長文集  5月2週  ○道はやさしい道でした(感)  ta2-05-2
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2011/01/31 19:00:25
 道はやさしい道でした
 【1】いまの道は、歩く人には、たいへん
きびしい道ですね。あっちを見たり、こっち
を見たり、きょろきょろしたりしなければ、
自動車がこわくて歩けません。いちばん強い
自動車がいちばん大いばりで走っています。
弱い歩行者は道のすみで、小さくなって歩い
ています。
 【2】歩道橋をつくっても、お年よりや病
人やからだの不自由な人や、うば車のお母さ
んはとりのこされてしまいます。いまの道 
は、弱い立場の人たちのことを、わすれてい
るようです。
 でも、むかしの道はちがいました。弱い人
たちにとてもやさしい道でした。
 【3】東京の愛宕山の神社のおまいりの坂
道は、石段が急なことで知られています。と
ちゅうでうしろをふりかえったりすると、目
がくらみ、足がすくんでしまいます。よほど
の勇気をださないと、のぼれない坂道です。
ところがその近くにもう一つ、べつの道がつ
けられてありました。【4】すこし遠まわり
になるけれども、ずっとゆるやかな坂道です
。そして、このゆるやかな坂道には「女  
坂」、急な坂道のほうには「男坂」と名まえ
がつけられてありました。
 なぜ、べつにもう一つ、ゆるやかな道をこ
しらえたのでしょう。【5】それは、むかし
の人たちのやさしい心づかいからでした。神
社におまいりをしたいのは、足のじょうぶな
人ばかりとはかぎりません。女性もいれば、
お年よりも、子どもたちもいます。からだの
弱い人もいます。【6】からだの弱い人たち
こそ、じょうぶになるようおまいりをしたい
のです。そのような人たちも安心してのぼれ
るよう、わざわざまわり道をこしらえたので
した。
 東京の上野駅の近くには、湯島天神(ゆし
まてんじん)があります。【7】天神さまは
、菅原道真公をまつった学問の神さまの神社
です。ですから受験生たちは、「しけんに合
格しますように。」 と、おおぜいおまいり
にやってきます。この湯島天神にもゆるやか
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な女坂がつくられています。
 【8】女坂は江戸時代に、日本じゅうのあ
ちこちの神社やお寺につくられていきました
。おまいりの旅がブームになり、女性も子ど
ももお年よりも、だれもがおまいりにでかけ
るようになったとき、弱い人たちのことをみ
んなで考えあうようになったのです。
 【9】いまでも、女坂がのこされていると
ころが少なくありません。∵でも中には自動
車のための道にかわってしまったところもあ
ります。ひょっとしたら、あなたもどこかで
女坂を見たことがあるのかもしれません。【
0】それともあなたの見た女坂は、もう、い
までは自動車道にかわってしまっているのか
もしれません。むかしの人たちの道づくりの
やさしい心を、いまのわたしたちももう一 
度、見なおす必要がありますね。

 「道は生きている」(富山和子)講談社青
い鳥文庫より