長文集  6月2週  ★百年以上家具を(感)  ya-06-2
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2012/06/15 08:09:23
 【1】百年以上家具を使ったという例は別
にめずらしくはない。イギリスだけではなく
、中国でも日本でも代々その家に伝わる家具
というものがあった。使い方さえ間違えなけ
れば、家具にとって百年というのは、むしろ
短い時間と言える。【2】またかなり荒っぽ
く使ってもそう簡単には壊れはしない。最悪
の場合でも、無垢の天然木を使っていれば、
ほんの少し修理したらまた使える。東京の新
宿に「ダグ」という喫茶店があるが、その中
に使われている家具は三百年以上も前のがか
なりある。【3】そして、毎日毎日、いろい
ろなタイプの人が使いつづけているのに、今
でもまったく問題がない。それどころか、永
年使いつづけた味わいはますます深まってい
る。
 それに比べたら、車や家電製品はほとんど
のものが十年以内の寿命である。【4】そし
て、十年も使いつづけた後は、ほとんどの場
合鉄くずの価値しかない。ところが、オーク
・ヴィレッジ()の家具は、ほぼ車一台の値
で、家に必要不可欠なものがそろう。そし 
て、十年たってもまず価値が下がるというこ
とがない。【5】い や、良い家具はむしろ
十年ぐらい使い込んだ方がよくなる。こうし
てみると、無垢の天然木を使った質の高い家
具を百年使うとなれ ば、それは車や家電製
品より何倍も安く、かつ生活を快適にするの
に効果があるということが納得できる。
 【6】経済面から考えた効果は、実のとこ
ろ「百年使う家具」のもっとも重要な要素で
はない。無垢の木でできた質の高い、テーブ
ルやデスクや書棚を生活の中に入れてみると
、人間の意識が変わるのだ。薄っぺらな合板
(ごうばん)と無垢の天然木は存在感が違 
う。【7】そして、単に迫力があるだけでな
く自然素材特有の温かさと柔らかさで、私た
ちを受け入れてくれる。だから、うまくその
家具に付き合うのはむつかしいことではない
。例えば、良いテーブルの上では、自然に毎
日の食事をより大切に味わうようになる。【
8】私たちの眼の前にある食物となっている
自然の恵みに素直に感謝しながら食べられる
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
のも、無垢の木のテーブルだからこその効果
だ。会社の会議でも、せせこましいことで腹
立てている人に、なるべく百年の木目からの
メッセージをとどけるようにしてみよう。【
9】本物の木を使い、本物の造り方をした家
具は、本物の人間を育てるようになる。百年
の木目は、いまだ未熟な私たちを、控え目だ
が確実にしっかり応援してく∵れるはずだ。
そして、木の家具と対話しながらの日々は、
ほんの少しずつだが、私たちの意識を変えて
いってくれる。【0】
 本物の木の家具と永く付き合おうと思うと
必然的に二十一世紀が問題となる。「子供や
後輩をどう育てるか」が結局「二十一世紀を
どう育てるか」に結びつく。二十一世紀を担
う人間たちの基礎をどう造るかはきわめて大
切な問題であり、かつきわめてむつかしい問
題である。現在のところ、日本の公教育は、
未だ時代錯誤の「工業化時代の生産様式」で
もって、応用力のないひよわなマニュアル人
間を造りつづけている。人類の大変動期にあ
って、こんなことでは先が思いやられる。ま
た、身の周りが、安っぽい工業製品であふれ
ていたためか、若者の興味が安っぽく薄っぺ
らなものばかりに集中している。このままで
は、世界全体が刹那主義に走るか、安直なカ
ルトに走るかになってしまう。
 そんな不安を超えようとした時、そう簡単
に特効薬は見つからない。即効性の薬を求め
ること自体が、ミイラ取りのミイラ現象なの
だから。そこではやはりすぐには効果がなく
ても、ジワリジワリとそれでいて心の底深く
に一自然の声がしみとおっていくような方法
がよい。私は、ここでも「百年使える百年の
木目をもった家具」こそ、無言だが、もっと
も説得力がある対話相手のように思える。「
無垢の木の学習机を子供に買ったら、子供の
生活態度が変わっ  た。」という報告も、
何度も受けている。若い素直な感性があれ 
ば、百年以上もある木目から、二十一世紀末
までも見すえた遠大で深遠なメッセージを、
きっと読みとれるはずだ。
 なにしろ木というものは、種から発芽して
数百年から数千年生きる生命力を基本的には
そなえている。そういう基本的な生命力を人
間が木や年輪から感じ取るだけでも意味ある
ことだ。しかし、さらに重要なことは、木は
その生命を持続していた間、すなわち自らの
体を少しずつ大きくするという生産活動をし
ている間、まわりの環境を良化することはあ
っても、悪化することは全くないということ
だ。これは人間を筆頭とする動物には、絶対
に見られないことであり、この木の生き方こ
そ、二十一世紀という環境の世紀のためにも
ぜひとも我々人間はまなぶべきだろう。