地獄の沙汰も金しだい 【1】「沙汰」とは、結果とか取りきめの こと。地獄でうけるえんま大王の裁判の結果 でさえも、お金をだせば有利になるという意 味。そこから、世の中はお金さえあれば、な にごとも思うがままになる、というたとえだ 。 【2】このように、世の中でお金がいちば ん大切、と考える人はたくさんいる。たしか に人間が生きていくのに、お金は必要なもの だ。けれど人には、お金よりもっと大切にし なくちゃいけないものが、あるんじゃないか な。【3】たとえば、人と仲よく平和にくら していくこととか、まじめに働くこととか、 正しいと信じることはつらぬくといったこと などだよ。大人になって、お金だけがすべ て、という人間にはなってもらいたくないな 。 【4】地獄ってどんなところか知ってる? 地下の牢獄のこと だ。この世でわるいこ とをした人間が、死んでからいく場所のこ と。えんま大王は、地獄でいちばんえらい主 だ。死んで地獄にきた人間の裁判をする。死 者が生きていた時のおこないを裁いて、罰を きめる。【5】赤い血の色の衣装をまとって 、冠をかぶり、目をいからせて、手には罪人 をしばるなわをもっている。えんま大王が裁 判をやる時、死んだ者がやったことをしらべ るものを、えんま帳というんだ。そばには、 命令をうけて罪人をこらしめる鬼がひかえて いる。 【6】地獄のえんま大王がでてくる熊本県 のむかし話がある。 ――むかし、千五郎という役者がいた。芝 居がとても上手で、〈千両役者〉といわれた ほどだ。ある時、千五郎はきゅうな病でころ っと死んでしまった。 はだかにされた千五郎は、くらいところを ずんずん歩いていく。【7】そして、地獄と 極楽のわかれ道にきた。えんま大王が、こわ い顔をしてすわっていた。 「こらあ、お前は、しゃばではなにをしてい |
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たか。」 大王に聞かれ、千五郎は役者をしていた、と こたえた。 「役者だったら、いまからこの前で、芝居を やってみろ。」∵ 【8】「こんなはだかじゃ、芝居をやれませ ん。」 えんま大王が、どんな衣装でも貸してやる といったので、千五郎は、大王の衣装を借り たいと申しでた。大王は、しぶしぶ貸してく れた。 千五郎は大王の衣装を着ると、こしから剣 をひきぬき、大きな声でいった。 【9】「おおい、赤鬼、青鬼ぃ。こっちへき て、その男をつかまえろ。そして地獄へ追い やるんだあ。」 大王はちがうちがうとさけんだが、鬼たち は大王をひっとらえて地獄へ追いやってしま ったんだ。そのあと地獄の入り口では、千五 郎がずっとえんま大王をやっているそうな。 【0】 「常識のことわざ探偵団」(国松俊英著 フォア文庫)より |