長文集  4月2週  ○道のはじまり(感)  ta2-04-2
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2011/01/31 19:02:59
 道のはじまり
 【1】それはすばらしいことでした。以前
人々が狩りをしてくらしていた時代には、一
つの山に動物がいなくなると、人々はべつの
山へと移動しなければなりませんでした。え
もののない日は十日でもニ十日でも、食事を
せずに、食糧をさがし歩かなければなりませ
んでした。
 【2】ところが、いまではちがいます。一
つの水田はよく年も、そのまたよく年も、き
ちんきちんと実りをあげてくれました。畑で
とれた作物は、長く保存することもできまし
た。雪にうもれた季節にも、梅雨の長雨の季
節にも、人間は安心してその土地で、くらす
ことができました。
 【3】畑しごとのない日には、べつのしご
とをすることもできました。はたおりをして
、着物をつくることもできました。わらしご
とをして、わらじやむしろや、なわをつくる
こともできました。【4】農作業の道具をつ
くったり、どうしたらお米がたくさんとれる
ようになるかと、みんなでゆっくり考えあう
、ゆとりもできていきました。
 畑をたがやすということは、それほどすば
らしいことでした。一つの土地にすみつくと
いうことは、たいへん幸せなことでした。【
5】家と畑とをむすぶ道は、こうして毎日ふ
みかためられていきました。家と畑とをむす
ぶ道も、しっかりつくられていきました。
 お米がたくさんとれるようになると、あま
ったお米は、べつの物と交換することができ
ました。【6】漁村でとれた海のさかなと交
換することができました。山村でおられた布
と、交換することができました。村と村とを
つなぐ道も、こうしてつくられていきまし 
た。
 お米がたくさんとれるようになると、十人
の人をやしなうのに、八人が畑へしごとにで
れば、すむようになりました。【7】あとの
二人はべつのしごとにつくことができました
。武士になったり、坊さんになったり、貴族
や学者や技術者になることができました。そ
して、商人になることもできました。こうし
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て都市ができました。大きな都がつくられて
いきました。【8】物と物との交換は、さら
に活発になりました。人と人との行き来もし
だいにさかんになりました。
 ちがった土地の人たちが、たがいに交流し
あうようになると、ちがったくらしのちえも
交換されました。くらしの技術はさらに進歩
∵していきました。
 【9】技術がすすむと、さらにたくさんの
お米がとれるようになりました。物と物との
交換も、ちえとちえとの交換も、いっそう活
発になりました。道はいよいよたいせつなも
のになりました。道をつくる技術も、物をは
こぶ技術も進歩していきました。【0】でこ
ぼこ道がたいらになっていきました。広い道
がつくられるようになりました。荷車もとお
れるようになりました。そこで交通は、もっ
と活発になりました。
 人類の文明は、そのようにして発達してき
たのでした。道のはたらきは、そのようにし
ていよいよ重要になってきたのでした。
 では道は、人が使わなくなったとき、どう
かわっていったでしょうか。大むかし人々が
まだけものを追ってくらしていた時代には、
そこにけものがいなくなれば、人間はべつの
山へと移動していきました。人の使わなくな
った古い道は、いつか土にうもれてしまいま
した。草ぼうぼうになり、ジャングルのよう
に木がしげって、もうあとかたもなくなって
しまいました。
 そうです。道はいつの時代にも、人間がそ
こをとおってこそ道でした。どんなにりっぱ
な道をつくっても、人間がそこをとおらなく
なったとき、道はあれはて廃道になっていき
ました。江戸時代に、にぎやかに人の行き来
した街道も、明治にはいって鉄道ができだれ
もが使わなくなると、とたんにさびれていき
ました。また、山のむこう側とこちら側とを
むすんでいた峠の道も、りっぱな自動車道が
トンネルでつうじると、しだいしだいにわす
れられていきました。
 
 「道は生きている」(富山和子)講談社青
い鳥文庫より