長文集  4月2週  ○地獄の沙汰も(感)  ta-04-2
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2011/01/31 17:22:34
 地獄の沙汰も金しだい

 【1】「沙汰」とは、結果とか取りきめの
こと。地獄でうけるえんま大王の裁判の結果
でさえも、お金をだせば有利になるという意
味。そこから、世の中はお金さえあれば、な
にごとも思うがままになる、というたとえだ

 【2】このように、世の中でお金がいちば
ん大切、と考える人はたくさんいる。たしか
に人間が生きていくのに、お金は必要なもの
だ。けれど人には、お金よりもっと大切にし
なくちゃいけないものが、あるんじゃないか
な。【3】たとえば、人と仲よく平和にくら
していくこととか、まじめに働くこととか、
正しいと信じることはつらぬくといったこと
などだよ。大人になって、お金だけがすべ 
て、という人間にはなってもらいたくないな

 【4】地獄ってどんなところか知ってる?
 地下の牢獄のこと だ。この世でわるいこ
とをした人間が、死んでからいく場所のこ 
と。えんま大王は、地獄でいちばんえらい主
だ。死んで地獄にきた人間の裁判をする。死
者が生きていた時のおこないを裁いて、罰を
きめる。【5】赤い血の色の衣装をまとって
、冠をかぶり、目をいからせて、手には罪人
をしばるなわをもっている。えんま大王が裁
判をやる時、死んだ者がやったことをしらべ
るものを、えんま帳というんだ。そばには、
命令をうけて罪人をこらしめる鬼がひかえて
いる。
 【6】地獄のえんま大王がでてくる熊本県
のむかし話がある。
 ――むかし、千五郎という役者がいた。芝
居がとても上手で、〈千両役者〉といわれた
ほどだ。ある時、千五郎はきゅうな病でころ
っと死んでしまった。
 はだかにされた千五郎は、くらいところを
ずんずん歩いていく。【7】そして、地獄と
極楽のわかれ道にきた。えんま大王が、こわ
い顔をしてすわっていた。
「こらあ、お前は、しゃばではなにをしてい
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たか。」
大王に聞かれ、千五郎は役者をしていた、と
こたえた。
「役者だったら、いまからこの前で、芝居を
やってみろ。」∵
【8】「こんなはだかじゃ、芝居をやれませ
ん。」
 えんま大王が、どんな衣装でも貸してやる
といったので、千五郎は、大王の衣装を借り
たいと申しでた。大王は、しぶしぶ貸してく
れた。
 千五郎は大王の衣装を着ると、こしから剣
をひきぬき、大きな声でいった。
【9】「おおい、赤鬼、青鬼ぃ。こっちへき
て、その男をつかまえろ。そして地獄へ追い
やるんだあ。」
 大王はちがうちがうとさけんだが、鬼たち
は大王をひっとらえて地獄へ追いやってしま
ったんだ。そのあと地獄の入り口では、千五
郎がずっとえんま大王をやっているそうな。
【0】

 「常識のことわざ探偵団」(国松俊英著 
フォア文庫)より