長文集  8月1週  ★「食べられる」か(感)  yabi-08-1
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2012/06/15 08:09:23
 【1】「食べられる」か「食べれる」か。
「見られる」か「見れる」か。後者の用法は
許されるか否か。あるいは、そんなことを公
に議論すること自体、有益かどうか。
 いわゆる「ら抜き言葉」に関心が集まって
いる。
 【2】「どうして『ら抜き言葉』ばかり騒
がれるのか」。中間報告をまとめた第二十期
国語審議会の多くの委員は、不満げに語る。
この二年間、多方面にわたる議論をしてきた
のに、世間の受け止め方は、まるで「ら抜き
言葉」しか取り上げてこなかったようだ、と
いう不満である。
 【3】確かに報告は、敬語、方言問題から
情報化をめぐるさまざまな問題、国際社会へ
の対応など多岐にわたっている。ワープロと
字体の関係なども焦眉の課題の一つだ。しか
し、「ら抜き言葉」だけが際立って注目され
てしまった。
 【4】こうした関心の偏りも含めて「ら抜
き言葉」をめぐる落差と断絶自体が、国語問
題の現状を反映していると見ることもでき 
る。その意味で、これを国語審議会の役割を
考えるきっかけにできるし、再考する契機に
もできよう。
 【5】まず世代間の断絶が背景にある。若
者の造語に旧世代はついていけない。同世代
にしか通用しない隠語がまかり通っている。
最近その断絶は深まるばかりだ。
 【6】「ぱんぴー」は普通の人。つまり、
一般ピープルの略。「アンビリ」は英単語の
略で「信じられない」と、若者言葉は日本語
の境界さえ飛び越えていく。従来の尺度を超
えた変容が進む。この現状をどう考えたらい
いのか。
 【7】もともと地域による違いもある。「
ら抜き言葉」が普通に使われている地域もあ
る。方言の豊かさを尊重すると一方でいいな
がら、他方で、共通語の基準をたてに「認知
しかねる」と断じられることに対する反発も
あろう。
 【8】官民の意識の落差もある。世間で使
われる言葉に「お上」が口を出すのはおかし
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い。そもそも政治家、官僚がまず美しく正確
な日本語を学び、つかうべきだ。そうした発
想からの反発もある。∵
 【9】根本には、言語観の違いも横たわっ
ている。そもそも言葉は変化していくもの、
流れにまかせれば、自然に淘汰されるだろ 
う、という考え方に対して、美しい言語が文
化の基礎であり、何らかの規範でもって維持
していく必要がある、との考え方もある。
 【0】それはそれで結構なことだ。今回の
国語審議会の報告は、あくまで議論の材料と
考えたらいい。報告にもあるように、言葉遣
いについて審議会は「ゆるやかな目安、より
どころ」を示すにとどまるべきだ、という立
場をとっている。
 審議会の役割も変わってきた。当用漢字や
常用漢字を決めるなど国語政策の中核を占め
ていた時代からは様変(さまが)わりしてい
る。そうした規制を緩める方向に向いている
というだけでなく、影響力自体も弱める方向
に向かっている。当然のことだろう。
 それは、逆にいえば、教育、マスコミその
他それぞれの現場で、自分たちの言葉を考え
ていかなければならない、ということだ。時
代の変わり目で、私たちの言葉をどうしてい
くか、各自が考えていく必要があるというこ
とだ。
 その原点に戻って幅広い分野で論議を重ね
ることにしよう。

(朝日新聞社説による。表記等を改めたとこ
ろがある)