1. 【1】カもハエと同じ、二
枚翅の
昆虫です。これも新しい虫で、
成虫が地上を
飛びまわるのに、
幼虫は水の中の生活です。だいたい、動物は、水中生活から
陸上へと
移ってきたものです。
昆虫も進化が進むほど、
陸上生活をするものになります。【2】その中で、もう一度、
幼虫が水の生活にもどったことになりますから、カはよほど生活の場がなかったのでしょう。しかも、小さな体で短い一生ですから、ヒトの血を
吸わないかぎり、まったく目につかない
昆虫ですんだはずです。
2. 【3】血を
吸うカはメスです。オスは血を
吸わず、
樹にたまった水を
吸ったり
熟した
果物の
液を
吸うだけです。メスは
卵を
発達させたり、
卵を
産む時、水の上に
浮かべる卵がばらばらにならないように、
卵をくっつけるために、動物の
血液を
利用するのです。あの小さな体ですから、一
匹のカが
吸う血の
量はわずかです。
3. 【4】それでも
刺されれば
不快ですから、追いはらわれます。まして、ヒトからヒトへ
血液を
吸うたびに、病原体を持っていたヒトのウイルス(
日本脳炎ウイルスとかマラリア原虫)などを
媒介するとなれば、それがコガタアカイエカやハマダラカにかぎられるといってもカ全体がわる者にされてしまいます。【5】じっさいには血を
吸わないカもいますし、ヒトとまったく
関係のないカのほうが多いのです。ユスリカのように生物学の
実験材料に使われるものさえいるのです。
4. ところで、動物の
血液は体の外にでると、すぐ
固まって、流れでるのをふせぐようになっています。【6】小さなカが口で
刺した時、
血液が
固まってしまうと、口がつまってしまいます。そこで、カは、
血液を
溶かす物質を持っていて、これを
混ぜて
吸うのです。カに
刺されたあとがかゆいのは、この
物質がヒトの体の中にのこり、じゃまをするからです。
5. 【7】かゆいので、かけば、それだけ
散らばりますから、よけいかゆ∵くなります。カの方はじゅうぶんに血を
吸うと、この
液もださなくなり、
飛びさりますから、とちゅうでたたかずに血をわけてやったほうがかゆみは少ないのです。【8】それまでがまんできない場合のほうが多いのですが……。
6. カを研究している人たちは、一日のうちに一回、カのカゴの中に
腕を入れ、なん百
匹ものカに血を
吸わせます。それでもヒトにはなにも起きません。【9】病気のもとがないかぎり、カは、けっして、こわい虫でもなんでもありません。
恐ろしいのはよごれた
環境のほうでしょう。
7. ところで、あの小さなカが
飛んでいる時には、ブーンという耳ざわりな音がします。【0】夏の夜、
寝ているところでは気になる羽音ですが、あれは
仲間に自分の場所を知らせる音です。メスがえさを
求めて
飛ぶ羽音をたよりに、オスがやってきて
交尾します。同じような
振動音の
音叉をならすと、これにオスがいっぱい
寄ってきます。また、ヒトにかぎらず動物が
呼吸で
排出する
炭酸ガスは、カをひきつけます。ドライアイスの
煙は
炭酸ガスですから、これでカを集める
方法もあります。
8. (「いい虫わるい虫」
奥井一満 日本少年文庫より)