして、ガラス球(だま)
の中にふうじこみました。【4】そして、ゆ
っくりゆっくり空気をぬき、百万分の一気圧
の真空にしました。
「できたぞ! できたぞ!」
 おもわずさけぶエジソンを、所員たちがと
りかこみました。【5】みんなが、じっとい
きをつめて見つめる中で、エジソンはその電
球を注意ぶかく電線につなぎ、ふるえる手で
スイッチをいれまし た。
「わあっ!」
 それは、文明のあけぼのをつげる歓声でし
た。
【6】「おめでとう!」
「おめでとう!」
 みんなは、かわるがわるエジソンの手をに
ぎりしめました。エジソンは、ひとことも声
がだせず、ただじっと、世界さいしょの電灯
を見つめていました。
 【7】一八七九年の十月二十一日のことで
した。十月二十一日――それはいまでも、「
エジソン記念日」とされています。
 この電灯は、四十五時間かがやきつづけて
きえました。そのあいだ、だれもが、まる二
日間、ねようともしなかったのです。【8】
エジソンは、くずれるようにたおれ、そのま
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ま二十四時間ねむりつづけました。∵
「メンロパークの魔術師が、とうとう電灯を
発明したそうだよ。」
 世間は、もう大さわぎです。新聞は、毎日
のように大きくかきたてました。
 【9】そして、この年の大みそか。研究所
の庭の木という木に は、何百こという電球
がつけられました。所員が総がかりでととの
えた展覧会です。
 ニューヨークからは、臨時特別列車が人々
をはこびました。【0】そうしてあつまった
何千という人たちの頭の上で、世紀の光が、
まばゆいばかりにかがやいたのです。
 やがて、新年をつげる教会のかねがなりは
じめました。そのときだれからともなく、
「エジソン、ばんざい!」
という声があがりました。観衆のどよめきは
、いつまでもいつまでも、こだましました。

(「エジソン」 崎川(さきかわ)範行著 
講談社 火の鳥伝記文庫より)