長文 11.3週
1. 【1】動物たちは、わたくしたち人間と同じような時間のはやさを感じているのでしょうか。ドイツの若いわか 先生たちは水槽すいそうの中にトウギョを入れ、灰色はいいろ円盤えんばんのうしろにえさ置きお ました。【2】トウギョが円盤えんばんをまわってえさにぱくつくことを訓練くんれんしようとしたのです。魚はやがてそうするようになりましたが、そのあとで、灰色はいいろ円盤えんばんの代わりに黒・白の扇形おうぎがた塗りぬ 分けた円盤えんばんを用いそれをはやく回転しました。【3】この回転をうまく調節ちょうせつすると灰色はいいろ円盤えんばんと同じようにみえます。魚は灰色はいいろ円盤えんばんと同じようにえさ求めもと 近寄っちかよ て来ました。次には、回転をゆっくりし、灰色はいいろ円盤えんばんにはみえなくなり、白・黒の扇形おうぎがた交替こうたいしてみえるようにします。【4】それでもトウギョが近寄っちかよ てくれば追いはらうことにしました。その後、ゆっくりした回転からはやい回転まで、いろいろの速さで試しため てみましたが、一回転、五十分の一秒以内いないではトウギョは近づいて来ますが、それよりおそくなると遠ざかってしまいました。【5】速く動きまわっている獲物えものをとらえて生きているトウギョにとっては、わたくしたちが感じられないほど速い運動も感じとることができるのでしょう。
2. 終わりにもう一つおもしろい実験じっけんをお話ししましょう。【6】カタツムリを、ゴムのボールの上にのせます。からのところは上からかすがいでとめてあるので、カタツムリは移動いどうすることはできないのです。しかし、ゴムボールは水の上に浮かんう  でいますからなめらかにすべり動かすことができます。【7】この仕組みでカタツムリは持前のはう運動を自由にすることができますが、その結果けっか移動いどうはしないわけです。一本のぼうを前方からカタツムリの足のうらに近づけますと、カタツムリはその上にはい上がろうとします。【8】一秒間に一〜三回、ぼう振動しんどうさせますとカタツムリははい上がろうとはしません。ところが一秒間に四回以上いじょう振動しんどうさせますと、カタツムリは平気ではい上がって来ようとします。ゆっくりとはっているカタツムリ∵にとっては、一秒間に四回以上いじょう振動しんどう静止せいししているのと同じなのです。【9】カタツムリのはうスピードはわたくしたちにとっては、ずいぶんおそいテンポに感じますが、カタツムリにとっては決しておそいテンポではないのです。
3. 【0】動物たちはそれぞれにふさわしいテンポで動いています。わたくしたち人間のテンポからみて速過ぎるす  ものもあれば、おそ過ぎるす  ものもありますが、それはどこまでも人間からみた感じです。小ザルたちはせかせかと動きまわりますが、それはサルたちが神経質しんけいしつだからではないのです。カタツムリがゆっくりはっているのは、ぐずだからではないのです。わたくしたちのテンポを物差しものさ にしてせかせかしているとかぐずぐずしているとか思ってはまちがいです。もしそうはやのみこみすれば、クレバー・ハンスの誤りあやま をここでもくり返すことになります。

4.(「動物とこころ」 小川たかしちょ 大日本図書より)