長文集  1月1週  寒空のダッシュ  te-01-1
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2014/12/14 12:07:56
【1】「いってきまあす。」
私は冬休みの間、毎日寝坊していたので、学
校が始まって朝起きるのがとてもつらい。八
時に出てギリギリなので、七時四十五分に起
きた今朝は、とてもあせった。 
 【2】毎朝、となりの棟の真衣ちゃんとマ
ンションのエントランスで待ち合わせしてい
るのだが、今日は約束の五十分には間に合う
はずもない。大急ぎでしたくをして、家を出
たら、八時を少し過ぎてしまった。 
 【3】ハアハア。小走りで学校に向かう。
気がつくと、マフラ ー、手袋はおろか、な
んとコートまで忘れてしまった。今朝は特に
冷え込む朝だと言うのに。取りに戻る時間は
ない。炎を吐く龍のように、口から息が白く
出てくる。ハアハア、ハアハア。【4】ラン
ドセルの中のペンケースがカタッカタッとリ
ズミカルに踊る。私の耳はキーンと冷えて感
覚がなくなっている。手の指もしびれたよう
になってきた。く、苦しい。私は休まずに走
り続けた。周りの景色が後ろに飛んでいく。
 
 【5】やっとの思いで昇降口に入ると、そ
の時、チャイムが鳴った。まだ安心はできな
い。これから三階までかけのぼらなければな
らないのだ。廊下や階段を走ってはいけない
ことはわかっている が、この際しかたがな
い。【6】と、全速力で行こうとした時、後
ろから、
「山根さん、おはよう。」 
と、担任の中田先生に声をかけられた。あせ
った。しかし、先生といっしょに行けば遅刻
はまぬがれる。私は、先生と並んで歩くかっ
こうになった。 
【7】「今朝は本当に寒いわねえ。あら、山
根さん、上着も着ないでずいぶん薄着ね。寒
くなかったの?」 
「あ、は、はい。薄着って言うか……。」 
「でもね、先生が小学生の頃に比べたら、今
は冬もずいぶん暖かくなったわよ。」∵ 
 【8】先生によると、昔は、冬になると朝
は決まって霜柱や氷が張り、東京でも窓には
つららが見られたそうだ。手足の指は霜焼け
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になって、ひび割れやあかぎれで皮膚がピリ
ピリしたと言う。さらに、そんなに寒いのに
男の子はみんな半ズボンでかけまわっていた
らしい。【9】昔は、そんなに寒かったんだ
。今の寒さなんてたいしたことないんだ。心
の中でそう思うと、私はコートも着ていない
のに寒さを感じなくなっていた。そして、凍
りつきそうだった耳もほっぺたも、校舎の中
のほっとするような暖かさの中で、ほてり始
め、溶け出しそうだった。 
 【0】廊下や階段にいた生徒は、みんな教
室に吸い込まれ、三階に着いたときには、誰
もいなくなっていた。先生がふと、私を見 
た。 
「そういえば、あなた今日は寝坊? 遅刻じ
ゃない?」 
それを最後まで聞かないうちに、私はぴょん
と、扉が半分開いていた教室に飛び込んだ。
 
「セーフ!」 
そして先生に向かって、両手を大きく開いて
みせたのだった。 

(言葉の森長文(ちょうぶん)作成委員会 
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