1.【1】「ほら、えさがなくなりかけているぞ」
2. 父の声が
響きます。ぼくは、おととしから、フェレットを
飼っています。フェレットというのは、イタチの
仲間で、長い体をしています。ぼくのうちのは、タヌキのような顔をして、茶色とグレーの間のような毛の色です。【2】セーブルという
種類で、
最も多く
飼われているそうです。どうして
飼い始めたかというと、前に、動物病院の近くで、だれかがジャンパーの中に入れて歩いているのを見て、ほしくてたまらなくなったからです。お年玉やお
小遣いを使わずに
貯め、半分は父がお金を出してくれました。【3】父は、農家で育ったので、子どものころから動物に
囲まれていたそうで、ぼくが生き物を
飼うのは大
賛成なのです。
3.
最近、サッカーの朝練で世話をさぼりがちなぼくに、父は言います。
4.【4】「お父さんは学校に上がる前から、ヤギの世話を
任されていたんだ。きちんと毎日、
乳搾りをしないとヤギの具合が悪くなる。
絶対に休めない仕事だったんだよ。牛小屋の
掃除も
大変だった。夏なんかむんむんしてなあ。【5】ほかの
友達が
誘いに来ても、仕事が終わっていないと学校にも行けなかったんだよ。でも、
飼われている動物は、人間が世話をしてやらないと生きていけないのだから、しんどくてもがんばったよ。」
5. 【6】ぼくより小さいころから、たくさんの仕事をしていた父はすごいなあと思いました。もしぼくだったら、寒い朝は起きられなかったかもしれません。父は、動物が
好きだからこそ毎日がんばったのだろうなあと思いました。
6.【7】「お父さん、いやになったことないの?」
7. 父は
笑いながら、
8.「まあ、いやになることもあったけど、動物は
慣れてくるとかわいいもんだからなあ」
9.と、フェレットのえさを
継ぎ足しながら言いました。【8】そして、∵
10.「お前は自分が
飼いたいと言って
飼い始めたんだから、どんなことがあっても、世話をさぼっちゃだめだな。」
11.と、ぼくの方を見ました。ぼくは、ちょっと
反省しました。朝はきついから、今日から、夜
寝る前に
必ず世話をしようと心の中で
誓いました。
12. 【9】父は、フェレットに指を
舐めさせながら、
13.「お父さんの
田舎では、こういうのを『めんこいなあ』と言うんだ。このイタチはどういう生い立ちなんだろな、なあんて。」
14.と、目を細めました。
15. ぼくは、もっともっと父の子どものころの話を聞きたくなりました。
16.(言葉の森長文
作成委員会 φ)