長文集  3月3週  ★ヒトとイエバエの対比(たいひ)(感)  te-03-3
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2012/06/15 08:09:23
 【1】ヒトとイエバエの対比を少し進めて
みると、大きさはいうまでもないでしょう。
寿命はヒトを、平均六十五年とすれば、イエ
バエはわずか二週間です。このあいだで卵・
幼虫・サナギ・成虫が終わってしまいます。
 【2】子どもは、今日の日本人の平均的子
どもの数は、二・二人すなわち、二人か三人
、ハエは二百〜三百の卵を産みます。この寿
命と子どもの数で考えると、イエバエは一年
間に、ものすごい数にふえることになります
。【3】ある計算では、一対のハエの子孫 
が、半年で億の百倍以上の数になるといわれ
ます。
 もちろん、ハエはこんなにはふえません。
死んでしまう子どもが多いからです。ただし
、この死んだ子どもは卵であれ幼虫であれ、
必ずほかの動物か植物の役に立っています。
【4】その点ヒトで は、ほかの生き物にと
って何の役にも立たない子どもが、生き続け
ていることになります。
 ハエが、短い期間で大量の卵を産むことに
は、大きな意味があります。それは、遺伝に
かかわる問題が、短いあいだで効果的にかた
づくことです。【5】ある薬品に対して、抵
抗性のある個体がいたとしましょう。ほかの
個体には抵抗性がないと、薬品にであった場
合、死んでしまうでしょう。
 ところが、抵抗性をもっている個体は生き
のこります。【6】これが子孫をのこしてい
くと、子どもたちはみな、抵抗性を持つもの
になります。しかも一生が短いから、この間
に抵抗性のないものが死に絶え、抵抗性のあ
るものが生きのこり、ハエの群(むれ)がす
べて、抵抗性のある個体に入れかわる結果に
なります。【7】このように短期間で、仲間
の性質をすべて変えてしまうことができま 
す。
 ヒトの場合は、一生が長く、生まれる子ど
もの数も少ないので、特別な性質を、グルー
プ全体に入れかえてしまうには、ひじょうに
長い、おそらく何万年という時間がかかるで
しょう。
 【8】また、ハエとヒトの運動性をくらべ
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るとどうでしょうか。もち∵ろん、ヒトはハ
エのように飛べません。その意味ではヒトの
運動の範囲は、ハエよりもせまいでしょう。
 ところで、ハエのすばらしさはスピードの
調節のみごとさです。【9】そうとうな速さ
で飛んできたハエは、そのまま速さを変えず
に、ぴたりと壁にとまります。もし、これを
ヒトにあてはめると、百メートル、全力疾走
してきたヒトが、壁の前で速度をゆるめず、
ぴたりと止まることになるでしょう。
 【0】ヒトには、とてもこんなことはでき
ません。百メートルのゴールは、そこで終わ
りではなく、走りぬける先があるから、全力
で走ってこられるのです。ヒトはスピードを
加えるにも、おとすにも、助走が必要です。
これは運動の上からいえばむだな部分です。
 ハエは、助走も加速もせず、ある場所に自
由にとまり、自由に飛びだすことができます
。こんな動き方は、ヒトが考えだしたどんな
飛行機でも、ヘリコプターでも、やることが
できません。むだな運動をしないことは、活
動のエネルギーをたいせつにしていることに
なります。

 (「いい虫わるい虫」奥井一満() 日本
少年文庫より一部直 す)