長文集  10月1週  ○流氷の底には(感)  yu2-10-1
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2010/08/18 19:08:04
 【1】流氷の底には、植物プランクトンが
はりついています。このプランクトンをアイ
ス・アルジーといいます。アルジーとは藻類
のことで、アイス・アルジーは海氷の底には
りつく藻類の仲間で す。この藻類で、流氷
の底の部分が茶褐色になるほどです。【2】
氷の中や氷の底について冬をすごしたアイス
・アルジーは、氷が溶ける春に爆発的な大増
殖をおこないます。春になり太陽の高度も上
がって、日ざしは日一日とつよくなっていき
ます。【3】流氷が溶けていく一方、アイス
・アルジーは海水中の豊富な栄養分(無機塩
類)を得ながら、十分な日の光によって光合
成をおこない、増殖します。こうして、大増
殖する植物プランクトンは、海中の無機物を
有機物に変えて生活し、ほかの生物の餌とな
ります。
 【4】なぜ、このような大増殖が、流氷の
海でおこるのでしょうか。海の浅いところは
、本来は栄養分が少ない場所なのです。太陽
の光は、海の浅い部分にしかとどきません。
浅い部分では、植物プランクトンは光合成を
おこない、栄養を消費してしまいます。【5
】そのため栄養分は少ないのです。一方、深
海には光がとどかず、光合成ができないため
、栄養分は蓄積されていきます。しかし、表
層の植物プランクトンは、深海の栄養分を利
用することができません。
 【6】ところが、流氷の海のメカニズムは
、深海にたまった栄養分を浅いところまで上
げてくるのですから、驚きです。
 海水が凍るときは、真水の部分だけが氷と
なって、濃い塩水が海氷から海中にはきださ
れます。【7】大部分の塩分ははきだされる
のですが、一部は海氷の中に閉じこめられま
す。この閉じこめられた濃い塩水は、ブライ
ンとよばれます。知床博物館の観察会で流氷
を溶かして飲んでみたら、薄い塩味がしまし
た。これは氷の中にブラインをふくんでいる
からです。
 【8】氷の中のブラインは、時間がたつと
だんだん下に移動し て、海水中に抜け落ち
ていきます。流氷からはきだされたブライン
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や氷が溶けた冷たい水は、表層の海水より重
いので、海の底まで沈んでいきます。そして
、入れかわりに、深層の海水が浮かび上がっ
てくるのです。【9】これを湧昇(ゆうしょ
う)流とよびます。∵
 流氷があることで、海の水が大きく循環す
るのです。それによって、海の底にある栄養
分が浅いところまで上がってきて、植物プラ
ンクトンがこの栄養分を利用できるようにな
るのです。【0】湧昇(ゆうしょう)流のあ
るところでは、この栄養分と日光により植物
プランクトンが増殖し、これを餌にする動物
プランクトンや魚類も集まります。そして海
鳥も海の哺乳類も集まってくるのです。
 オホーツク海が豊かな海となっているもう
ひとつの理由は、シベリア大陸を流れてオホ
ーツク海にそそぐアムール川にあります。ア
ムール川はそれ自体が海氷をつくりだす役割
をはたしているのですが、流域の湿原や森林
から供給される栄養塩類や微量元素が、オホ
ーツク海を豊かな海にしていることが、最近
の研究でわかってきました。なかでも鉄は光
合成には重要な元素で、春の植物プランクト
ンの大増殖をささえています。また、アムー
ル川から供給された栄養物質や河口付近の大
陸棚の栄養分は、オホーツク海の中層を流れ
る海流によって、北海道近海まではこばれま
す。
 日本とヨーロッパをむすぶ航空路は、シベ
リア上空を通ります。日本を発った航空機は
、日本海をぬけ、ロシア沿海地方のシホテー
アリン山脈の大森林(ここも世界自然遺産で
す)上空を通って、アムール川流域を横断し
ます。眼下には、大きく蛇行して流れる大河
アムール川と、流域の大湿原地帯をのぞむこ
とができます。
 世界でも一〇本の指に入る大河アムール川
がはぐくむオホーツク海。その南端に位置す
る知床の海は、シベリアの自然とも深くつな
がっているのです。

 (中川元「世界遺産・知床がわかる本」に
よる)