長文 11.2週
1. 【1】ウナギはたまごを生むために育った土地から五〜六〇〇〇キロメートルも離れはな たところまで泳いで行くということですが、そこで生まれた子どもがふたたび両親の育った土地まで帰ってくるというのですから、これもふしぎな大旅行といえそうです。【2】ウナギはおよそ十さいになると川を下って海に出て行きます。例えばたと  ヨーロッパ各地かくちのウナギは川をつたって大西洋に入ります。そこからは深海にもぐって西インド諸島しょとう付近ふきんまで行くらしいのです。そこでウナギの両親は子どもを産んう で死ぬのです。【3】育った子ウナギは、やがて海を渡っわた てヨーロッパにもどる大旅行をすることになります。海からヨーロッパの河口かこう到達とうたつするころになると、ウナギの身長は五センチ以上いじょうになりますが、群れむ をなして上流にさかのぼって行きます。【4】そして、両親の育った場所にもどり、ふたたび、両親の役目をくり返すわけです。この大旅行についても、渡り鳥わた どりやデンショバトのような太陽コンパスが考えられるかどうか、両親の故郷こきょうの生活を一度もしたことのないウナギの子が、そこに帰って行くことを考えるとなかなかむずかしいことです。
2. 【5】サケもたまごを生むために大旅行をしますが、ウナギの場合とちょうど逆さまさか  で、海から泳いで河口かこう達したっ 川をさかのぼって行きます。たまごは上流の河床かわどこ産みつけう   られるのです。生まれたサケの子は、やく二年間、川の中で過ごしす  、それから川を下って海に出て行きます。【6】そこで二年以上いじょう過ごしす  、十分に成長せいちょうしたサケはふたたび、海から川に向かってもどることになります。ふしぎなのは、サケがもどる川が、はじめに育って出て行った川だということです。同じサケがもどって来たのかどうかを確かめるたし   ために、ひれのある場所を切ってしるしをつけておいてわかったのです。
3. 【7】サケはおどろくべき記憶きおく力をもっていて、出て行った川をおぼえているのでしょうか。サケのたまご産卵さんらん地とちがう川の上流に移しうつ かえる実験じっけんがアメリカのカリフォルニアで行われました。【8】サケは生まれた土地にではなく、育った土地にもどって来ました。∵サケは育った土地をおぼえていたのです。サケはなにを目印めじるし故郷こきょうの川をさがし出すのでしょうか、海の中にも太陽コンパスは働くはたら かもしれません。しかし、魚の場合にはそれ以外いがいにも手がかりがあります。【9】それはにおいです。二つのべつの川の水を水槽すいそうの中に流し、一方の流れのときだけえさを入れますと、サケは流れのちがいを嗅ぎか わけるらしいのです。それですから、海から河口かこうに近づくと自分の育った川の流れをさぐり当てることもできそうです。【0】

4.(「動物とこころ」 小川たかしちょ 大日本図書より)