1. 【1】日本の国の
歴史は、そのまま日本
民族の
発展の
歴史だと言うことができます。そのことは、わたしたち日本人にとって、大きな力となっているのですが、一方ではひろく世界の国々の人たちと交わっていくためには、かえってそれが
損になっていると思われる点もあるようです。
2. 【2】いったい日本人は、大むかしから日本
民族だけでこの島国に
暮らしてきたために、とかく日本のことだけを、おおげさに考えすぎるくせがあります。【3】「日本はりっぱな国だ」とか、「日本人はすぐれた
民族だ」とか、「日本の文化はすばらしい」とか、日本人どうしでおたがいに自分の国をほめ合い、それで
満足しています。もちろんお国
自慢ということは、どこの国の
国民だってあります。【4】
祖国のわる口を言われるのは、だれだっていやなものです。しかし、外国のことやほかの
民族のことはあまり知らないで、自分の国だけが
特別すぐれていると思うのは、あまり感心できないことです。【5】「ぼくはそうは思わないな。日本のものなんか、みんなだめだ。外国のほうが、すべての面でずっとすぐれていると思う」あなたはそう言って反対するかもしれません。たしかにそう考えている日本人だって少なくありません。【6】しかし、そのような見方は、せま苦しいお国
自慢を、ちょうど
裏返しにしたものにすぎないのです。ただ+と−の両方の
極端の
違いで、どちらもかたよった見方です。もっと高い立場に立ってみれば、どの国だって同じことなのです。【7】そのなりたちも
違えば、国のしくみも
違うし、その
国民の考え方だって
違っているのですから、その国々でそれぞれすぐれた明るい面もあれば、同時に、その国として
困っている面、暗い面だってあるのです。【8】日本人のものさしでそれをくらべてみようとするのが、だいいちむりなのです。見方がかたよってしまうからです。ですから、外国のことをよく勉強して深く知ることは
必要ですが、すぐれているとか
劣っているとか、ひどく気にすることはまったくむだなことだと言えるでしょう。
3. 【9】ところで、同じ学校にかよっている友だちとはよく話が合うも∵のです。先生のかげ口、
仲間のうわさ、教室での出来事、休み時間の楽しい遊び、クラブ活動、
修学旅行、運動会──
共通した話題はいくらでもあります。【0】ところが、あなたもきっと
経験があると思いますが、たとえばほかの学校へ行っているいとこが遊びに来たとき、あなたの学校の中で起こった、とてもゆかいな出来事を話して聞かせようとすると、なかなかむずかしいことに気がつきます。毎日顔を合わせている級友ならば、
簡単に「タヌキがね」といえばすむところを、「ぼくの学校にタヌキというあだ名の
教師がいて、国語の
担任なんだ。どうしてタヌキってあだ名がついたかっていうとね……」などと、いちいちくわしく
説明しなくては、相手に話が通じない。その
説明に
骨が
折れて、かんじんのゆかいな話のほうは、すっかり気が
抜けてしまう。そんな
経験をしたことがあるでしょう。
4. 同じ
民族だけで作られているこの日本の国にも、それに
似たようなことがあるのです。
5.「日本人のこころ」(
岡田章雄著 筑摩書房)より