長文集  6月2週  ○どんぐりの背比べ(感)  ta-06-2
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2011/01/31 18:22:08
どんぐりの背(せい)比べ

 【1】どんぐりは、どれも形や大きさがお
なじようで、一つ一つのちがいはよくわから
ない。そこから、人間をくらべる時に、みん
なおなじようでとくにすぐれたものがいない
ことをいう。
 このことわざは、平凡なものばかりをくら
べる時に使い、すぐれたものをくらべる時に
は使わない。【2】クラスの成績で、上位の
ものは力がそろっていて、だれが一位か二位
かわからないような時には、「どんぐりの背
(せい)比べ」とはいわない。どうしてこと
わざに「どんぐり」がでてきたんだろう?
 それは、どんぐりがとてもありふれた木の
実だからだ。【3】どんぐりは、特定の木の
実じゃない。ブナ科ナラ属(ぞく)の木にな
る実は、みんなどんぐりだ。つまり、カシ、
クヌギ、コナラ、ミズナラ、カシワ、といっ
た木になる実はぜんぶ「どんぐり」とよぶん
だ。【4】木の種類はちがい、幹や葉の形な
どはちがっても、その木にできたどんぐりを
くらべてみると、みんな似ているように見え
る。そこから、このことわざがうまれたと思
われるよ。
 ところで、宮沢賢治という人が書いた童話
に「どんぐりと山猫」というのがある。【5
】作品のなかみは、このことわざとつながる
ところがあるよ。
 ――ある日、一郎のところに、おかしなは
がきがきた。それは山ねこからのもので、あ
した、めんどうな裁判をするからきてくれ、
と書いてあった。
 【6】つぎの日、一郎は、谷川にそって、
くりの木、滝、きの こ、りすなどに道を聞
きながら、どんどん山の中に入っていった。
そしてかやの森への坂道をのぼると、ぽっか
りと草地がひらけていて、そこに山ねこがあ
らわれた。
 【7】そこへ、赤いズボンをはいたどんぐ
りが、いっぱい飛びだしてきた。どんぐりた
ちは、だれがいちばんえらいかをあらそって
いて、山ねこに裁判してもらっていたのだ。
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
頭がとがったのがいちばんえらいとか、丸い
のがえらいとか、大きいのがえらいとか、口
ぐちにいいはる。【8】もう三日も裁判をや
ってるのに、ちっともおさまらないのだった
。∵
 その日も、みんな自分がいちばんえらいと
いい、わけがわからなくなってしまった。山
ねこはどうしたらいいかをたずね、一郎はこ
たえた。
【9】「この中で、いちばんばかで、めちゃ
くちゃで、まるでなってないようなのがいち
ばんえらい、といったらどうでしょう。」
 山ねこは、そのとおりどんぐりたちに申し
わたした。すると、どんぐりたちはしいんと
して、だれもなにもいわなくなった。【0】
裁判はおわった。山ねこは大よろこびで、お
礼に金のどんぐりを一升くれたのだった。

 「常識のことわざ探偵団」(国松俊英著 
フォア文庫)より