長文集  9月1週  ○日本を訪れる外国人にとっては(感)  ti2-09-1
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2010/06/14 14:52:30
 【1】日本を訪れる外国人にとっては、日
本の家が、襖や障子で仕切られていて、ひろ
い部屋がいつでも多くのせまい部屋になって
しまうことや、畳が部屋いっぱいに敷きつめ
られていること、西洋の家のようにテーブル
や椅子など、家具がたくさん置いてないこと
などがめずらしくてたまらないようです。
 【2】このような住居のくふうは、寝殿造
りの形をもとにして、鎌倉時代から室町時代
にかけて、できあがったものです。夏の蒸し
暑さをさけて、涼しい風を取り入れるために
は、それがいちばんつごうがよいのです。
 【3】いまでは、西洋ふうのアパートに住
む人も多くなりましたが、せまい部屋で、ま
わりは壁にかこまれ、窓があいているだけで
は、夏は、扇風機や冷房装置がなければ、と
ても暑苦しくてたまらないでしょう。【4】
日本ふうの家では、夏は襖や障子をあけはな
して、涼しい風をいっぱい入れることができ
るのです。わたしたち日本人は、こうした家
の中の生活になれていますが、日本人がとか
くあけっぱなしの生活をあたりまえのことと
考えているのは、ひとつにはそのためだと言
うことができます。
 【5】わたしたちは、自分ひとりになると
いうことがほとんどありません。部屋の中に
いても、襖をあけてだれかがはいって来ま 
す。話をしていても、障子の向こうでだれか
が聞いているかもしれません。【6】日本式
の家では、西洋ふうの家と違って部屋にかぎ
をかけて閉じこもるということができないの
です。それぞれの部屋が独立していてかぎが
なければあけられない。かぎさえかけてしま
えば完全に自分だけ、自分たちだけになれる
。【7】また、外出するときも、かぎさえか
けておけば、るすに、ほかの人にじゃまをさ
れない。かぎの生活というものは、実に便利
なものです。便利であるばかりでなく、自分
をみつめる、自分を反省する、もっとひろ 
く、そしてむずかしく言えば、個人主義の考
えを養う上にたいそう役立つのです。【8】
「日本では、自分ひとりになれる場所は、ト
イレの中だけだ」と言った人もいますが、た
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しかにそのとおりで す。∵
 個人主義ということはけっして自分かって
ということではありません。【9】かえって
その反対に、社会にたいする義務や権利をは
っきりと自覚して、自分の生活を責任をもっ
て築(きず)き上げていくことです。そして
、自分の生活とほかの人の生活との区別をは
っきりとつけていくことです。【0】自分の
権利を主張するかわりに、ほかの人の権利も
認めて、ほかの人のめいわくにならないよう
に心がけることです。
 ところがわたしたちは、とかくあけっぱな
しの生活になれているので、おたがいにほか
の人の目ざわりになったり、めいわくになっ
たりすることをあまり気にかけません。他人
の生活のじゃまをしてもへいきです。幕末や
明治のころに日本に来た西洋の人々は、夏の
日にほとんどはだかで家の外に出ていたり、
軒さきで行水をつかったりしている人々を見
て、びっくりしました。

「日本人のこころ」(岡田章雄著 筑摩書房
)より