長文集  11月4週  ○過去の集落を(感)  tu2-11-4
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2010/08/17 14:56:41
 【1】過去の集落を成り立たせていたパラ
ダイムのことを、私は「依存型共生」と名づ
けました。「依存型」というのは、技術が依
存型だということです。
 【2】住宅が単体では成立し得ないような
依存型の技術しかなかった時代には、それを
補うために必然として「共生関係」が生まれ
ます。台風対策として防風林を必要とする、
備瀬の木造住宅など は、その典型です。
 【3】現代は、技術の進化によって、高度
成長期時代を境にパラダイムが一気に変わり
ました。依存型の技術が自立型の技術にガラ
ッと変わる瞬間があったのです。一気に自立
型技術に変わっていって、その自立型の技術
をどんどん進化させてきたのが、現在の我々
の暮らしです。
 【4】自立型の技術を手に入れてしまうと
、もはや我々は、環境や隣人と共生する必要
がなくなり、自分だけでよくなります。その
結果として、家も人も孤立していきます。で
すから現代のパラダイムを「自立型孤独」と
名づけました。
(中略)
 【5】昔は、外とつながっていなければ、
個人単位では生きていけませんでした。街全
体の関係性の中で暮らしていたので、人間関
係も濃厚でした。ところが、それが一気に変
容して、個人単位で自由を謳歌できるライフ
スタイルができあがりました。【6】便利 
で、個人が自立した生活は、非常に価値のあ
るものだと我々は思い込んできました。しか
し一方で、人間関係は失われ、地域のコミュ
ニティも希薄になりました。【7】便利で個
人主義的な価値を手に入れることは、関係と
いう価値を失うことでもあったのです。その
結果として浮き彫りになってきたのが、子ど
もや老人など、社会的に弱い立場の人たちの
問題です。∵
(中略)
 【8】昔の住宅は不便でした。その不便さ
を補うためには、外に対して働きかけること
が重要でした。その外への働きかけが、豊か
な外の環境を作り上げていました。つまり、
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
不便さが豊かさを作っていたのです。【9】
ところが、現在の住宅のように便利になる 
と、不便さを補う必要がなくなります。この
結果、外との関係性を絶つわけです。外に対
しての働きかけがゼロになると、外に豊かさ
は生まれません。
 【0】つまり、便利さを手に入れてしまう
と、もはや我々は豊かさを手に入れられない
。そういう状況になっているということが、
パラダイムを整理してわかることです。
 そう考えると便利さと豊かさのどちらをと
るか、都市としての豊かさはどうしたら手に
入れられるか、という議論になります。
 この場合によく出るのが、「進みすぎた技
術によって豊かさを失っているのであれば、
もっと伝統的な、ローテクを使っていた昔の
暮らしに戻ればいい」という、伝統回帰的な
意見です。しかし、パラダイムの特質を考え
ると、それは、不可能です。便利さを知って
しまった今、もう一度みんなで不便な生活に
戻りましょうといっても、非現実的な話です

 そうなると、少し暗い気持ちにもなります
ね。便利さを手に入れられても、もう永遠に
豊かさは手に入らないのか、と。でも、実は
そうではありません。パラダイム論の特質に
従うと、もっと楽観的になれるのです。
 パラダイムというのは、同じパラダイムが
ずっと固定することは絶対にありません。今
のパラダイムは、どこかの段階で、また次な
るパラダイムに移行します。移行する先がど
う変わるのかを議論することが重要なのです

 今の都市環境のいろいろな問題の根源は「
孤立している」とい∵う状況です。恐らく新
しいパラダイムは、自立型の技術がさらに追
求されていく一方で、同時に、孤立し合って
いる状況をいかに「共生」という方向に持っ
ていけるか、ということが重要になってくる
と思います。要するに「自立型」の技術と「
共生型」の工夫とを両方成立させていくとい
うのが、次に来るであろう新しいパラダイム
だと私は思っています。

(甲斐徹郎『自立のためのエコロジー』(ち
くまプリマー新書)より 一部改変した)