長文集  9月2週  ○お客様が来たときには(感)  ti2-09-2
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2010/06/14 16:51:57
 【1】お客さまが来たときには座布団を出
します。ふたりで来たときには二枚ならべま
す。集まりなどがあっておおぜいのお客が来
ると、その数だけ座布団がいります。座布団
が足りなければ、あとから来たお客は畳の上
にすわります。【2】「どうぞ、おつめくだ
さい」と言って、ひざをおくっていけば、か
なりたくさんの人数でも一部屋にはいってし
まうことができます。「すこしせまいようで
すから、襖をはずしましょう。」つぎの部屋
も使えば、ずっとひろくなるでしょう。
 【3】日本間は、まったく便利にできてい
ます。西洋式の部屋では、こんなわけにはい
きません。応接間には椅子があり、ソファが
あり、テーブルや、わきテーブルが置いてあ
るので、そんなにおおぜいのお客ははいれま
せん。【4】それに、きまった椅子の数しか
腰かけられない。あとからおおぜい来ても、
椅子がなければ立っていなければなりません
。それにとなりに部屋があっても、壁やドア
で仕切られていますから、いっしょにして使
うことはむずかしいでしょう。
 【5】日本人は大むかしから椅子を使いま
せんでした。床にあぐらをかくのがふつうだ
ったのです。奈良朝のころになって唐ふうの
風俗がさかんに朝廷やお寺に取り入れられた
とき、椅子に腰かける生活も一時は行なわれ
たようですが、そのまますたれてしまったと
いうことです。【6】その後、時代は下って
、信長や秀吉のころに西洋の文化や風俗がさ
かんに取り入れられたときにも、椅子を使う
ならわしは伝わりませんでした。江戸時代に
、長崎の出島ではオランダ人がテーブルと椅
子の生活をしていましたが、日本人の生活の
中には影響をあたえなかったのです。【7】
よく考えてみると、こうしたことも、ひとつ
には夏を涼しく過ごすために、家具を多く置
かないという生活のくふうから、おこったも
ののようです。テーブルや椅子が置いてあれ
ば、それだけ外からはいってくる涼しい風が
さえぎら∵れてしまいます。【8】椅子に腰
かけているよりも、ひろい畳の上にすわって
いたほうが、その畳の上を渡ってくる風をう
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けてよっぽど涼しいのです。
「日本では居間が応接間にもなり、食堂にも
なり、また寝室にもなる」と言って西洋の人
々はびっくりします。【9】居間には居間の
家具があり、応接間には応接間の、食堂には
食堂のテーブルや椅子が置かれ、また寝室に
は家族の数だけベッドを用意しなければなら
ない、西洋ふうの家からみれば、たしかにう
そのような生活です。【0】家の中にひろく
空間をとって、それを必要によっていろいろ
に利用する、こういった生活のくふうは、た
しかにすばらしいものだといってよいでしょ
う。
 なお、これに似たすばらしい生活のくふう
はほかにもあります。たとえば、風呂敷(カ
バンとくらべてごらんなさい。)、げた(く
つとくらべて)、はし(ナイフやフォーク)
など、──ほかにどんなものがあるか考えて
ごらんなさい。

「日本人のこころ」(岡田章雄著 筑摩書房
)より