長文集  6月4週  ○お茶わん一ぱいで  ta2-06-4
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2011/04/04 11:01:27
 【1】お茶わん一ぱいでお米は何粒ありま
すか? 約三〇〇〇粒(〇・五合)だそうで
す。私が子供のころ、そのなかにときどきす
こし黒い小さな斑点がついた粒が混じってい
ました。気がつくと気持ちが悪いので、はし
でつまみ出したこともありましたが、たいて
いは気にしないで食べていました。【2】親
が「とりのぞかない と、おなかが痛くなる
よ」と注意をしたことはなかったからです。
いつのまにか、そんな黒い斑点粒(りゅう)
はなくなり、真っ白のごはんになりました。
 【3】斑点粒(りゅう)が混じっていると
、見た目に悪いので、農薬を使って黒い斑点
粒(りゅう)がでないようにしているので 
す。お茶わんに四粒(〇・一%以上)あると
、二等米に格下げになり、値が下がってしま
うのです。農薬を使わざるをえません。
 【4】お米にいたずらして斑点粒(りゅう
)を作るのはカメムシです。ヘクサムシ、ヘ
コキムシとも呼ばれ、触れると悪臭を出して
身を守ろうとする、小さな平べったい五角形
の虫です。
 【5】夏がすぎ稲が穂を出すころ、カメム
シは一部の田に飛んできて穂の乳を吸うので
、被害にあった一部の田んぼの一部の粒が斑
点粒(りゅう)になります。一〇アール(=
一反)の田には約二三〇〇万粒のモミがある
ので、この〇・一%は二万三〇〇〇粒になり
ます。【6】これ以下にするには、計算上カ
メムシを六〇匹(ぴ き)未満にする必要が
あるので農薬がまかれるのです。
 害虫と聞くと、稲を病気にしたり、収穫量
を減らしたりする「悪い虫」と思いがちです
。しかしカメムシはそんなことはしません。
収穫量も減らさず、人間の健康をそこねない
程度のいたずらです。【7】それさえ人間は
許せなくなり、カメムシを害虫の仲間に入れ
てしまったのです。
 いまから三〇年ほど前、都市住民は、カメ
ムシのいたずらをも許せない自分になってい
ることに気づかぬまま、農薬のこわさに気づ
き、「反農薬」を訴え、農薬を使う農業を否
定しました。【8】お∵百姓さんも使いたく
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
て使っているわけではないので、無農薬で作
ってくれる人が、ごく少数ながらあらわれま
した。すると農薬を使っている多くのお百姓
さんが、こんどは「悪い人」に見えてくるの
です。【9】農薬を使わざるをえない現実は
知っていても、反農薬の世論に押された農業
関係者は、決められたとおりに農薬をまくこ
とを省略する「省農薬」や、濃度をうすくす
ることを意味する「低農薬」にしているので
不安に思わなくてよいと反論しました。【0

(中略)
 悪循環を断ち切るため、福岡県農業改良普
及所に勤務していた宇根豊さんは「虫見板」
を使い、田のなかにいる虫に改めて関心を持
ってもらう試みを開始しました。株をたたき
、虫見板の上に落ちてくる虫を、害虫、益虫
、ただの虫に見分ける能力をまずつけてもら
います。つぎに害虫が繁殖し、被害をあたえ
ようとするタイミングを学んでもらい、その
ときに農薬をまくように指導していったので
す。それまでよりは時間はかかるけれど、田
のなかの自然に関心を持ち、つきあえる能力
を養っていくのは楽しいものです。そのうえ
こわい農薬の使用量が減り、健康にもよいし
、経済的にも助かります。防除暦にしたがう
と一三回まくところが、二〜四回になった人
もいます。これだけの効果があると、運動は
大きくなり、福岡県から佐賀県へも広がりま
した。

(森住明弘『環境とつきあう50話』)