長文集  5月2週  ○転んでもただでは起きぬ(感)  ta-05-2
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2011/01/31 18:49:06
 転んでもただでは起きぬ

 【1】つまずいてころんでも、ころんだと
ころにおちているものをひろってから起きあ
がる、という意味だ。そこから、たとえ失敗
したとしても、その失敗をむだにしないで役
にたて、利益をあげようとする。【2】欲が
ふかくて、どんな時でも自分の得になるよう
にすること。ぬけ目のない人をあざわらって
いうことばだ。
 これは、古くからあったことわざらしい。
「転んでも土」とか、「こけてもただでは起
きぬ」、「こけても砂」、「こけても馬のく
そ」といったように、おなじ意味のことわざ
がいくつもある。【3】むかしは、馬のくそ
も畑のいい肥料になったから、ひろってもっ
て帰ったんだね。「こけた所で火打ち石」は
、ころんだら、そこにおちている石の中から
、火打ち石になるようなかたい石をひろって
からたちあがったという意味だ。【4】ほん
とに、ただでは起きないたくましさを感じる
ことわざだ。
 むかし話に「わらしべ長者」というのがあ
る。この話にでてくる男は、ころんでもただ
では起きなかったことから、幸運がはじまる
んだ。
 ――むかし、京の町にとても貧乏でしよう
のない男がいた。【5】大和(やまと)の国
、長谷(はせ)の観音様におまいりして、ど
うかお助けくださいとたのんでいた。すると
、ある夜の明け方、観音様が夢にあらわれて
いわれた。「都へ帰るとちゅう、どんなもの
でも手にはいったものを、大切に思ってもっ
て帰りなさい。」
 【6】男はお寺の門からでようとして、こ
ろんでしまった。起きあがって気がつくと、
一本のわらしべをひろってつかんでいた。男
は、このわらしべが観音様のいわれたものだ
と思い、すてずに歩きはじめた。
 【7】男は、飛んできたアブを、そのわら
でむすんでもってい た。すると、牛車(ぎ
っしゃ)に乗ってきた高貴な人の子が、すご
くほしがった。アブのわらしべをあげると、
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みかん三つをくれた。少しいくと、のどがか
わいて歩けなくなった女の人がいてみかんを
あげるとよろこんで、三反(たん)の布をく
れた。
 【8】またいくと、たおれた馬の処分にこ
まっている武士がい た。男∵は三反の布を
あげて馬をもらった。もう動かないと思って
いた馬は、しばらくすると息をふき返した。
男は、その馬に乗って京の町へ帰ってきた。
町の入口までくるとひっこしで大さわぎして
いる家がある。【9】その家では、いい馬が
ほしいと思っていたので、馬を買ってくれた
。代金は近くにある田だった。そして、その
家にしばらく住んでほしいとたのまれた。そ
の家主は何年たっても帰ってこず、とうとう
大きな家まで男のものになった。ころんでつ
かんだ一本のわらしべが、その先で大きな家
や田になることもあるんだよ。【0】

 「常識のことわざ探偵団」(国松俊英著 
フォア文庫)より