長文 11.3週
1. 【1】その日も、実験じっけんにつかれて頭をかかえこんでいましたが、ふと、ゆかの上を見たエジソンは、おもわず、あっと声をあげました。
2.「そうか、そうか……どうして、こんなことに気がつかなかったのだろう!」
3. それは、もめんの糸くずでした。
4. 【2】エジソンは、もめんのぬい糸を手ごろのながさにきり、タールとすすをまぶしてニッケルにのせ、そうっとにいれてやきました。
5. むねをおどらせながら、とりだしてみると、ああ、なんというよろこび! 【3】おもったようにほそい炭素たんそ線が、みごとにできていたのです。
6. エジソンは、もうむちゅうでした。それから二日がかりで、この炭素たんそ線を、にしたり、ばてい形にしたりして、ガラスだまの中にふうじこみました。【4】そして、ゆっくりゆっくり空気をぬき、百万分の一気圧きあつ真空しんくうにしました。
7.「できたぞ! できたぞ!」
8. おもわずさけぶエジソンを、所員しょいんたちがとりかこみました。【5】みんなが、じっといきをつめて見つめる中で、エジソンはその電球でんきゅう注意ちゅういぶかく電線につなぎ、ふるえる手でスイッチをいれました。
9.「わあっ!」
10. それは、文明のあけぼのをつげる歓声かんせいでした。
11.【6】「おめでとう!」
12.「おめでとう!」
13. みんなは、かわるがわるエジソンの手をにぎりしめました。エジソンは、ひとことも声がだせず、ただじっと、世界せかいさいしょの電灯でんとうを見つめていました。
14. 【7】一八七九年の十月二十一日のことでした。十月二十一日――それはいまでも、「エジソン記念きねん日」とされています。
15. この電灯でんとうは、四十五時間かがやきつづけてきえました。そのあいだ、だれもが、まる二日間、ねようともしなかったのです。【8】エジソンは、くずれるようにたおれ、そのまま二十四時間ねむりつづけました。∵
16.「メンロパークの魔術まじゅつが、とうとう電灯でんとう発明はつめいしたそうだよ。」
17. 世間せけんは、もう大さわぎです。新聞は、毎日のように大きくかきたてました。
18. 【9】そして、この年の大みそか。研究所けんきゅうじょにわの木という木には、何百こという電球でんきゅうがつけられました。所員しょいんそうがかりでととのえた展覧てんらん会です。
19. ニューヨークからは、臨時りんじ特別とくべつ列車れっしゃが人々をはこびました。【0】そうしてあつまった何千という人たちの頭の上で、世紀せいきの光が、まばゆいばかりにかがやいたのです。
20. やがて、新年をつげる教会のかねがなりはじめました。そのときだれからともなく、
21.「エジソン、ばんざい!」
22.という声があがりました。観衆かんしゅうのどよめきは、いつまでもいつまでも、こだましました。

23.(「エジソン」 崎川さきかわ範行のりゆきちょ 講談社こうだんしゃ 火の鳥伝記でんき文庫ぶんこより)