ユーカリ2 の山 12 月 4 週
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◎自由な題名

★清書(せいしょ)

○ブナ林などの落葉広葉樹林では(感)
 【1】ブナ林などの落葉広葉樹林では、初夏にいっせいに開葉が起こります。そして、この開葉とともに、葉っぱには大量のイモムシが現れます。彼らは柔らかくて栄養に富んだ若葉を好んで食うのです。【2】イモムシの量も中途半端ではありませんので、これをめがけて多くの小鳥が集まってきます。冬の間は、幹や枝でそれぞれの得意な方法を駆使して餌をとっていた連中が、みな葉っぱに集中するのですが、このなかには、樹をつつくアカゲラなどのキツツキも含まれます。【3】温帯において、なぜ鳥の繁殖期が初夏なのかに関しては、この時期が森のイモムシに代表されるように、ヒナの餌がもっとも豊かな時期であり、これにあわせて繁殖を開始するように鳥たちが進化してきたからだと考えられています。
 【4】さて、樹木の葉っぱはイモムシに食われっぱなしであるかのように、私たちは考えがちですが、植物も食われないように防御しているのだということが知られています。樹木の葉っぱは開葉後急速に堅くなっていきますが、これは水分含量が減っていくためです。【5】同じことは、庭木でも簡単に観察できますが、柔らかいのは本当にわずかの期間です。また、葉っぱは堅くなると同時に窒素の含有量を減らしていきます。窒素は生物にとって重要な栄養源ですので、このことは葉っぱが昆虫の餌としての価値を急速に下げていくことを意味しています。【6】そして、葉っぱはタンニンに代表される毒物をためるようになります。
 このように、植物が昆虫に食われないように防御していることは、生態学者には比較的知られた事実だったのですが、この十五年ほどの間に、もっと積極的に防衛していることが明らかになってきました。【7】それは、植物が葉っぱを植食者にかじられると、植食者の天敵を呼んでいるという事実です。実験がおこなわれたのは、植物と、その大害虫であるナミハダニと、捕食者のチリカブリダニの三者関係についてです。【8】ダニにはいろいろなダニがいて、植物食のダニと肉食のダニもいるわけです。
 実験は、Y字型の試験管を用いておこなわれました。捕食者であるチリカブリダニを試験管の一つの端(はし)に位置させ、そのまま進むと∵分岐にさしかかりどちらかの道(試験管)を選ばざるを得ないという設定です。【9】第一の実験では、分岐の一方からは空気、もう一方からはナミハダニの餌となるリママメという植物の葉っぱの香りが流れてくるしくみに設定しました。すると、チリカブリダニは五十四対二十六の割合でリママメの香りのほうを選びました。【0】これは、チリカブリダニからするとリママメのあるところ、餌のナミハダニがいるからだと解釈されます。
 第二の実験では、片方にはリママメのかじられていない葉っぱ、もう一方にはナミハダニにかじられたリママメの葉っぱが置かれました。するとチリカブリダニは、今度は五十一対十一の割合でかじられた葉っぱのほうを選んだのです。ここでは、いくつかの可能性が考えられます。そこで、かじられた葉っぱ、ナミハダニそのもの、ナミハダニの糞(ふん)の三者について、さきと同じY字迷路の実験をおこなったところ、かじられた葉っぱそのものに誘因性があることが明らかとなりました。つまりリママメは、ナミハダニにかじられるとチリカブリダニを誘引する物質を出していると考えられます。
 以上のことは、「敵の敵は味方」の関係を植物が積極的に利用していることを意味します。植物はまさにだまって食べられているわけではありません。かじられると、植食者の天敵を積極的に呼んで敵を退治してもらっているというわけです。

 (江崎保男著『生態系ってなに?』による。一部省略がある。)