長文集  3月2週  ○化学繊維(かがくせんい)が発達(感)  te-03-2
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2010/09/28 16:12:55
 【1】化学繊維が発達し、最近では、手間
のかかる養蚕をする人が少なくなりました。
けれど、カイコを飼っているところを見たこ
とがある人、あるいは自分で飼ったことがあ
る人なら、だれでも知っていることですが、
【2】平らな入れ物の中にクワの葉を入れ、
そのままにしておいても逃げだしもせず、あ
ちこち歩きまわりもせず、ただクワさえきら
さなければ、かんたんに飼えます。
 【3】ほかの昆虫を飼う時には、逃げない
ようにカゴやふたのある入れ物に入れ、えさ
や水やと、けっこう苦労するものです。カイ
コはその心配がありません。やがて完全に成
熟すると、入れ物のすみや、枯れたクワの葉
のあいだに糸をはり、繭をつくります。【4
】養蚕家が、この時に入れ物の上に繭をつく
る格子状のワクを置いてやると、ここにはい
上がって、一匹(ぴき)が一つずつきれいに
繭をつくります。卵からふ化した幼虫が、繭
になるまでだいたい一か月で、そのあいだに
四回、脱皮をして成長し、繭の中でサナギに
なります。
 【5】養蚕業では、繭ができるとすぐに集
め、大きさのそろったものを選んで糸をとる
工場に送ります。サナギが成虫のカイコガに
なるのは一週間ほどですから、ガにならない
うちに糸をとりはじめます。【6】これは、
繭を煮ながら糸をやわらかくして、ほぐれた
糸をまき取る方法が一般的です。これで、一
つの繭から切れずにつながった糸がとれます
。現在の大きな良い繭は、千五百メートルほ
どの糸になります。この糸をより合わせ、絹
糸にして布に織りま す。
 【7】このように繭から一本のつながった
糸をとるのですから、繭の中で羽化したガが
、繭を破って外にでたのではなんにもなりま
せん。ヒトが糸をとるためには、成虫になっ
てはいけないので、どんなにたくさんカイコ
が飼われても、すべて殺されてしまうことに
なります。
 【8】つぎの卵を産ませる分は、別に何匹
(びき)かのこしておけば、この∵ガ一匹(
ぴき)で千個近い卵を産みますからいっこう
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にさしつかえありません。幼虫の生活も、子
孫をつくることも、すべてヒトの計画どおり
になっています。
 【9】そのうえ、羽化したガは翅を持って
いますが、飛ぶことはできません。この翅の
はばたきはもともと飛んでいたころのはばた
きと同じですから、いつごろからか飛べない
ガになってしまったのです。これも、たぶん
、飼育化の結果でしょう。【0】すべての点
が、ヒトが飼いやすい、すなわち管理しやす
いようになっているのです。
 こんな野生の昆虫が、はじめからいるわけ
がありません。その証拠に、今日ではカイコ
の祖先型と考えられている野生のカイコ、こ
れはクワの樹につくのでクワコとよばれます
が、これは、成虫は立派に飛びますし、幼虫
は群がることもなく、一匹(ぴき)ずつかく
れるように生活しています。飼育もむずかし
く、とてもカイコのようには飼えませんし、
注意しないとすぐ逃げだしてしまいます。

 (「いい虫わるい虫」奥井一満() 日本
少年文庫より)