1. 【1】動物たちは、わたくしたち人間と同じような時間のはやさを感じているのでしょうか。ドイツの
若い先生たちは
水槽の中にトウギョを入れ、
灰色の
円盤のうしろに
餌を
置きました。【2】トウギョが
円盤をまわって
餌にぱくつくことを
訓練しようとしたのです。魚はやがてそうするようになりましたが、そのあとで、
灰色の
円盤の代わりに黒・白の
扇形に
塗り分けた
円盤を用いそれをはやく回転しました。【3】この回転をうまく
調節すると
灰色の
円盤と同じようにみえます。魚は
灰色の
円盤と同じように
餌を
求めて
近寄って来ました。次には、回転をゆっくりし、
灰色の
円盤にはみえなくなり、白・黒の
扇形が
交替してみえるようにします。【4】それでもトウギョが
近寄ってくれば追いはらうことにしました。その後、ゆっくりした回転からはやい回転まで、いろいろの速さで
試してみましたが、一回転、五十分の一秒
以内ではトウギョは近づいて来ますが、それよりおそくなると遠ざかってしまいました。【5】速く動きまわっている
獲物をとらえて生きているトウギョにとっては、わたくしたちが感じられないほど速い運動も感じとることができるのでしょう。
2. 終わりにもう一つおもしろい
実験をお話ししましょう。【6】カタツムリを、ゴムのボールの上にのせます。
殻のところは上からかすがいでとめてあるので、カタツムリは
移動することはできないのです。しかし、ゴムボールは水の上に
浮かんでいますからなめらかにすべり動かすことができます。【7】この仕組みでカタツムリは持前のはう運動を自由にすることができますが、その
結果、
移動はしないわけです。一本の
棒を前方からカタツムリの足の
裏に近づけますと、カタツムリはその上にはい上がろうとします。【8】一秒間に一〜三回、
棒を
振動させますとカタツムリははい上がろうとはしません。ところが一秒間に四回
以上振動させますと、カタツムリは平気ではい上がって来ようとします。ゆっくりとはっているカタツムリ∵にとっては、一秒間に四回
以上の
振動は
静止しているのと同じなのです。【9】カタツムリのはうスピードはわたくしたちにとっては、ずいぶんおそいテンポに感じますが、カタツムリにとっては決しておそいテンポではないのです。
3. 【0】動物たちはそれぞれにふさわしいテンポで動いています。わたくしたち人間のテンポからみて速
過ぎるものもあれば、おそ
過ぎるものもありますが、それはどこまでも人間からみた感じです。小ザルたちはせかせかと動きまわりますが、それはサルたちが
神経質だからではないのです。カタツムリがゆっくりはっているのは、ぐずだからではないのです。わたくしたちのテンポを
物差しにしてせかせかしているとかぐずぐずしているとか思ってはまちがいです。もしそうはやのみこみすれば、クレバー・ハンスの
誤りをここでもくり返すことになります。
4.(「動物とこころ」 小川
隆著 大日本図書より)