1. 【1】ここでもう一度クレバー・ハンスの
誤りを思い出してください。クレバー・ハンスが計算をするというのはまちがいでした。それならば、動物たちはみんな数えることはできないのでしょうか。【2】ハトは四
粒のとうもろこしを一まとめにして
積み重ねた山と五
粒の山とを作って
置くと、これを
区別して
好んで五
粒の山をつつき、さらに五
粒と六
粒とにすると五
粒よりも六
粒を
好んでつつくという
報告があります。【3】この
実験では六
粒と七
粒とにしたところ、それは
区別できなかったということです。ハトはこのように数の大小を
ある程度はみわけられることがわかります。人間でも一度に目でみて数えられる数は七つ前後だということですから、ハトが六つと七つとの
区別がつかないのもうなずけることかもしれません。
2. 【4】この場合には同時に数の多少が
比べられるのですが、同時には
比べられない場合はもっとむずかしくなります。ツバメは
巣に七つか八つの
卵を
産んで温めますが、
卵の一つをそっととりのぞいてみると、すぐにさらに一つを
産んで
加えます。【5】また一つを
とり除くとまた一つを
産み、そういうことをくり返すと五十も
産み続けたという
報告もあります。しかし、これはツバメが数えながら
卵を
産んでいるのかどうかは
怪しいものだと思います。【6】
別の
実験では鳥は
巣の中の四つの
卵の中から二つの
卵をとり出すと気づきますが、一つだけではまったく気づかないという
報告もあります。
3. オランダのレベッツ先生たちはニワトリに一列に
並べたコメ
粒をついばませる
実験をしましたが、一
粒置きにコメ
粒を
糊ではりつけてとれないようにしました。【7】トリはすぐにそれがわかってまちがいなく一
粒置きにつつくことができました。この
訓練のあとで、二
粒置きにとれるようにしましたが、これもできます。ニワトリがほんとうに数えていたのかどうかはこれだけではどちらともいえないかもしれません。【8】いちいち、数えなくてもはがれるコメ
粒とはがれないコメ
粒とをなにかの手がかりで
区別していたかもしれないからです。∵
4. しかし、ハトの
実験の
結果ではハトは数えることができそうなのです。【9】ハトの前に一度にいく
粒もの
穀粒を
並べるのではなく一
粒ずつ出します。そして六
粒までは自由についばんで食べることができますが、七
粒めごとにはりつけられた
粒を出しそれは食べることができないようにしました。【0】これをくり返しているとやがてハトは六
粒つついては七
粒めはつつかないで見送るようになるのです。しかし、この
結果でもハトがほんとうに数えていたのかはわからないのです。六
粒まで食べる時間がわかっていて、時間の
経過で
判断していたかもしれないからです。そこで一
粒一
粒を出す間の時間をいろいろ
変えてみましたが、それでも七つめはつつかないで次を待つのは
変わりなかったのです。
5.(「動物とこころ」 小川
隆著 大日本図書より)