長文集  7月2週  ○日本の文化について(感)  ti2-07-2
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2010/06/14 16:47:08
 【1】日本の文化について、ある外国人が
、次のように書いているのを読んだことがあ
ります。
 日本は二階建ての家で、二階には西洋式の
生活や風俗や文化が、なにからなにまでそろ
っている。【2】また一階にはむかしながら
の生活や風俗、日本式の文化がそのまま残っ
ている。しかし、ふしぎなことは、その一階
と二階とを結ぶ階段が見あたらないことであ
る。──と、そういうたとえを引いて日本の
文化の姿を批評しているのです。このたとえ
も、たしかにおもしろいと思います。【3】
わたしたちの生活のまわりを見渡しても、た
とえば洋服と和服(着物)、靴とげた、いす
の生活と畳の暮らし、洋食と日本料理、西洋
画と日本画、西洋音楽と日本音楽、──とい
ったように、一方では西洋のものがさかんに
とりいれられていながら、一方では日本にむ
かしから伝わっているものがよろこばれてい
ます。【4】町を歩いてみても、ヨーロッパ
やアメリカの町にくらべて少しもおとらな 
い、りっぱなビルディングが立ちならび、電
車や自動車が目まぐるしく走っている。【5
】ところが、その町の中にも、のれんをか 
け、店さきに畳をしいた、むかしふうのお店
があるし、白壁の土蔵も見られるし、また神
社の鳥居がたっていたり、お寺のあたりから
お線香の煙りがにおってきたりする。【6】
きれいな訪問着に着飾ったむすめさんが、デ
ラックスな自動車から降りても、わたしたち
はあたりまえのこととしてふしぎに思いませ
んが、外国人の目から見ると、ずいぶんめず
らしいことなのでしょう。【7】それと同じ
ことで、よくおすし屋や、おそば屋などの店
さきに、テレビが置いてあって、そのそばに
、酉の市で買ってきた大きなくまでが掛かっ
ていたりする、そんな風景も、外国人にはふ
しぎでたまらないようです。
 【8】一九五七年に日本を訪れたソビエト
の作家エレンブルグ は、次のように書いて
います。
 「日本は、外から来るものをおどろかせる
。最初に目にうつるすべてのものが、ひどく
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矛盾しているように思われる。【9】電化さ
れた汽車、いすの背の角度を自由に調節でき
る、乗り心地のよい車∵室、そこには食堂も
ついている。給仕のむすめが香(かおり)の
高いコーヒーを運んでくれる。着物姿のふた
りの日本のむすめが手文庫に似た小さな箱を
あけて、生魚やほした昆布をつめ合わせたお
米の弁当を食べている。【0】食事がおわる
と、本をとり出す。ひとりはサルトル(フラ
ンスの作家)の小説を手にしているし、もう
ひとりは家政の教科書を読んでいる。こんな
光景を見ていると、自分がいったい世界のど
こにいるのか、アジアにいるのか、ヨーロッ
パにいるのか、アメリカにいるのか、わから
なくなる。しかも古い時代、新しい時代、さ
まざまな世紀がからみ合っているのだ。
 日本では、どの日本人も一日のうち何時間
かはヨーロッパ的な、またはアメリカ的な生
活を送り、また何時間かはむかしながらの日
本の生活を送っている。日本人の中には、た
がいに異なる二つの世界がいっしょに存在し
ている。」
 わたしたちは日ごろ見なれていて、なんと
も思わないことが、外国人の目にはこのよう
にうつっているのです。

「日本人のこころ」(岡田章雄著 筑摩書房
)より