長文集  5月3週  ★車と人間(感)  ta2-05-3
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2012/06/15 08:09:23
 車と人間
 【1】ひとむかしまえまでは、道路は「往
来」とよばれ、歩行者とせいぜい自転車が行
き来する、わたしたちのくらしのための場所
でした。
 「外であそんでいらっしゃい。」と、お母
さんは、子どもたちにいいました。外とは、
道のことを意味していたのです。【2】道 
は、子どもたちのかけがえのないあそび場で
もありました。
 屋台のお店がならぶとき、道はマーケット
になりました。家の前にえん台をおけば、夕
すずみの場所になりました。お客さんとお茶
話をする応接間にもなりました。【3】道は
お母さんたちの井戸ばた会議の会議場であり
、また近所のおじさんたちが集まって、立ち
話をする広場でもありました。道はそれほど
に、わたしたちのくらしのすみずみとむすび
ついていたのです。
 【4】その道が、いつのまに、あそんでは
いけない場所にかわってしまったのでしょう
。ならんで歩いても、立ち話をしてもいけな
い場所になってしまったのでしょうか。自動
車が走るようになってから、道はすっかりか
わったのです。
 【5】自動車は、とてもべんりなのりもの
でした。人間は、もうじぶんの足で歩かずに
、どこへでもいくことができました。重い荷
物もらくらくと、はこぶことができました。
また、スピードをあげて走るのは、とても気
持ちのよいことでした。
 【6】人々は、このすばらしいのりものの
ために、道をゆずってあげました。人間は、
すみっこのほうを小さくなって歩きました。
でこぼこ道は舗装をし、まがった道はまっす
ぐにつくりなおしてあげました。【7】さて
、自動車が走りやすくなると、だれもが車を
使いたくなりました。道はみるまに満員にな
りました。
「もっと道を広げたらいい。」
 だれもがそう考えました。家々をたちのか
せ、並木をはらい、道を広げていきました。
自動車はまた、すいすいと走るようになりま
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した。【8】すいすいと走る車を見ると、ほ
かの人たちも車がほしくなりました。また自
動車がふえました。車は身うごきがとれなく
なりました。
「のろのろ走っているのでは、自動車の意味
がない。もっと道を広げよう。」
「もう一本、道をつくろう。」
 【9】また家がたちのかされました。路面
電車もバスも追いだされて、道は広げられ、
車は流れるようになりました。路面電車がな
く∵なって、足をうばわれた市民たちは、じ
ぶんで車を運転するようになりました。
 道はまた、車で満員になりました。【0】
そこでもう一本、道が必要になりました。も
う、いたちごっこでした。こうしてみるまに
日本じゅうが、車でいっぱいになったのです

 いまではわたしたちは、車なしでは一日も
生きていけなくなっています。毎日使う一ま
いの紙も、たった一本のえんぴつも、車では
こばれてきます。じゃ口からでる水道の水も
、電波で送られてくるテレビの画面も、どこ
かでかならず、車のおせわになっています。
わたしたちのくらしは、自動車で、がんじが
らめにされています。
 
 「道は生きている」(富山和子)講談社青
い鳥文庫より