長文集  11月3週  ★鯨や象は(感)  wapu-11-3
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2014/09/11 10:24:58
 【1】鯨や象は、人の「知性」とはまった
く別種の「知性」を持っているのではないか
? という疑問である。
 【2】この疑問は、最初、水族館に捕らえ
られたオルカ(シャ チ)やイルカに芸を教
えようとする調教師や医者、心理学者、その
手伝いをした音楽家、鯨の脳に興味を持つ大
脳生理学者たちの実体験から生まれた。
 【3】彼らが異口同音に言う言葉がある。
それは、オルカやイルカは決して、ただ餌が
ほしいために本能的に芸をしているのではな
い、ということである。
 彼らは捕らわれの身となった自分の状況を
、はっきり認識している、という。【4】そ
して、その状況を自ら受け入れると決意した
時、初めて、自分とコミュニケーションしよ
うとしている人間、さしあたっては調教師を
喜ばせるために、そして、自分自身もその状
況の下で、精一杯生きることを楽しむために
「芸」と呼ばれることを始めるのだ。(中略

 【5】たとえば、体長七メートルもある巨
大なオルカが狭いプールでちっぽけな人間を
背ビレにつかまらせたまま猛スピードで泳 
ぎ、プールの端(はし)にくると、手綱の合
図もなにもないのに自ら細心の注意を払って
人間が落ちないようにスピードを落としてそ
のまま人間をプールサイドに立たせてやる。
(中略)【6】こんなことが果たして、ムチ
と飴による人間の強制だけでできるだろう 
か。ましてオルカは水中にいる七メートルの
巨体の持ち主なのだ。
 そこには、人間の強制ではなく、明らかに
、オルカ自身の意志と選択が働いている。
 【7】狭いプールに閉じ込められ、本来持
っている超高度な能力の何万分の一も使えな
い苛酷な状況に置かれながらも、自分が「 
友」として受け入れることを決意した人間を
喜ばせ、そして自分も楽しむオルカの「心」
があるからこそできることなのだ。
 【8】また、こんな話もある。人間が彼ら
に何かを教えようとすると、彼らの理解能力
は驚くべき速さだそうだけれども、同時に、
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彼らもまた人間に何かを教えようとする、と
いうのだ。∵
 【9】フロリダの若い学者が、一頭の雌イ
ルカに名前をつけ、それを発音させようと試
みた。イルカと人間では声帯が大きく異なる
ので、なかなかうまくいかなかった。それで
も、少しうまくいった時にはその学者は頭を
上下にウンウンと振った。【0】二人(一人
と一頭か)の間では、その仕草が互いに了解
した、という合図だった。何度も繰り返して
いるうちに、学者は、そのイルカが自分の名
とは別のイルカ語のある音節を同時に繰り返
し発音するのに気がついた。しかしそれが何
を意味するのかはわからなかった。そしてあ
る時、ハタと気づいた。「彼女は私にイルカ
語の名前をつけ、それを私に発音せよ、と言
っているのではないか」、そう思った彼は、
必死でその発音を試みた。
 自分でも少しうまくいったかな、と思った
時、なんとその雌イルカはウンウンと頭を振
り、とても嬉しそうにプール中をはしゃぎま
わったというのだ。
 鯨や象が高度な「知性」を持っていること
は、たぶん間違いない事実だ。
 しかし、その「知性」は、科学技術を進歩
させてきた人間の「知性」とは大きく違うも
のだ。人間の「知性」は、自分にとっての外
界、大きく言えば自然をコントロールし、意
のままに支配しようとする、いわば「攻撃性
」の「知性」だ。この「攻撃性」の「知性」
をあまりにも進歩させてきた結果として、人
間は大量殺戮や環境破壊を起こし、地球全体
の生命を危機に陥れている。
 これに対して鯨や象の持つ「知性」は、い
わば「受容性」の知性とでも呼べるものだ。
彼らは、自然をコントロールしようなどとは
一切思わず、その代わり、この自然の持つ無
限に多様で複雑な営みを、できるだけ繊細に
理解し、それに適応して生きるために、その
高度な「知性」を使っている。
 だからこそ彼らは、我々人類よりはるか以
前から、あの大きなからだでこの地球に生き
ながらえてきたのだ。同じ地球に生まれなが
ら、と私は思っている。
 (龍()村仁「地球(ガイア)の知性」に
よる)