1. 【1】デンショバトは、
巣から二千キロメートルほども
離れた場所で放されても、まちがいなくもどって来ます。
長距離といえば
渡り鳥が海を
渡ってとぶのはもっとおどろくべきことかもしれません。【2】
例えばツバメは夏の終わるころ、ヨーロッパの国ぐにから南アフリカ
各地に
渡って冬を
過ごします。しかも、
翌年の春にはヨーロッパにまいもどり、
以前の
巣があって、そこからとび立った
建物の
軒下にふたたび
巣をかけることもあるのです。【3】イギリスから南にとんで行った十四羽のツバメの足に足
環をはめ、
印としておいたところ、全部が南アフリカでみつけられたという
報告もあります。この
渡行距離はおよそ一万キロメートルもあるのです。【4】そして、ツバメたちは春にはまたイギリスにもどってくるわけです。どうしてこんな長い
距離を
正確に
往復することができるのでしょうか。親鳥から次つぎの世代に
渡りの
道筋を
伝えるのでしょうか。【5】どうもそうではないらしいのです。親鳥は
若い鳥たちがとび立つまえに、さっさと先にとんで行ってしまいます。
若鳥はその後を
特に追いかけるのでもないのです。
2. 【6】一度、通った道を帰ってくるときには、
途中の地形や目立ったものが手がかりになります。ところが
渡り鳥は洋上をとんで
渡行するので、なにも
目印はないし、しかも夜間
飛行もするのです。
3. 【7】アメリカ
産のチドリは、
初秋のころ、カナダから南アメリカに三千キロメートルの洋上をノンストップでとぶということです。ペンギン鳥はとぶことはできませんが、中には毎年、
南極大陸と南アメリカとを泳いで
往復するものもいます。【8】鳥たちがまちがいなく
巣にもどってくるのは、地形をおぼえたり、目立ったなにかを
目印にしたりするのではないようです。
4. 虫たちもこれに
似た大
移動をします。【9】イナゴの
大群が、東アフリカでは、八時間にわたって休みなく五〜六〇〇キロメートルの∵
距離を一定の方向にとんで行くということです。イナゴの
幼虫は、羽をもっていませんが、羽をもつようになると
群らがり出し、とび立って行くのです。【0】
乾燥した年には緑の草を
求めて、風をたよりに
群らがってとぶのです。ヨーロッパにいるヒメアカハタチョウは冬の
季節にはそこでは生き
続けられないのですが、その
季節に北アフリカで
繁殖します。やがて春をむかえると、チョウは地中海を
渡って六月ころにはヨーロッパに
到着します。七月に
卵を
産みつけ、新しい
幼虫は八月には一人前になります。大部分のチョウはヨーロッパで冬を
越すことはできませんが、その中からふたたび、アフリカにとぶものもいるのです。チョウは一定の方向にとび、風向きが
変わっても方向をとりちがえないで行きますので、
渡り鳥と同様、ふしぎな
能力をもっているわけです。
5.(「動物とこころ」 小川
隆著 大日本図書より)