長文 10.1週
1. 【1】流行という言葉の対義語は不易だ。時代の変化に合わせて変わるものがあると同様に、時代を通して変わらないものもある。
2. 流行を意識することは、社会生活を円滑えんかつに行うために欠かせない。【2】例えば、遠く離れはな た場所に行くのに、今どき牛車ぎっしゃを使う人はいない。もちろん、人力車も使わない。現代なら自動車が普通ふつうだが、環境かんきょうへの負荷を考えて、今後は自転車になり、やがて科学の進歩によってタケコプターのような交通手段になるかもしれない。【3】こういう外見の変化が流行だ。
3. 流行の大切さについては、言うまでもない。特に、現代のようにIT技術の進歩が速い時期には、流行に乗り流行を活用することは一層重要になる。
4. 【4】例えば、今のIT技術の前線のひとつはソーシャルサービスだ。ネットによるコミュニケーションが日常化し、リアルな世界のコミュニケーションと同様に人間の社会生活を深く支えるものになっている。
5. 【5】しかし、だから、その普及ふきゅう伴うともな 弊害へいがいも当然ある。イギリスでは、ソーシャルサービスの広がりによって中学生が本を読まなくなったと言う。テレビが初めて登場し普及ふきゅうしたときも、一億総白痴はくち化が叫ばさけ れた。テレビゲームのときも、携帯けいたい電話のときも、家庭の中で多くの葛藤かっとうがあったはずだ。
6. 【6】しかし、そういう弊害へいがい乗り越えの こ なければ、新しい活用法は身につかない。流行の持つマイナス面に目を向けて過去にしがみつくのではなく、流行のプラス面を見て、その弊害へいがい知恵ちえと工夫によって克服こくふくしていくのが、最も現実的な対応と言えるだろう。
7. 【7】不易とは、外見の変化にも関わらず、変わらない本質のことだ。例えば、牛車から自動車へ、自動車からタケコプターへという変化を考えたとき、変わらないものは、ある場所から他の場所への移動そのものであり、その移動に伴うともな 周囲への配慮はいりょなど、時代を超えこ て不変なものだ。∵
8. 【8】牛車ぎっしゃの時代に、狭いせま 道をすれ違う  ちが 牛車ぎっしゃどうしで譲り合いゆず あ があったように、タケコプターの時代にも譲り合いゆず あ はある。これが不易だ。
9. このように考えると、流行と不易とは対立するものではなく、むしろ流行があるからこそ不易があり、不易に貫かつらぬ れているからこそ流行があるとも言える。
10. 【9】そう考えれば、不易と流行は、物の側にあるのではなく、人の側にあることがわかる。変化する状況じょうきょうに合わせて自分らしくあること、これが不易と流行を結びつける要なのではないだろうか。【0】

11.(言葉の森長文作成委員会 Σ)