1.【1】「いってきまあす。」
2.
私は冬休みの間、毎日
寝坊していたので、学校が始まって朝起きるのがとてもつらい。八時に出てギリギリなので、七時四十五分に起きた今朝は、とてもあせった。
3. 【2】毎朝、となりの
棟の
真衣ちゃんとマンションのエントランスで待ち合わせしているのだが、今日は
約束の五十分には間に合うはずもない。大急ぎでしたくをして、家を出たら、八時を少し
過ぎてしまった。
4. 【3】ハアハア。小走りで学校に向かう。気がつくと、マフラー、
手袋はおろか、なんとコートまで
忘れてしまった。今朝は
特に冷え込む朝だと言うのに。取りに
戻る時間はない。
炎を
吐く龍のように、口から息が白く出てくる。ハアハア、ハアハア。【4】ランドセルの中のペンケースがカタッカタッとリズミカルに
踊る。
私の耳はキーンと
冷えて
感覚がなくなっている。手の指もしびれたようになってきた。く、苦しい。
私は休まずに走り
続けた。
周りの
景色が後ろに
飛んでいく。
5. 【5】やっとの思いで
昇降口に入ると、その時、チャイムが鳴った。まだ安心はできない。これから三階までかけのぼらなければならないのだ。
廊下や
階段を走ってはいけないことはわかっているが、この
際しかたがない。【6】と、全速力で行こうとした時、後ろから、
6.「山根さん、おはよう。」
7.と、
担任の中田先生に声をかけられた。あせった。しかし、先生といっしょに行けば
遅刻はまぬがれる。
私は、先生と
並んで歩くかっこうになった。
8.【7】「今朝は本当に寒いわねえ。あら、山根さん、上着も着ないでずいぶん
薄着ね。寒くなかったの?」
9.「あ、は、はい。
薄着って言うか……。」
10.「でもね、先生が小学生の
頃に
比べたら、今は冬もずいぶん
暖かくなったわよ。」∵
11. 【8】先生によると、昔は、冬になると朝は決まって
霜柱や氷が
張り、東京でも
窓にはつららが見られたそうだ。手足の指は
霜焼けになって、
ひび割れやあかぎれで
皮膚がピリピリしたと言う。さらに、そんなに寒いのに男の子はみんな半ズボンでかけまわっていたらしい。【9】昔は、そんなに寒かったんだ。今の寒さなんてたいしたことないんだ。心の中でそう思うと、
私はコートも着ていないのに寒さを感じなくなっていた。そして、
凍りつきそうだった耳もほっぺたも、
校舎の中のほっとするような
暖かさの中で、ほてり始め、
溶け出しそうだった。
12. 【0】
廊下や
階段にいた
生徒は、みんな教室に
吸い込まれ、三階に着いたときには、
誰もいなくなっていた。先生がふと、
私を見た。
13.「そういえば、あなた今日は
寝坊?
遅刻じゃない?」
14.それを
最後まで聞かないうちに、
私はぴょんと、
扉が半分開いていた教室に
飛び込んだ。
15.「セーフ!」
16.そして先生に向かって、両手を大きく開いてみせたのだった。
17.(言葉の森
長文作成委員会 φ)