【1】お茶わん一ぱいでお米は何粒ありま すか? 約三〇〇〇粒(〇・五合)だそうで す。私が子供のころ、そのなかにときどきす こし黒い小さな斑点がついた粒が混じってい ました。気がつくと気持ちが悪いので、はし でつまみ出したこともありましたが、たいて いは気にしないで食べていました。【2】親 が「とりのぞかない と、おなかが痛くなる よ」と注意をしたことはなかったからです。 いつのまにか、そんな黒い斑点粒(りゅう) はなくなり、真っ白のごはんになりました。 【3】斑点粒(りゅう)が混じっていると 、見た目に悪いので、農薬を使って黒い斑点 粒(りゅう)がでないようにしているので す。お茶わんに四粒(〇・一%以上)あると 、二等米に格下げになり、値が下がってしま うのです。農薬を使わざるをえません。 【4】お米にいたずらして斑点粒(りゅう )を作るのはカメムシです。ヘクサムシ、ヘ コキムシとも呼ばれ、触れると悪臭を出して 身を守ろうとする、小さな平べったい五角形 の虫です。 【5】夏がすぎ稲が穂を出すころ、カメム シは一部の田に飛んできて穂の乳を吸うので 、被害にあった一部の田んぼの一部の粒が斑 点粒(りゅう)になります。一〇アール(= 一反)の田には約二三〇〇万粒のモミがある ので、この〇・一%は二万三〇〇〇粒になり ます。【6】これ以下にするには、計算上カ メムシを六〇匹(ぴ き)未満にする必要が あるので農薬がまかれるのです。 害虫と聞くと、稲を病気にしたり、収穫量 を減らしたりする「悪い虫」と思いがちです 。しかしカメムシはそんなことはしません。 収穫量も減らさず、人間の健康をそこねない 程度のいたずらです。【7】それさえ人間は 許せなくなり、カメムシを害虫の仲間に入れ てしまったのです。 いまから三〇年ほど前、都市住民は、カメ ムシのいたずらをも許せない自分になってい ることに気づかぬまま、農薬のこわさに気づ き、「反農薬」を訴え、農薬を使う農業を否 定しました。【8】お∵百姓さんも使いたく |
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て使っているわけではないので、無農薬で作 ってくれる人が、ごく少数ながらあらわれま した。すると農薬を使っている多くのお百姓 さんが、こんどは「悪い人」に見えてくるの です。【9】農薬を使わざるをえない現実は 知っていても、反農薬の世論に押された農業 関係者は、決められたとおりに農薬をまくこ とを省略する「省農薬」や、濃度をうすくす ることを意味する「低農薬」にしているので 不安に思わなくてよいと反論しました。【0 】 (中略) 悪循環を断ち切るため、福岡県農業改良普 及所に勤務していた宇根豊さんは「虫見板」 を使い、田のなかにいる虫に改めて関心を持 ってもらう試みを開始しました。株をたたき 、虫見板の上に落ちてくる虫を、害虫、益虫 、ただの虫に見分ける能力をまずつけてもら います。つぎに害虫が繁殖し、被害をあたえ ようとするタイミングを学んでもらい、その ときに農薬をまくように指導していったので す。それまでよりは時間はかかるけれど、田 のなかの自然に関心を持ち、つきあえる能力 を養っていくのは楽しいものです。そのうえ こわい農薬の使用量が減り、健康にもよいし 、経済的にも助かります。防除暦にしたがう と一三回まくところが、二〜四回になった人 もいます。これだけの効果があると、運動は 大きくなり、福岡県から佐賀県へも広がりま した。 (森住明弘『環境とつきあう50話』) |