長文集  9月3週  ★家のつくり方や(感)  ti2-09-3
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2012/06/15 08:09:23
 【1】家のつくり方や、着るものと同じよ
うに、食べ物についても、日本料理というも
のは、だいたい夏を涼しく過ごすために、さ
っぱりとして、見た目もすがすがしいように
くふうされたもので す。【2】日本ふうの
ものとして、外国人にもよろこばれるおすし
や天ぷら、おそばなども、けっして冬暖まる
ものではありません。夏の料理はいくらでも
ありますが、冬の料理としては鍋ものとか、
汁ものとか、湯豆腐などがあるくらいで、あ
まり種類がないようです。【3】もっともこ
れらの料理も、江戸のころには、あまり上等
な料理ではなかったようです。すき焼きは、
牛肉を食べるならわしが始まった明治時代以
後のものですが、その料理のしかたは、江戸
のころに、シカやイノシシの肉を(特別の料
理店で)料理するときに行なわれていたもの
だということです。
 【4】明治時代よりまえには、牛や馬の肉
は食べなかったので す。それは、農業のた
めにだいじな家畜だったからですが、ひとつ
には、外国と違って、日本では牧畜がほとん
ど行なわれなかったためです。【5】仏教の
教えでも、これらの動物の肉を食べることを
禁じていたのでした。ですから、江戸のころ
には、寒い冬の夜に は、あつく煮たうどん
を食べるとか、お酒をあたためてのむぐらい
のことで、からだの中をあたためたのです。
 【6】今日では、西洋ふうの料理や中国ふ
うの料理がわたしたちの家庭の中にも多く取
り入れられてきたので、むかしながらの日本
料理を食べるということが少なくなってきま
した。【7】ミソと か、豆腐とか、納豆、
ノリなど、日本ふうの食事にはつきものだっ
た食品も、若い人たちにはあまりよろこばれ
なくなっています。しかし、わたしたちは洋
食を食べても、ごはんを食べるならわしは捨
てていません。【8】一日に少なくも一度は
ごはんを食べないと気がすまない。西洋の人
のようにパン食にしてしまうことは、なかな
かできそうもありません。
 わたしたち日本人は、二重の生活になれて
しまいました。【9】ひと∵つは、日本の土
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地や気候に合うように、遠いむかしから、く
ふうにくふうを重ねてきた生活、家のつくり
方や着物、そして食べ物(ことにごはん)、
もうひとつは、明治にはいって西洋から取り
入れられた合理的な、能率的な生活。
 【0】生活の中の二重性(つまり、一方で
はこの日本の土地に住みついているわたした
ちにとっていちばんつごうのいいむかしなが
らの生活を楽しみながら、そして一方に近代
社会にふさわしい合理的な、能率的な西洋ふ
うの生活をおくる。)──この二重性は、生
活の中ばかりでなく、日本の文化や芸術、思
想、学問、すべての中にみなぎっています。
ちょうどはしご段のない二階と下みたいに、
まったく別々のものが日本人の心の中に、二
重に根をおろしています。

「日本人のこころ」(岡田章雄著 筑摩書房
)より